音楽療法
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音楽療法

 音楽療法では、実際患者さんの治療のために行動療法として実践で行われるものがあります。それは、患者さんの好きな音楽をテープやCDで流して、それにあわせて患者さんが、歌ったり踊ったり、拍子をとったりりする治療法です。しかし、私がこのなかで述べるのは、癒しの音楽(ヒーリングミュージック)についてです。現在、市場に出ている癒しの音楽は様々なジャンルのものですが、そのなかでもクラシック音楽について述べます。
 クラッシック音楽も、キリスト教が確立した3世紀ころからの音楽から現代音楽まで非常に多くの曲が含まれます。その中でも、癒しに良いものは、私たちの心に響いてくるものでなければなりません。当然、曲も癒しにふさわしいものでなければなりません。かつ、演奏も優れているものでなければ心には響いてきません。当クリニックでも、痛みを抱えて早く自分の診察の順番が来るのを、いらいらしながら待っている患者さんもいますので、待ち時間になるたけ患者さんの心にやさしく響く音楽をかけるように努めています。
そのような、患者さんの心に響く音楽のなかから、私の推薦出来る音楽を述べようと思います。優れた音楽を聴いて、診察を待っていらっしゃる患者さんの中には、その心地よさに眠り込んでしまい、自分の名前が呼ばれてもなかなか診察室に入ってこられない患者さんもいます。そのような、患者さんを診るたびに、優れた音楽には、痛みを持ち傷ついたこころを持つ人の中に、深く優しくしみとおっていくことを改めて感じさせられます。
 まずは、グレゴリオ聖歌が歴史上最初の音楽として上げられるでしょう。グレゴリオ聖歌は、祈りのための音楽としてそもそも作られたので、魂の癒しにふさわしいものが多く含まれます。全曲となると、CDで15枚にもなり、似たような曲想が何度も出てきますので、かえって忍耐を必要とすることもありますので、代表的な名盤であるシロス修道院合唱団の「グレゴリアン・チャント」(東芝EMI)がお薦めです。また、シャンティクリアの演奏は、グレゴリア聖歌の良いとこを集めた気持ちの良い好演です。
グレゴリオ聖歌のあとに続く、心にやさしく響く、聞いていると天国にも上るような気持ちにさせてくれる音楽は、パレストリーナ(1525〜1594)や、ヴィクトリア(1548〜1611)、それにラッスス(1532〜1594)の音楽でしょう。
 映画「アマデウス」の中で、モーツアルトを毒殺したことを暗示させる当時のオーストリアの宮廷楽長のサリエリが、少年時代に教会で声楽合唱による音楽の美しさに、自我を忘れうっとりして音楽家への夢を祈るシーンが出てくるが、まさにその場面を彷彿させるのが、この三人の作品であるといえでしょう。
 パレストリーナには、「教皇マルチェルスのミサ曲」やたくさんのミサ曲、モテット集があり、hyperionレーベルよりオドネル指揮ウェストミンスター合唱団の名演が、またナクソスレーベルよりサマリー指揮オックスフォードカメラータのこころ暖まるCDが出ています。
 ヴィクトリアにも、「アヴェ・マリア」という珠玉の小品や、「レクィエム」やミサ曲などが美しく、hyperionレーベルよりデヴィド・ヒル指揮ウェストミンスター大聖堂聖歌隊、ギメルレーベルよりタリス・スコラーズの名演のCDやナクソスレーベルよりサマリー指揮オックスフォードカメラータの清純な演奏のCDが出ています。また、「聖週間のためのレスポンソリウム」も素晴らしい音楽で、クリストファー指揮ザ・シックスティーンの演奏や、タリス・コラーズの名演、また、デヴィド・ヒル指揮ウェストミンスター大聖堂聖歌隊の名演がお薦めです。
 ラッススには、「聖ペテロの涙」、「五声のミサ」、その他多くのミサ曲があり、ナクソスやEMIなどから多くのCDが出ています。
 ジェズアルドも美しい音楽を作っています。「聖週間のためのレスポンソリウム」にはヒリアード・アンサンブルの名演が、また「マドリガーレ集」には、コンソート・オブ・ミュージックの名演がお薦めです。
 モンテヴェルディも素晴らしい曲をたくさん描いています。特に「マドリガーレ集」は癒しの音楽として素晴らしい曲集です。アレッサンドリーニ指揮コンチェルト・イタリアーノの演奏が心のひだに染み込んでくる名演でお薦めです。また「倫理的・宗教的な森」も、深遠でこころに染み入る名曲です。コルボ指揮ローザンヌ声楽器楽アンサンブルの清らかな心洗われる演奏がお勧めです。
 また、女性聖職者かつ作曲家として有名な、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの癒しの音楽は、人の魂の奥底から出る祈りの音楽で、清廉でこころ洗われる音楽です。セクエンツァの名演がお薦めです。
 ここでドイツのバッハに先立つ大作曲家ハインリヒ・シュッツを忘れてはいけません。代表的な曲として「クリスマス物語」がまず挙げられます。この曲にはヴィルヘルム・レーマン指揮ヴェストファーレン聖歌隊の心に染み入る大変な名演奏があり、癒しの音楽としてお薦めです。また、「神聖な合唱曲」という名曲があり、この曲には旧東ドイツの名指揮者ルドルフ・マウエルスベルガー指揮ドレスデン聖十字架合唱団、ドレスデンフィルの名演奏があります。
 同様に「ダヴィデ詩篇曲集」という心安らぐ名曲には,旧東ドイツの名匠ルドルフ・マウエルスベルガーとマルタン・フレーミヒの指揮によるドレスデン聖十字家合唱団とカペラ・フィディチニアの素晴らしい名演奏があります。
 旧東ドイツはシュッツの演奏に熱心で多くの名演奏が残されていますがまだまだ復刻されずテープのままになっています。是非復刻してほしいものです。また、日本が世界に誇る名演奏家鈴木雅之指揮コレギウム・バッハ・ジャパンが、最近シュッツの演奏でも素晴らしい名演を行っています。採算の難かしいこの分野でのコレギウム・バッハ・ジャパンの活躍を期待します。また同時に東ドイツに残っている名演の復刻も是非望むところです。
