加古里子の祈り
納豆の4人組
私が「さるよりさわぐ3年生」の時、どこで聞いたか、折からの東北ききんを救うため、新聞社が義援金を募っているのを知った。ラジオの子どもニュースか写真の影響だったのだろう、同級のギンちゃんなど3人と語り、先生や親には内証で、学校裏の納豆の卸店に「東北の子にお金を送りたいから売らせて」ととび込んだ。太ったおかみさんの顔がみるみるゆるみ「えらい、おばちゃんも手伝うよ」と涙声になった。当時藁(わら)づとに入っていた納豆をどっさり出して「コレコレの値段で売って、元の代金をひいた残りを送ってやりな」と、カゴまで貸してくれた。
そこで少し離れた家の戸をあけ、来意をのべた。4人が交々(こもごも)事情を話すと、どこも快く買ってくれた。ステテコのおっさんなんか「カラシがねえんじゃ」と言いながら、たくさん買ってくれた。こうして納豆屋へ毎日往復して一週間後に、おばさんが精算してくれた。総額は忘れたが「商売ってもうかるんだな」の印象だけが残っている、そのお金を、なんと新聞配達の店へいって、送ってくれと頼んだのだ。もちろん受領書なんかもらった記憶がないが、その足で殊勝にも氷川神社によって、小暗い社殿に4人の坊主頭をそろえ、うまく役に立つよう祈った。貧しかったが、大人も子どもも、疑うことを知らぬ、情にあつい時代であった。
平成15年の今年、東北・北海道は冷害不作との由。小暗い神社の風景の中、悪戯(いたずら)坊主たちを祈らせたり、おばちゃんを泣かすことが起こらぬよう案じている。
加古里子 : 著 : 「納豆の4人組」 :こころの風景 : 2003年12月18日朝日新聞統合版
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