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私の祈り
午年(1954)生まれの年賀状
江場 克夫
20世紀は科学の進歩が著しかった反面、戦争の世紀と言われるほど大きな戦争が繰り返され、多くの命が失われた人類にとって忘れられない時代でした。20世紀末にベルリンの壁が崩れ、ソヴィエト連邦が崩壊し東欧の共産主義国が自由を得たときに、私は国境の無い世界が訪れるものと思っておりました。ところが民族主義が台頭し、それに宗教問題が加わって、人類は新たな殺しあいを再開したのでした。
21世紀はどのような時代になるのか、20世紀の殺戮の歴史を反省して、人種や宗教の違いを越えてお互いを認め合う世界が始まると思っていたところ、2001年9月11日の米国での同時多発テロを発端として新たな取り返しもつかない大量殺人が起こる可能性を持った危惧に満ちたスタートになってしまいました。
この暗いスタートと同時に不況も深刻さをおび、多くの失業者を生み、また仕事についている人も相当の無理を強いられている状態です。
この影響は、日本の世界に誇るべき医療保険制度にも及んで、国民一人びとりが平等に高度な医療行為を受ける権利をも危ういものにしているように思えます。我々医療従事者は、当事者として一人びとりの生命の尊厳が保障された質の高い医療が、今後とも差別無しに行われることを祈りつつ、かつ実践していけるよう努力していかねばならないものと考えます。力の無い幼児や、高齢者や、障害を持つ人々の尊厳も当然守っていかなければなりません。立場の弱い人々が、自分の存在が他者の負になるものと負い目を感じて生きていくことも罪です。一人びとりの人間が尊厳を持って生きていけるように手助けをするのが、医師をはじめとする医療従事者に与えられた義務であると思います。
科学技術の進歩は便利で快適な生活を我々に与えてくれましたが、同時に環境を破壊し新たな問題も生み出しています。草食動物である牛に生産の効率を求めていわば共食いをさせて狂牛病という新しい病気をも人間はつくり出してしまいました。この問題は、自然の節理に反する人間の横暴さ傲慢さを端的に示す例だと思います。人間が効率重視、利益目的に開発した技術が、人類の脅威になってきた今までの歴史を再び省みなければいけません。このような例より、新しい医療技術が人類の未来に憂いを残すことにならないように監視していかなければならないものと思います。
効率の良さを求め、利益を追求して、昔から持っていたさまざまな良い点を失った今日の日本は、現代社会の持つさまざまな矛盾を端的に表わしている国のように思えてなりません。
多くの問題が人々の心を渇いたものにして、犯罪に向かわせたり、孤独のまま死を望む高齢者や病人を生んでいます。このような今日の病んだ日本の社会問題にも、医療従事者はその持てる知識と力を役立てていかなければならないものと思います。
我々は、とかく自己中心的になり、おごり高ぶりやすい性質を内に持っています。それが種々の問題を生む原因にもなります。
滅びに至る門は限りなく広く、それは一見安易な道に見えるのです。
今は、試練の時ですが、我々はこれに打ち勝ち、新しい生命(いのち)に至る道を歩み、恵みの時を迎えられるよう備えていきましょう。
(太白区長町南4-5-28 仙台いたみのクリニック)
午年生まれの年賀状 : 仙台市医師会報 2002.1 第451号
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