 また、「葬送の音楽」も聞く人の心に強く感銘を与える名曲ですが、ガーディナー指揮モンティヴェルディ合唱団の演奏がお勧めです。同様に、「マタイ受難曲」には、フレーミヒ指揮ドレスデン聖十字架合唱団の大変真摯な優れた演奏がお勧めです。
 宗教音楽以外でも、バロック音楽にはこころに優しく響く音楽が多く、パッヘルベルのカノンやアルビノーニのアダージョなどが含まれたヒーリングミュージックとして多くのCDが出ています。中庸な解釈の、パイヤールの演奏がお薦めです。また、コレルリマンフレディーニロカテルリなどの作曲家がクリスマス協奏曲を書いています。それらの、クリスマス協奏曲を集めたCDもたくさん出ていますが、お薦めなのがカラヤンが手兵のベルリンフィルの名手たちを、夏季休暇中にサン・モーリッツの別荘に呼んで録音した優れたCDがあります。グリューバーの有名な「きよしこの夜」を含めたバロックの金管合奏曲を、ベルリンフィルの管楽合奏との組み合わせたCDがお薦めです。なにしろ、カラヤンとベルリンフィルの至福の時代の組み合わせであり、美しさの極みです。この他、イタリア合奏団のCD、古楽器演奏の端緒を築いたコレギウム・アウレウム合奏団の演奏もお薦めです。
 このうちコレルリには、「ラ・フォリア」という美しいヴァイオリンのための曲があります。美しい音色で今も多くの人を魅了するグリューミオーの名演が、またピリオド楽器で日本が世界に誇る寺神戸亮の演奏がお薦めです。また、この曲にはブロックフレーテの名手フランス・ブリュッヘンの印象に残る名演も残されており貴重です。また、コレルリには合奏協奏曲作品1から作品6までの曲や、ヴァイオリンソナタがあり、まだ開拓すべき曲が眠っています。
 また、映画「めぐり遇う朝」で有名になったマラン・マレも忘れられない作曲家です。その映画のサウンド・トラック盤で現代のヴィオールの名手ジョルジュ・サヴァールが素晴らしい演奏をしていて聞く者の心に染み入ってきます。
 また、イタリアのガブリエリという作曲家は、金管合奏曲にすぐれた名曲をたくさん残しています。ナクソスレーベルから出ているロンドン・シンフォニー・バンドの演奏は、曲目も多く、演奏も素晴らしいもので、こころに素朴な印象を残してくれる名演奏です。また、「シンフォニア・サクラ」という合唱つきの壮大な名曲があり、パロット指揮タヴァナー合唱団他が大変見事な名演奏を示してくれます。
  ここで、アルビノーニの作った、素晴らしい「合奏協奏曲集作品9」も、忘れてはならない名曲です。演奏では、オーボエの名手ホリガーやモーリス・ブルグ、ヴァイオリンの名手フェリックス・アーヨなどの豪華な独奏者と競演した、イ・ムジチ合奏団の演奏が素晴らしくお薦めです。
 また、フランスの作曲家クープランの作曲で、「リュリ賛」という楽しい曲があり、パイヤール指揮パイヤール室内管の名演奏がお薦めです。
 さらに、イタリアの名作曲家ドメニコ・スカルラッティは鍵盤楽器の名手であり、また作曲家としても有名で、その代表的な「チェンバロ・ソナタ全集」にスコット・ロスの素晴らしい名演奏があり、またソナタ選集には、個性的な名演奏で世界中の人々を魅了したウラジミール・ホロヴィッツのモノーラル時代と奇跡的復帰を果たした後の感動的なステレオ録音の名演奏があり、いずれもお薦めです。
 ここで中世の吟遊詩人の音楽の名残を残すジョン・ダウランドの「リュート歌曲集」もこころ洗われる名曲です。ルーリー指揮コンソート・オブ・ミュージックの演奏が素敵です。
 ヘンデルの、「ハープ協奏曲」も優雅でこころに深く染み入ります。ラスキーヌのハープ独奏、パイヤール合奏団のCDがお薦めです。彼の、「水上の音楽」もいいです。古楽器合奏団の火付け役ともいうべきの、コレギウム・アウレウム合奏団の演奏がヘンデルの音楽の良さを、奇をてらわず素直に出していてお薦めのCDです。「合奏協奏曲作品6」もお薦めです。全曲では、カール・リヒター指揮ミュンヘンバッハ合奏団の演奏やトレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンソートの名演が、抜粋ではカール・シューリヒト指揮のバイエルン放送交響楽団の名演奏がお薦めです。
 ヘンデルといえば、「メサイヤ」と思い浮かぶ人も多いでしょう。全曲をお聞きすることをお薦めしますが、言語が英語であり、なかなか全曲聞くのに骨の折れる人も多いものと思われます。抜粋盤も出ていますが、多くは満足の得られるものではありません。全曲盤から、お好みの曲を選んでお聞きするのがよいでしょう。
お薦めなのは、古楽器では、ガーディナー指揮イギリスバロック合奏団、ピノック指揮のイングリッシュコンソート、クリストファーズ指揮ザ・シックスティーンの演奏が推薦されます。現代楽器の演奏では、ドイツ語での演奏ですが、カール・リヒター指揮ミュンヘンバッハ合奏団の演奏が何と言っても一押しの名演です。モーリス・アンドレやピルグラムなど当代第一の名演奏家を迎えていることもありますが、曲の本来の持つ力強さがじかに伝わる感動の名演です。リヒターには、後日ロンドンフィルを振った英語の言語版もあるのですが、リヒターの全盛時代に手兵ののミュンヘンバッハ合奏団と演奏したドイツ語盤には、曲の持つ本来の力強さでは当に及びません。あとは、クレンペラー指揮のフィルハーモニア管弦楽団の演奏も推薦できます。クレンペラーの、本来持っているスケールの大きさがよく表現された名演です。メサイヤは編曲版も多いのですが、現代楽器用に大型オーケストラ用に編曲された演奏の中に、ビーチャム指揮のロイヤルフィルの名演がありますが、これはマニア向けでしょう。でも、一聴の価値はあります。ヘンデルには、この他まだ録音されていない多くの名曲が残されています。ベルリンクラシックスからヘルムート・コッホ指揮の「ユダス・マッカベウス」や「イェフタ」、「サウル」、「ヘラクレス」他からの有名な合唱曲を録音した名盤が出ていますので、今後の新録音に期待しましょう。
