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「癒しの音色」を持つオーケストラ(上)
私のクラシック音楽愛聴歴は50年を超え、開業も18年を超えた。その経験より、クラシック音楽の中には「癒しの力」を持つものがあり、開業を機に来院する患者さんの心に優しく疾痛の緩和作用がある音楽をクリニックで流している。また、「癒しの音楽」「音楽療法」としてクリニックのホームページで公開したり、太白図書館で講演したりする機会も頂いた。音源も自分で選ぶため、収集したCDもかなりの数になっている。そのうち演奏家の奏でる音色自体に癒しの効果があると気付くようになった。
演奏家の集団であるオーケストラの音色にも特色があり、世界遺産とでも呼べる音色を持ち、聴く者の心に深く染み入る演奏を行うものがある。その代表的なオーケストラとその演奏の記録について述べる。今回はロイヤルコンセルトヘボー管弦楽団である。絹の肌触りを想わせる独特の深い音色を持つ弦楽器群をベースにして、その弦楽器群といつもは溶け込み、時に力強く響き渡る金管楽器群。実に魅力的である。
メンゲルベルが指揮した劇的なバッハの「マタイ受難曲」、ヨーゼフ・クリップスが指揮したモーツァルトの第21番から第41番までの交響曲集。ヨッフムの指揮したライヴのブルックナーの交響曲集。コリン・ディヴィスの指揮したハイドンの後期交響曲集やストラヴィンスキーの三大バレー曲。アーノンワールが指揮したモーツァルトの作品集。ベイヌム指揮のブラームスの交響曲全集とグリューシオーを独奏としたヴァイオリン協奏曲。ベイヌムとハイティンクの指揮したドビュッシーの管弦楽曲集。ハイティンクの指揮したブラームスの交響曲全集と2つのピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲、それにマーラー及びブルックナー、さらにチャイコフスキーの交響曲全集。コンドラシン指揮のR・コルサコフの「シェエラザード」。ドラティ指揮のチャイコフスキーの眠りの森の美女全曲。バーンスタイン指揮のマーラーの交響曲第9番とベートーヴェンのミサ・ソレムニス。以上の演奏の記録は、この素晴らしいオーケストラの代表的な名盤であり、これからも聴く人の心に平穏や、爽やかな興奮をもたらし続けるだろう。(宮城保険医新聞
1415号 2010.11.25掲載)
「癒しの音色」を持つオーケストラ(中)
第1回目は音色自体に癒しの力がある魅力的なオーケストラの一つであるロイヤルコンセルトヘボー管弦楽団について述べた。2回目は世界で最も古く460年以上の歴史を持つドレスデン国立管弦楽団を取り上げる。
このオーケストラも独特の深い渋みを持つ弦楽器群を主体として、その上に木・金管楽器群が彩りをそえ、まるでオーケストラ自体が一つの楽器になったのかのような驚異的アンサンブルを特色としている。その独特の音色を奏でるため、世界一の練習量をこなすという。このオーケストラの全盛期は、ドイツが統一される前の東ドイツ時代、しかもフルートのトップにヨハネス・ワルター、ホルンのトップにペーター・ダム、クラリネットのトップにミハエリクがいた時代だと思う。団員のトップはドレスデン音楽大学の教授を勤め、優秀な学生をこのオーケストラに時々エキストラとして入れて、若いときから伝統的な音造りを教えたという。
その伝統的な音色を楽しめる代表的なものは、オトマール・スウィトナー指揮のモーツァルトの第28番から第41番までの交響曲集や嬉遊曲集、「魔笛」「後宮よりの逃走」「フィガロの結婚」のオペラ、スッペの序曲集、ウィンナワルツ集、クルト・ザンデルリング指揮のブラームス交響曲全集、ウェーバーのクラリネット協奏曲集、ボロディンの交響曲第2番、ルドルフ・ケンペ指揮のR・シュトラウス管弦楽曲集、ウィンナワルツ集、サヴァリッシュ指揮のシューマンの交響曲全集、ブロムシュテット指揮のベートーヴェン及びシューベルトの交響曲全集、モーツァルトのホルン協奏曲集、フルート協奏曲集、コリン・デイヴィス指揮のシューベルト交響曲全集、レグナー指揮のブラームスのハンガリー舞曲集、若杉弘指揮のベートーヴェンの英雄交響曲集、ワーグナーの序曲集などである。
しかしドイツ統一後、東ドイツの持っていた伝統的なものや文化は失われてきている。オーケストラも国営から西側の企画がスポンサーにつき、ミニ・ベルリンフィル化(国際化)が進みつつある。460年以上の伝統を持つこの素晴らしいオーケストラの伝統がいつまで維持出来るか、危惧している。(宮城保険医新聞
1416号 2010.12.5掲載)
「癒しの音色」を持つオーケストラ(下)
これまで世界遺産と呼んでもよい2つのオーケストラを取り上げた。今回は世界最高と言われる2つのオーケストラ、ウィーンフィルとベルリンフィルを取り上げる。どちらも多くのファンを持ち、世界最高と賞賛されている。
まずウィーンフィルはオーストリア帝国の主都のオーケストラとして、始めはウィーン出身者ばかり、その後はオーストリア・ハンガリー帝国領の出身者、現在では、世界中から優秀な奏者を集めている。ウィンナホルンやウィーン式オーボエという独特の音色を持つ楽器を有し、名指揮者のワルターや多くの富豪が私財を寄付し、ストラディバリウスなど世界的名器を楽団の所有物として持っており、美しい音色を奏でる。しかし独特の音色を持つ楽器の製作者の後継者を残せず、ヤマハ楽器が楽器製作に協力したり、外国製の管楽器を使わざるを得ないようになったりしている。ウィーンフィルの全盛期は名指揮者カール・ベームやカラヤンが生きていた1970年代後半から1980年代までであり、奏者を世界中に求めないとその美質を出せなくなってきている。
ベルリンフィルはどうだろう?フルトヴェングラーの時代はまさにドイツ的と称される合奏力と音色を持ち、カラヤン全盛期の1970年代後半までは、世界中からソリスト級の奏者が集まり驚異的合奏力ときらびやかな美しさで世界中のファンを魅了していた。今でも合奏力は世界一であり、音量では他の楽団を引き離している。また世界中の音楽家が入団したがることも間違いない。それでは魅力的かと問われれば答えに窮す。全盛期のベルリンフィルの魅力は無いのである。
ウィーンフィルもベルリンフィルも共に世界最高のオーケストラであることを競ってきた。しかし、両者とも全盛期の魅力を失い、またドイツのオーケストラにミニ・ベルリンフィル化とも言うべき状況が生じている。技術力と音量ばかりが高まり音色に特徴が無くなってきている。グローバリゼーションがオーケストラにも及んでいるかのようだ。技術優先で、没個性的な音楽家の育成にも問題はありそうだ。
過去の演奏の記録に癒しや安らぎを求められても今後のものに癒しや安らぎを求められるものか憂慮している。(宮城保険医新聞 1417号 2010.12.15掲載)
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