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癒しの音楽V:心安らぐ音楽〜クラシック音楽の楽しみ方
2003年10月25日仙台市太白図書館での講演の全文を紹介します
「心安らぐ音楽とは・・・」
最初に、心安らぐ音楽の具体例を聞いていただきます。
1.ブラームス作曲 : ワルツ第15番
タール∽グロートホイゼン(ピアノ・デュオ)
2.レオ作曲 : 「めでたし女王、あわれみ深き母」より終曲
クリストフ・ルセ指揮レ・タラン・リリク、ソプラノ独唱:サン・ヌ・ピオー
2003年5月に発売になったばかりのCDであるが、全曲が素晴らしい癒しの音楽のCDである。
3.マスカーニ作曲 : 「歌劇カヴァレリア・ルスティカーナ」より間奏曲
カラヤン指揮ベルリン・フィル
4.マンフレディーニ作曲 : 「クリスマス協奏曲」より第1楽章
カラヤン指揮ベルリン・フィル
3、4はカラヤンとベルリンフィルの全盛期の演奏でお聞きいただきました。1960年代後半から1970年代のベルリンフィルにはソリスト級の粒ぞろいの奏者が集まっていました。その音色は華麗で1時代を築いております。
心安らぐ音楽はまず良い音楽を選び出すこと、それを良い演奏で聞くことです。今回は3回目の講座になりますので、今までの聴取者のご意見から「多くの音楽を短く」ではなく「1曲をじっくり全曲聴いていただく」ために曲目を限定させていただきました。
「モーツアルトは素晴らしい」
1.交響曲 第29番 第2楽章
オトマール・スイトナー指揮ドレスデン国立管弦楽団
旧東ドイツ時代のドレスデン国立管弦楽団(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団)は、独特のいぶし銀ともいえる音色を持っていました。このオーケストラも東ドイツの名人の集団でしたが、ソロで目立つよりも、全体の音色を大切にしたオーケストラでした。そのため、練習時間が長くなるのは全くいとわず、自分たちの音色が出るまでとことん練習を積み重ねたオーケストラでした。その音色を受け継いでいくために、常時ドレスデンの音楽学校の若い学生も練習に参加させていたそうです。
この時代のドレスデン国立管弦楽団を、日本でも親しまれたオトマール・スイトナーが実にゆったりと演奏しています。この曲の良いところを存分に表した名演奏です。
2.ピアノ協奏曲 第20番 第2楽章
クリフォード・カーゾン独奏、ベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管弦楽団
3.ピアノ協奏曲 第27番 第2楽章
クリフォード・カーゾン独奏、ベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管弦楽団
クリフォード・カーゾンは優れたピアニストですが、自分に大変厳しい人で録音が少ないのですが、ここでは作曲家として有名なベンジャミン・ブリテンが指揮棒を取り、普段は指揮者無しで演奏するイギリス室内管弦楽団と静かにかつ雄弁に演奏しています。モーツアルトの時代は著作権のなかった時代ですので、自分で作曲してコンサートを開いてその収入で生計をたてたり、生徒に教えることで生計を立てたり、お金持ちの貴族をスポンサーにして生計を立てていました。そのため、独立して活動していたモーツアルトは、作曲とコンサートで主に収入を得ていましたが、短調の曲は聴衆が好まなかったために、ピアノ協奏曲では第20番と第24番の2曲しか短調の曲はありません。そのうちの1曲の第20番の第2楽章と、27曲のピアノ協奏曲のうちの最後の第27番の第2楽章をお聴きいただきました。モーツアルトのピアノ協奏曲は優れた曲が多く、特に第9番、第17番から第27番は素晴らしい独特の世界を作っています。 「郷愁をさそうメロディー」
モーツアルトの素晴らしい音楽をお聴きになって皆さんとっても良い気持ちになられたことと思います。モーツアルトの曲を聞かせて乳牛を育てるとお乳がたくさん採れるそうですし、植物はたくさん実をつけるそうです。皆さんも機会がございましたら、モーツアルトの音楽を是非お聴きください。
ここで、気分転換として、郷愁をさそうメロディーとして、スラブ系のラフマニノフとチャイコフスキーそれにドヴォルザークの音楽を聞いて頂きます。
1.ラフマニノフ作曲 : 「パガニーニの主題による狂詩曲」より「アンダンテ・カンタービレ」
アシュケナージ独奏、アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団
2.チャイコフスキー作曲 : 「なつかしい土地の思い出」より第3曲「メロディー」
アナスタシア・チェボタリョーワ独奏、イゴール・ボルタツェフのピアノ伴奏
3.ドヴォルザーク作曲 : 「交響曲第8番」より「第3楽章」
ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィルハーモニー 「一般的には癒しの音楽とは考えられていない音楽」
1.マーラー作曲 : 交響曲第5番 第4楽章
ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団
癒しの音楽の講座は今回で3回目ですが、今までいろんな質問を受けてきました。そのうち、マーラーの音楽は癒しの音楽にはならないのではないかとの質問がありました。マーラーの音楽は長大なものが多く、全曲を聞かないとなかなか分からないことが多いのです。交響曲第3番や交響曲第9番は全曲を聞いて始めてその素晴らしさ、意味に気付く代表例だと思います。でも、全曲を聞くと1時間半はかかりますので、それだけで講座の時間は終わってしまいます。
そこで、ここではイタリアの映画の巨匠のルキアーノ・ヴィスコンティが「ベニスに死す」の中で使ったことで一躍有名になった交響曲第5番の第4楽章をお聴きください。
たくさんの演奏があるのですが、ハンガリーの名指揮者ショルティがアメリカを代表する世界的なオーケストラのシカゴ交響楽団を指揮して、そのシカゴ交響楽団の機能美を充分に発揮した演奏を選んでみました。
2.ワーグナー作曲 : 歌劇「ロ−エングリン」序曲
エフゲニー・スヴェトラーノフ指揮ソヴィエト国立管弦楽団
ワーグナーは、劇的な表現と、ヒットラーのナチスがその音楽を宣伝に利用したことなどの理由により、癒しの音楽にはならないと思っていらっしゃる方もいるものと思います。でも、この「ローエングリン」序曲は壮麗でありかつ厳かであって癒しの音楽になるものと思います。前のマーラ−の交響曲第5番の第4楽章がイタリアの巨匠ヴィスコンティが映画「ベニスに死す」に使用したとするなら、この「ローエングリン」序曲はわが日本が誇る手塚治虫氏がその代表作のひとつであるTV映画「鉄腕アトム」の第1話「アトム誕生」に使ったことで有名です。演奏は、いろいろありますが、ソヴィエトの巨匠スヴェトラーノフさんが手兵のソヴィエト国立管弦楽団を指揮した名演奏の記録がありますので、お聴きください。
3.ラター作曲 : 「レクィエム」より「ピエ・イエズス」
ティモシー・ブラウン指揮ケンブリッジ・クレア・カレッジ聖歌隊、シティ・オブ・ロンドン・シンフォニア
ラターは1945年生まれの作曲家です。いわゆる、現代音楽は癒しの音楽にはならないとお考えの方が多いものと思われます。でも、このラターの「レクィエム」が作曲されたのは、1985年のことで、合唱をやられている方には有名だと思いますが、ラターの作品には、癒しの音楽になる曲が数多くあります。このCDのほとんどの曲も、癒しの音楽になるものです。
4.映画「アンダーグラウンド」より「アンダーグラウンド・タンゴ」(プレコヴィッチ作曲)
映画「アンダーグラウンド」サウンドトラック盤
この曲はクラッシックではないのですが、私が見た映画「アンダーグラウンド」の中で特に印象深いものでしたので、取り上げました。映画の冒頭はナチスのサラエヴォの空襲で始まるのですが、その場面がちょうどこの映画が上映されていた頃の、NATO軍のユーゴスラヴィア爆撃につながるのです。この映画は、カンヌ国際映画祭でグランプリをとった映画ですが、ユーゴスラヴィアで第2次世界大戦から近年の民族紛争までの長い間の戦争(殺し合い)をテーマにしたものです。第1次世界大戦もセルヴィアから始まったわけですが、そこから第2次世界大戦そしてチトー政権下の一時的な平和な時を除いて近年のボスニア・ヘルツェコヴィアを含むユーゴスラヴィアの民族紛争まで、ずっと戦争をやっていたのです。映画はその間の殺し合いを描いていますが、次々と人々が殺されていく様子が、ヴァルカン・ミュージックというこの地方の様々な文化が溶け合ったリズミカルな音楽にのって進みますので、いつのまにか死という厳かなものという感覚が麻痺してしまいます。「人ひとりの命は地球よりも重い」という言葉もむなしいものに思えます。そのような、殺し合いと破壊の終わりに近いシーン、廃墟の中でこの曲が流れるのです。いろいろなことが、こころに到来します。
私の大好きなサッカープレーヤーでかつて名古屋グランパスエイトに在籍し、現在セルビア・モンテネグロのサッカー協会会長のドラガン・ストイコヴィッチが、かつて「私が日本に来て、日本とは何て平和な国なんだろうか。きっと日本人は第2次世界大戦の敗戦で実に多くのことを学んだ国民なのだ」と言った言葉が思い起こされました。昨今のように、平和な日本ももしかしたらまた戦争に巻き込まれるかもしれないような状況で、この映画は強烈な印象を、その音楽と共に私に与えてくれました。
以上、癒しの音楽とは一般には考えられてない音楽を4曲お聴きいただいて今回の講座を終わらせていただきます。 |