 この他、ラモーには古楽合奏団の始祖ともいえるコレギウム・アウレウム合奏団の演奏で「オペラのバレー音楽名曲集」や、「クラブサン曲集」に38歳で惜しまれつつ夭逝したスコット・ロスの名演奏の記録が残されており,癒しの音楽として心和み、かつ元気が出そうな素晴らしさです。
 テレマンには「水上の音楽」という魅力ある曲を含蓄深く演奏したムジカ・アンティカ・ケルンの名盤があります。また、「ターフェルムジーク(食卓の音楽)」という美しい器楽のための曲集があり、特にその中の「2つのフルート、リコーダ、チェロと通奏低音のための四重奏曲ニ短調」は有名で、ヴェンツィンガー指揮バーゼル・スコラ・カントールム合奏団の演奏が楽しさに満ちお勧めです。
 またヴィヴァルディには有名な「四季」や「調和の霊感」があり、前者には甘美な音色のフェリックス・アーヨの独奏でイムジチ合奏団のゆとりのある名盤や、斬新な解釈で曲の面白さを再認識させてくれたビオンディ独奏のイウローパ・ガランテの私たちの生気を取り戻してくれそうな演奏があります。また、後者の「調和の霊感」には、イムジチ合奏団や、イタリア合奏団の現代楽器による名演や、やはりイウローパ・ガランテの古楽器による生気あふれる演奏がお薦めでしょう。また、「海の嵐」を含むフルート協奏曲集には、イタリアの名フルート奏者のガッゼローニのフルート独奏、イ・ムジチ合奏団の名演奏、同じイ・ムジチ合奏団がかつてベルリンフィルのトップを務めたこともあるスイスの名フルーティスト、オーレル・ニコレをサポートした名演奏もお勧めです。
 また、忘れてならない作曲家に、ボッケリーニがあげられます。ボッケリーニにも、たくさんの曲がありますが、弦楽五重奏曲がお薦めです。数々の名演がありますが、きれいな弦楽器の音が楽しめるフーィルハーモニア・アンサンブル・ベルリンの演奏がお薦めです。ボッケリーニで忘れてならないのは、美しい「チェロ協奏曲」です。お勧めなのは、チェロの神様パブロ・カザルスが指揮をとり愛弟子ジャンドロンの独奏、コンセルト・ラムルーの伴奏が優雅な心落ち着く名演です。
 バロック期の大作曲家に、忘れてならないのは、モンテヴェルディでしょう。数多い作品の中で、こころにしみる名曲として、まず「倫理的・宗教的な森」が上げられるでしょう。ミシェル・コルボ指揮のローザンヌ声楽アンサンブルの素晴らしい名演があります。合唱指揮者また、宗教音楽家としてのコルボの快演が聞かれます。また、代表作である「聖母マリアのための晩課」もよい作品です。ガーディナー指揮イギリス・バロック管弦楽団他の名演が推薦です。また、名曲オペラ「オルフェオ」にも、ガーディナーの名盤がありますが、全曲は長く、独唱が苦手な人も多いことと思いますので他の曲を聴きなれて余裕が出来たら聞かれるのもよいものと思います。
 また、ビーバーという作曲家が、「53声のためのザルツブルグミサ曲」を作曲しました。最近(2000年)トン・コープマン指揮アムステルダム・バロック・オーケストラとコーラスの名演がでました。この作品も、祈りに満ちた名曲です。
 この他にも、アメリカの4人の女性ヴォーカリストの「アノニマス4」というグループが、中世の合唱曲の名曲を美しく清らかに歌い上げています。このグループの演奏も、心に染みとおる名演でお薦めです。
 また、アメリカの男性合唱団「シャンティクリア」も素晴らしいグループで、パレストリーナの「レクィエム、雅歌」や、クリスマスにちなんだ「聖夜の夜」などはお勧めです。
 次に、偉大なバッハに参りましょう。
 バッハの音楽は宗教曲だけでなく、世俗曲といわれるキリスト教とは関係なく作曲された曲にも深い祈りのこもった曲がたくさんあります。小澤征爾氏が、よく祈りを込めて演奏する管弦楽組曲第三番の二楽章「アリア」はその代表でしょう。
 まず、世俗曲といわれるキリスト教とは無関係に作曲された曲から参りましょう。上にも述べましたように、「管弦楽組曲一番から四番」があげられます。たくさんの名演奏が聞けますが、私個人的な好みからは、リヒター指揮ミュンヘンバッハ合奏団の演奏が、フルートの名手オーレル・ニコレやトランペットの名手シェルバウムの演奏が聞け、バッハの持つ溌剌としてかつ、きびきびした演奏が楽しめます。また、ロリン・マゼールが若き頃、カラヤンのベルリンフィルに劣らず人気のあった旧ベルリン放送交響楽団(RIAS交響楽団・現在のベルリン・ドイツ交響楽団)を指揮した演奏が、フルート独奏に名手ロジェ・ブールダンを、またトランペット独奏に史上最上といわれるモーリス・アンドレを起用しており、マゼールの若者らしい純粋な演奏が、すがすがしく聞くものを魅了してくれます。ここで、本来の癒しという意味からは、少し外れますが、トランペットの名手モーリス・アンドレの名前が出ましたので、彼の超絶的テクニックが聞ける名盤があります。管弦楽組曲第二番は、フルート独奏のために書かれたのですが、そのフルートのパートをアンドレが、何とトランペットで演奏しているCDがあります。伴奏は、パイヤール合奏団です。その、超絶技巧のトランペットを聞いてもこころ慰められる人もいらっしゃると思います。それは、アンドレが持っている賜物が聞く人の心に訴える力を持っているからです。さらに、アンドレには、バッハの名曲をトランペット独奏に編曲して、オルガンの伴奏や、ジャズ風にアレンジして演奏しているものがあります。バッハの持つ祈りのこころと、アンドレの持つ賜物が共鳴しているものと思われます。また、ミュンフンガー指揮の、シュツットガルト室内合奏団の演奏も、中庸で推薦です。
 次に、「ブランデンブルグ協奏曲」があげられます。この曲集(6曲あります)にも、たくさんの名演があります。やはり、リヒター指揮のミュンヘンバッハ合奏団が推薦です。また、カール・シューリヒト指揮の、チューリッヒ・バロック合奏団のバッハの持つ良さを自然に表現した名演があります。古楽の演奏では、アントニーニ率いるイル・ジアルディノ・アルモニコの快演もあります。またドイツの名手ゲーベル指揮ムジカ・アンティカ・ケルンの演奏もドイツ的でがっちりした名演奏でお薦めです。また、オーボエの名手ヘルムート・ヴィンシャーマン指揮の、ドイツ・バッハ・ゾリステンの演奏もお薦めです。また、ヘルムート・コッホ指揮のベルリン室内合奏団は演奏が割りに地味ですが、旧東ドイツの伝統的な演奏がすがすがしい印象を与えてくれます。
 また、少し変わっていますが、カラヤンが、手兵ベルリンフィルを指揮した演奏があります。この当時のベルリンフィルは、各パートに世界でも最高級の独奏者を集めた名人集団で、音の美しさ、合奏力の素晴らしさには並外れた優秀さがあります。私が、まだ学生時代に、エアチェックしたカラヤンのブランデンブルグ協奏曲第6番の練習では、表示速度の倍近いスピードで練集し、名人集団に渇を入れると同時に、自信を持たせるという練習を聞いたことがあります。お薦めは、前3者ですが、カラヤンの演奏を、聞く機会があったら、少し合奏が分厚く重い感じはありますが、是非お聞きになってください。
 フリードリヒ大王(プロイセン王)の主題に基づき、バッハがその主題を発展させて作った「音楽の捧げもの」という名曲があります。フリードリヒ大王は、文武両道で、政治力もあり、音楽にも理解があり大王自らフルートの名手でした。曲の途中から、フルートが活躍する美しい音楽が展開されます。ドイツ1番の強国のプロイセンの王様が、自分が作った主題をバッハが変奏、発展させた曲を、自らフルートを吹き、バッハがチェンバロを、大王が集めた当時ドイツの超一流の名手たちとの合奏とで演奏するという当時の、嬉しくも敬虔さがこもった名曲です。
 CDでは、オーレル・ニコレのフルートと、リヒター指揮のミュンヘンバッハ合奏団の名演や、クルト・レーデルの吹き振りでミュンヘンプロアルテ合奏団の敬虔な演奏があります。現在、バッハ演奏の主流となりつつある古楽の演奏が数々あります。
 次に、「フルートのためのソナタ集」があげられます。オーレル・ニコレとリヒターの名演かつ敬虔な演奏がお薦めです。また、東ドイツ・ドレスデンの名手ハウプトのフルート、アールグリムのチェンバロ伴奏の演奏も真摯な名演奏で聞く人の心に染み入る名演奏でお勧めです。
 バッハの最後の作品となった未完の「フーガの技法」も大変敬虔な名曲です。これも、20世紀のバッハの演奏を代表するリヒター指揮のミュンヘンバッハ合奏団、バッハの作曲したところまでしか演奏されていない深い感銘を残すカール・リステンパルト指揮のザール放送室内管弦楽団の演奏、ヘルムート・ヴァルヒャの敬虔なオルガン独奏の名演、新しいところではリュプサムのオルガン独奏の名演がお薦めです。この曲モーツアルトのレクイエムと同様、バッハの白鳥の歌となりましたが、大バッハの最後を締めくくる感銘深い、素晴らしい名曲です。
 次に、聞く人の心に深く染み入る音楽として、「無伴奏チェロ組曲集」が上げられます。この曲の真価をはじめて、人々に知らしめ、政治的人格的にも、20世紀を代表するパブロ・カザルスの名演、真摯な演奏で人に感銘を与えるフルニエの名演や、古楽器ではビルスマの名演がお薦めです。また、キラ星のごとくデビューした、若手のチェリストのヴェスペルウェイの名演も、感動的ですし、今度のバッハ演奏の新たな分野、解釈を示してくれるような期待が満ち溢れています。また、ふるきを聞いて新しきを知るのことわざのごとく、シュタルケルが演奏した記録も、時間の経った現在聞いてみますと、古色を捨てて、楽譜に忠実で明快な演奏が、心地良い爽快感を味合わせてくれる名演奏になっています。
 また、「無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータ集」もよいでしょう。ヘンリク・シェリングの名演、グリュミオーの美しい演奏、ドイツのよき伝統を残しこころに響くカール・ズスケの名演などがお薦めです。古楽器で演奏しているルーシー・ファン・ダールの演奏もお薦めです。現代を代表するギドン・クレメルの名演もありますが、今ひとつ前者の名演と比べて心に響かなく、バッハ演奏の難しさを示しているようです。2001年10月に日本人の渡辺玲子さんの素晴らしい演奏が加わりました。まだ、全曲の半分(ソナタ1番、3番、パルティータ2番)ですが今後全曲の記録が出されるのが待ち遠しい素晴らしい演奏でお薦めです。また、10代後半で全曲の半分(ソナタ3番、パルティータ2番、3番)を演奏しているヒラリー・ハーンも霊感素晴らしく今後の活躍が期待できる素晴らしい記録です。2002年に入り2人の日本人の演奏が復刻されました。チャイコフスキーコンクール入賞間もない頃の潮田益子の演奏と、和波孝良氏のものです。これらの日本人による演奏は実に素晴らしい感動的な演奏です。録音は商業主義で採算が採れないと行われないのでしょうが、この2人の演奏を聞いているとお二人にはもっともっと演奏の記録があってしかるべきように思えてなりません。
 バッハの「ヴァイオリン協奏曲」も3曲ありますが、いずれの2楽章も大変敬虔な音楽です。ヘンリク・シェリングの旧盤ペーター・リバールの第2ヴァイオリンと組んだCDが、実に敬虔でバッハの神への祈りが伝わってくる感動の名演でお薦めです。これらの曲で曲の持つ美しさをこの上もなく表現しているのが、アメリカの名手で来日を期待されていましたが実現しなかったフランチェスカティの独奏、第2ヴァイオリンにフランスの名手パスキエを迎え、パウムガルトナーがルツェルン祝祭管の演奏です。その美しさで、聞く人を感動に導きます。
 また、「オーボエ・ダモーレ協奏曲」も素晴らしい曲ですが、リヒター指揮のミュンヘンバッハ合奏団の名演奏、それに、カラヤンがベルリンフィルに入団を勧めたこともある名手ヘルムート・ヴィンシャーマン独奏・指揮ドイツ・バッハ・ゾリステンの華やかな演奏がお薦めです。
 バッハの「ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ集」にも名演が多く、シェリングがヴァルヒャと組んだ名演や、レオニード・コーガンがリヒターと組んだ名演、グリューミオーがジャコデと組んだ名演が代表的な演奏で、それぞれ感動深いものです。
 鍵盤曲には、大変名曲があります。ただし、癒しの音楽としては、ピアノでの演奏では早い楽章時により耳につく感じになることがありますので、最初はゆっくりした楽章を選んで聞くのがよいでしょう。まず、「平均律クラヴィア曲集」には名演が多く、リヒテルやグレン・グールド、さらにニコラエワの名演がお薦めです。チェンバロでは、レオンハルトやランドフスカヤの演奏がお薦めです。「ニ声のインヴェンションと三声のシンフォニア」では、ヘルムート・ヴァルヒャやグレングールドの名園がお勧めです。「イギリス組曲」「フランス組曲」でもやはり、ヴァルヒャやグレン・グールドの名演がお薦めです。有名な「イタリア協奏曲」には名演が多く、ブレンデル、リヒター、グレングールドがお薦めでしょう。またこれも、名曲中の名曲「ゴルドベルグ変奏曲」には、名演が多く、グレン・グールドの名演、ブレンデルの名演、ヴァルヒャの名演などが推薦です。また、この「ゴールドベルグ変奏曲」には弦楽三重奏の名編曲があり、ヴァイオリンの名手シトコベツスキーをリーダーにヴィオラの名手コッセそれに、チェロの名手マイスキーが参加している名盤があり、落ち着いた名演奏を聞かせてくれます。ピアノの早い楽章で、少し抵抗を感じる方は、この弦楽三重奏曲の編曲のCDをお薦めします。この他、晩年のウィルヘルム・ケンプが、バッハのおもにリサイタルのアンコールとして弾いていた曲を集めた名演のCDがあり、心に染みとおる感動の演奏が聞けます。
 次に、バッハの宗教曲に移ります。
 鍵盤曲を述べたあとですので、まずオルガン曲から参りましょう。オルガン曲には、心に響く名曲が多く、「小フーガト短調」を一度でも耳にした人は、その真摯な大いなる存在に対する敬虔さにたちまちとりこになる人もいることと思います。オルガン曲も、全曲を聞くとなると15〜16枚の膨大な量になります。代表的なオルガン作品全集では、ヘルムート・ヴァルヒャやマリー・クレール・アラン、リュプサム、それに現在(2000年1月)進行中のトン・コープマンの全集が上げられます。その中で、心に染み入る曲を選んでみましょう。まずは、オルガン小曲集が上げられます。ヴァルヒャ、マリー・クレール・アラン、現在全曲録音中のコープマン、リュプサムの演奏がお薦めです。また、トリオ・ソナタ全6曲も大変な名曲で、ヴァルヒャやコープマンの演奏が真摯でお薦めです。またオルガン協奏曲集も名曲が多く、リヒター、ヴァルヒャの演奏がお薦めです。
 全曲ではありませんが、アフリカで医療活動とキリスト教の伝導に、その生涯を捧げたアルベルト・シュヴァイツァーの演奏が数曲、EMIに録音されていますので、これは一聴の価値があります。
   バッハの、宗教音楽は、「マタイ受難曲」、「ヨハネ受難曲」、「クリスマス・オラトリオ」、「ロ短調ミサ曲」の4つの大曲と、教会カンタータに大きく分けることが出来ます。
 「マタイ受難曲」は、新約聖書の「マタイによる福音書」に基づく受難曲で、全曲を通して聞くと、およそ3時間半くらいの時間が掛かります。新約聖書のマタイ伝に基づき 、イエス・キリストが誕生してから、十字架に掛けられ、死後に復活する物語を、音楽で表現したものです。その、音楽の内容は、聖書の記述に忠実に、かつ実に巧みに作られています。イエスの御言葉や、群集の反応、12人の使途たちの反応、それに聖書に特別の意味を持つ数字が、見事に曲の中に表現されています。キリスト教の、礼拝をそのまま牧師先生の語る言葉ではなく、音楽で行っているのです。全曲を聞くのは、最初は骨が折れるでしょうが、抜粋で聞くことは、その曲自体の持つ感動がどうしても薄れてしまうので、出来れば全曲通してお聞きすることをお薦めします。演奏は、3種類の時期の異なる録音を持つ、カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ合奏団のうち、1958年録音の一番最初の演奏が、緊張感をはらんでいて、お薦めです。なお、リヒター指揮ミュンヘン・バッハ合奏団の演奏には1970年代に記録された、映像付きのものがありますので、こちらは日本語訳がついていますので、内容がわかりやすく、またマタイ伝のもつ意味が感動的に伝わってきます。
 この他、オランダの巨匠メンゲルベルグ指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の、少し録音は古いのですが、感動的な名演があります。この演奏は、第二次世界大戦前夜ナチス・ドイツがオランダに進行する直前の演奏会の記録録音ですが、当時の不安な世情を反映していて、47曲目の「したたり落つるわが涙」のところで(有名なペテロのイエス否認の直後の場面なのですが)、女性の聴衆の泣き声までが録音に記録されて残っています。それほどに、劇的な演奏であり、当時の人びとの世界大戦の惨劇の予感が伝わってくるような名演です。この他に、ミシェル・コルボの名演、ヘルムート・リリングの名演、ルドルフ・マウエルスベルガーのドイツの伝統に則った名演、オイゲン・ヨッフムの中庸な解釈の名演、カール・ミュンフンガーの名演、わが国が世界に誇れる鈴木雅昭指揮コレギウム・ジャパンの古楽器による名演など、名演には事欠きません。また、柳田邦夫氏の「犠牲」の中に紹介されているカラヤン指揮ベルリン・フィルの美しいきれいな演奏や、クレンペラー指揮のフィルハーモニー管弦楽団によるスケールの大きな演奏もあります。個人的には、リヒターか、メンゲルベルグの演奏をお薦めします。
 それでは、「ヨハネ受難曲」に参りましょう。
 「ヨハネ受難曲」は、「マタイ受難曲」ほど演奏されることはありませんが、大変な名曲です。
 「ヨハネ受難曲」では、聖書のヨハネ伝の18と19章を中心にして、イエスが十字架につけられ、黄泉に葬られるまでを描いています。
 全曲を聞くのは、やはり「マタイ受難曲」同様たいへんですが、抜粋盤では曲全体から受ける感動が薄れますので、出来れば、全曲お聞きになることをお薦めします。全曲で、約2時間掛かります。バッハは、亡くなる直前までこの曲に手直しを加えていたといわれているほど、この曲の完成に苦労したようです。また、「マタイ受難曲」に比べて、コラールと呼ばれる合唱曲が多くなり、マタイ、ヨハネの2つの福音書の持つ性格の違いを、音楽で表現しています。演奏は、「マタイ受難曲」と比べると、数が少なくなりますが、カール・リヒター指揮ミュンヘンバッハ合奏団のものがお薦めです。リヒターは「マタイ受難曲」を何回も録音し直したのに対して、「ヨハネ受難曲」は1度きりの録音です。それだけ、この演奏に、渾身の力を入れたとも言えるものと思います。ほかに、誠実で合唱のきれいなオイゲン・ヨッフム指揮バイエルン放送交響楽団の演奏、やはり清楚で合唱のきれいなコルボ指揮ローザンヌ管弦楽団の演奏、聖書の持つ意味に忠実に演奏したリリング指揮シュツットガルト・バッハ合奏団の演奏がお薦めです。
 次に、「クリスマス・オラトリオ」にいきましょう。
 「クリスマス・オラトリオ」は、マタイ伝とルカ伝による、イエス・キリストの降誕が中心に描かれていますので、曲自体が大変明るく、祝祭気分に満ちた曲です。ドイツでは、クリスマス前に、この曲が演奏されることが多く、このバッハの「クリスマス・オラトリオ」が始ると、人々は救い主イエス様を迎える楽しい気分になることが多いと聞いています。全曲演奏には、3時間ほど掛かりますが、やはり全曲をお聞きしたほうが、抜粋盤を聞かれるより、感動が多いものと思います。演奏は、トランペットの独奏に当代随一の名人モーリス・アンドレを起用して、祝祭気分に満ち溢れたカール・リヒター指揮ミュンヘンバッハ合奏団の演奏が、一押しです。また、中庸な演奏でバッハのよさを身にしみて感じさせてくれる、ミュンフンガー指揮の、シュツットガルト合奏団の演奏も、推薦です。また、独奏者に名人をそろえ、合唱がきれいですが、演奏が少しおとなしいヨッフム指揮のバイエルン放送交響楽の演奏も、忘れられないものです。また、表現は少し弱いのですが、コルボ指揮のローザンヌ合奏団の演奏も推薦です。また、旧東ドイツの総力を挙げた、大変立派で魅力のあるマルタン・フレーミヒ指揮ドレスデン・フィルハーモニーの名演も推薦です。また、学究的なリリング指揮のシュツトガルト・バッハ合奏団の演奏も忘れられないものです。個人的には、祝祭的な明るい演奏のリヒターと、コッホの演奏がお薦めです。
 次に、「ロ短調ミサ曲」に参りましょう。
 「ロ短調ミサ曲」は、大変な名曲で、演奏される機会は、そのメロディーの取り付きやすさからも、以上の大曲の中では多いほうなのですが、いくつかのバッハの作品を組み合わせて作ったなどという説もあり、嫌いな人は個の曲は聞かないと決め付けている人もいるようです。私は、きれいなメロディーが多く、理屈ではなく、この作品自体がこころにじかに訴えてくる名曲ですので、よく聞いています。
 演奏は、強固な意志をもって使途的使命感でも持っているかのように、集中力の非常に高いリヒター指揮のミュンヘンバッハ合奏団の演奏が、お薦めです。また、若い頃のロリン・マゼールが意欲満々でベルリン放送交響楽団(RIAS交響楽団〜現在のベルリンドイツ交響楽団)を指揮したものも魅了充分です。また、イタリアの巨匠ジュリーニがバイエルン放送交響楽団を指揮した演奏は泰然自若とした大変魅力のある演奏です。旧東ドイツの巨匠ルドルフ・マウエルスベルガーが、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団を指揮した演奏も1960年当時の旧東ドイツの総力を挙げた名演ですが、少し今では古さが目立つかもしれません。でも、ドイツ伝統の味わいの唯一残っている貴重な演奏です。また、合唱のきれいなコルボ指揮ローザンヌ室内合奏団の演奏は、ラテン的で明るいものです。ミュンフンガー指揮のシュツットガト室内合奏団の演奏は中庸で模範的な演奏です。また、リリング指揮のシュツットガルトバッハ合奏団の演奏も、この曲の規範となる折り目正しい演奏です。往年のカラヤンが、手兵のベルリンフィルを指揮した大変美しい演奏もあります。当時のベルリンフィルは」、その美しさは歴史に残るものでしょう。なにしろ、何でも欲しがるカラヤンさんが、世界中からトッププレイヤーを集めた超一流音楽集団ですので、その美しさは20世紀に残るものと思われます。ただ、「ロ短調ミサ曲」の演奏自体としては、美しさに流され、賛否両論でしょう。
 最近では、このロ短調ミサ曲について、バッハはプロテスタントなのに、なぜカトリックのミサ曲を描いたのかにつては、バッハの信仰心のなかでは、プロテスタントもカトリックも同じ神を信じているのでエキュメニァカル(両者の相互理解による歩みよりのため)という時代を先取りしたバッハの先駆的信仰心によるものという説も出ています。
  バッハには、他にたくさんの教会カンタータがあり、バッハの理解にはこの教会カンタータが避けて通れないと言う人もいますが、曲数が200曲を超え、まだ不勉強ですので、もう少しお時間を頂き、後日書かせていただければ幸甚です。
 現在のところ、カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ合奏団の75曲の選曲集が何と言っても代表的な名演です。リヒターには是非全曲録音してほしかったとつくずく残念でなりません。
 しかし、現代楽器を使ったドイツの伝統をふまえたヘルムート・リリング指揮シュツットガルト合奏団の素晴らしい全曲録音が登場しました。この演奏には、リヒター盤同様に世界中から、最高の演奏者が集まり、素晴らしい名演を繰り広げています。
 また、古楽器の演奏では、トン・コープマン指揮アムステルダム合奏団と、日本が世界に誇る鈴木雅之指揮バッハ・コレギウム・ジャパンが全曲録音に取り組んでおり、いずれもバッハの深い祈りの世界に深く踏み入った演奏を聞かせてくれます。
 トン・コープマンとウィーンの古樂演奏の大家アーノンクール、ドイツの名演奏家ゲーベル、ロンドンの名演奏家ホグウッド、オランダの名演奏家グスタフ・レオンハルトの名演奏を集めた、優れた解説書付の全曲集が小学館から出ていますがこれもお勧めの演奏です。
 また、2000年にバッハ全集を刊行したテレフンケン・レーベルから、バッハの「コラール全集」がグリットン指揮ベルリン放送合唱団の演奏で聞けるようになりました。いずれも短い祈りの合唱曲集ですが、ヒーリング音楽としても優れたものになっています。バッハの音楽の、祈りの集大成とでもいうべきでしょうか。とにかく、癒されること抜群です。
  次に、モーツアルトに行きましょう。
 モーツアルトの音楽は、以前より音楽療法に使われることが多く、病気の人のためにモーツアルトのテープを聞かせ続けてその人の病気の回復に役立ったり、子供にモーツアルトの音楽を聞かせ続けて学校の成績があがったとか、牛のミルクの出が良くなったとか、話題に事欠きません。それだけ、モーツアルトの音楽は魅力があり、私たちの心に自然に入り込んできます。曲によっては、まるで天国の音楽でも聞いているかのような(この世の音楽、人間が作った音楽とは思えないほどの)美しい音楽があり、わずか35年の生涯で600〜700曲という膨大な作品を、旅を行ったり、演奏会を行ったり、また社交界でも活躍しながら作曲したのですから、その才能は素晴らしいものです。例えば、交響曲の最後の39番〜41番のいわゆる三大交響曲を、わずか2ヶ月で作っているのですが、このスコア(総譜)は写譜するだけでも音楽を専門に勉強したひとでも2ヶ月掛かるそうですので、映画「アマデウス」のなかでも、主人公モーツアルトは依頼された曲の催促をされたとき、「曲はもう出来上がっており、スコアにはなっていないが、私の頭の中にある。」と答える場面が出てくるのですが、天国にある音楽をそのまま写譜したかのような印象を受けることがあります。「アカシック・レコード」という言葉がありますが、もしかしたらモーツアルトの音楽は、モーツアルト以降の人々の心の慰めになるよう、辛いこの世の一時の安らぎを、神様が与えてくださったプレゼントかもしれません。前置きが長くなりましので、さっそく進んで参りましょう。
 モーツアルトの作品の、最良のものはピアノ協奏曲とオペラに表れているといわれます。モーツアルト自身ピアノとヴァイオリンの名手でしたので、ピアノやヴァイオリンの作品には優れたものが多いです。オペラは、長い時間(「劇場支配人」や「ヴァティスチャンとヴァティスティエンヌ」のように短いものもありますが)が掛かり、かつイタリア語やドイツ語で演奏されるのが普通ですので、はじめての人には少し抵抗があるかもしれません。しかし、一端その魅力に取り付かれると言葉は分からなくても、音楽だけで登場人物の性格から、感情の動きまでものの見事に表現していることに驚かされ、また感動します。オペラについては、声楽が入らない室内楽、器楽用に編曲されているものもありますので、まずはピアノ協奏曲から参りましょう。
 モーツアルトのピアノ協奏曲は、全部で27曲ありますが、代表的名曲は、第9番の愛称「ジュノム」と、第17番から最後の第27番です。最初に述べたように、モーツアルトの音楽はシンプルでそれだけで美しいのですが、それだけに演奏は難しく、良い演奏を選んで聞かないと、その本当の良さ、美しさは分からないことが多いので、注意が必要です。
 まず、「ジュノム」と愛称のついた、第9番のピアノ協奏曲から参りましょう。この曲のベストは、録音は古いのですが、何と言ってもクララ・ハスキル独奏パウル・ザッヒャー指揮ウィーン交響楽団でしょう。女性ピアニストのはしりというのも変ですが、クララ・ハスキルはモーツアルトを得意にしており、後でも述べますが若き日のヴァイオリンの名手グリュミオーと組んだモーツアルトのヴァイオリン・ソナタでも素晴らしい極上の名演を記録に残しています。ハスキル亡き後の、グリュミオーはなかなか良き共演者に恵まれず、最晩年にウィーンの名手ワルター・クリーンと組んだモーツアルトのヴァイオリン・ソナタ集がCD4枚で出ているくらいですので、もう少しグリュミオーと組んでモーツアルトの作品を記録に残しておいて欲しかったほど、残念です。あと、「ジュノム」の名演には、ブレンデル独奏マリナー指揮アカデミー室内管、ペルーの誇るマレイ・ペライアが若いときに引き振りでイギリス室内管があり、お薦めです。
 次に、ピアノ協奏曲第17番に行きましょう。この曲は、モーツアルトのピアノ協奏曲の中で、最も自由で奔放な性格を持った曲です。よく、コンクールでこの曲を自由曲として選ぶ若いピアニストの卵達をみうけますが、モーツアルトの曲はシンプルで表現がそれだけ難しいのに、その内蔵する奔放さが、若いピアニストの卵達をひきつけるためからかもしれません。でも、フリードリヒ・グルダが時々、モーツアルトの協奏曲を演奏するとき、楽譜には描いていない装飾音をつけたり、主旋律の部分をオーケストラと一緒に弾いたりしていますが、グルダほどの名人あるいは、ジャズも得意で即興演奏も得意だったグルダという名人には許されるかもしれませんが、まだ、これから世の中に出る若いピアニストの、コンクールの自由曲には危険が多くてお薦めできません。残念なことに、この17番のピアノ協奏曲にグルダの記録は残されていません。お薦めの名演には、バレンボイムがイギリス室内管を引き振りした演奏、アシュケナージがフィルハーモニア・オーケストラを弾き振りした演奏、ブレンデル独奏マリナー指揮イギリス室内管の演奏、ペライアがイギリス室内管を弾き振りした演奏があげられます。
 次に、第18番のピアノ協奏曲に参りましょう。この曲の名演には、バレンボイムがイギリス室内管を弾き振りした演奏がお薦めです。
 次に、「ピアノ協奏曲19番」にいきましょう。この曲も、大変美しく心慰められる曲です。演奏は、ポリーニが若かりし頃、巨匠カール・ベーム指揮のウィーン・フィルと共演した、大変に美しい名演でお薦めです。また、歴史的な、録音になりますが、ルドルフ・ゼルキン独奏ジョージ・セル指揮のコロンビア交響楽団の名演がお薦めです。なお、余談になりますが、R.ゼルキンとG.セルはオーケストラがセルの手兵のクリーブランド管弦楽団になりますが、ブラームスの2つの偉大なピアノ協奏曲でも大変な名演奏を記録に残しています。新しいとこでは、シフがその透明できれいな音色で、シャンドール・ヴェーグ指揮のザルツブルグ・モーツアルテウム合奏団と清潔な演奏をしていてお薦めです。
 次に、「ピアノ協奏曲20番」に行きましょう。この曲は、モーツアルトのピアノ協奏曲でたった2つの短調の協奏曲のうちの1曲です。モーツアルトは、コンサート収入が大切な収入源(当時は著作権がなく著作権料は無かった)であり、お客さん集めのためには、長調の明るい曲が人気だったのです。したがって、この曲の真価が見直されたのは20世紀に入り、巨匠ブルーノ・ワルターなどがコンサートで多く取り上げてからのことでした。幸い、現在多くの名演が残っています。まず、第一に挙げられるのは、クララ・ハスキル独奏マルケヴィッチ指揮コンセール・ラムルーの名演でしょう。また、自分に大変厳しく録音しても、発売の許可を中々出さなかったイギリスの名匠サー・クリフォード・カーゾンが、大変に透明できれいな音色でブリテン指揮のイギリス室内管と共演している清潔感溢れる演奏も推薦です。
 次に「ピアノ協奏曲21番」に行きましょう。この曲は、美しいメロディーで、大変親しみ深い曲です。特に第2楽章は有名で、映画音楽やヒーリング・ミュージックに用いられることが多いです。きれいなタッチのグルダの独奏、中庸な解釈のアバド指揮、とろけるような美しい音のウィーン・フィルの演奏がお薦めです。また、ペライヤのイギリス室内管の弾き振りも魅力ある演奏です。また、ライヴですが、カーゾン独奏、クーベリック指揮バイエルン放響の演奏もお薦めです。また、録音は古いですが、夭逝した天才ピアニスト、リパティの独奏、若き日のカラヤン指揮の記念碑的な名演もお薦めです。
 次に「ピアノ協奏曲22番」に進みましょう。この曲は、弾むようなリズムの第3楽章が魅力なのですが、なぜか演奏される機会の少ない曲です。リヒテル独奏ムーティ指揮フィルハーモニア管のレコーディング、同じリヒテルの独奏ベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管のライヴの記録、それにわが日本が世界に誇るピアニストである内田光子独奏ジェフリー・テイト指揮のイギリス室内管の演奏がお薦めです。
 次に「ピアノ協奏曲23番」にいきましょう。この曲は、モーツアルトの代表作の一つといっても過言ではない美しい曲です。演奏は、クララ・ハスキル独奏ザッヒャー指揮ウィーン交響楽団の演奏、また、モーツアルトが生きていた時代にはこういう風に弾いたんだよ、というような自由闊達しかも美しい音色のグルダの独奏、アーノンクール指揮アムステルダム・コンセルトヘボーのリズミカルな演奏のCDがお薦めです。
  次に「ピアノ協奏曲24番」にいきましょう。この協奏曲は、20番のピアノ協奏曲と同様に、短調で書かれたった2つのピアノ協奏曲の2番目の曲です。この曲は、モーツアルトの代表的オペラの「フィガロの結婚」と同じ時期に作曲されており、内容も充実したものになっております。この曲の代表的な名演は、クララ・ハスキルの独奏、マルケヴィッチ指揮コンセール・ラムルーでしょう。このハスキルの名演奏を聞いていると、ハスキルがなぜもっとその演奏を記録として残してくれなかったのか、残念に思えるほどの感慨を覚えます。また逆に、ライヴですがレコーディングに厳しかったカーゾンがクーベリック指揮のバイエルン放響と組んで名演奏を残してくれたのは、大変に有難いことです。ほかに、ペライヤがイギリス室内管を弾き振りした名演や、ブレンデル独奏マリナー指揮アカデミー室内管の演奏もお薦めです。
  次に、「ピアノ協奏曲25番」に進みましょう。この曲も、22番の協奏曲と同様コンサートで取り上げられる機会の少ない曲です。フリードリヒ・グルダが、若かりし頃のアバド指揮のウィーン・フィルと組んだ大変美しい演奏がありお薦めです。また、日本で評価の高いエリック・ハイドシェックがピアノを弾いてヴァンデルノート指揮パリ音楽院管と組んだ演奏や、内田光子独奏テイト指揮イギリス室内管の演奏、それにスペインの明女流ピアニストのラローチャのピアノ独奏ショルティ指揮ロンドン・フィルの伴奏の演奏もお薦めです。
  次に「戴冠式」という愛称のついた、「ピアノ協奏曲26番」に進みましょう。この曲は、モーツアルトらしい美しい旋律が魅力の曲です。フリードリヒ・グルダ独奏古楽の旗手アーノンクール指揮アムステルダム・コンセルトヘボー管の躍動感溢れる名演や、アシュケナージのフィルハーモニア管の弾き振り、ブレンデル独奏マリナー指揮アカデミー室内管の名演、それに少し演奏年代が古くなりますが、フランスの名手カザドシュの独奏ジョージ・セル指揮コロンビア交響楽団の引き締まった名演がお薦めです。
 次に、モーツアルトの最後のピアノ協奏曲である「ピアノ協奏曲27番」に参りましょう。この曲も、モーツアルトの最高の名曲の一つでしょう。それだけに、大変名演奏に恵まれています。その中でも、最高の演奏が、自分の録音の発売にOKを出さなかったイギリスの名手クリフォード・カーゾンが、磨きに磨きをかけたとても美しいピアノの独奏でベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管の好サポートを得た名演が一押しのお薦めです。面白いことに、同じブリテン指揮イギリス室内管の伴奏で、ソヴィエトを代表する、いや20世紀を代表するといっても過言ではない、リヒテルの独奏のBBCに残したライヴの名演があります。リヒテルの方がライヴの荒さが見られますが、両者とも素晴らしい名演です。また、ソヴィエトのエミール・ギレリスの独奏カール・ベーム指揮ウィーンフィルの演奏も素晴らしいです。また、今世紀を代表する女流ピアニストのハスキルの独奏、夭逝した名指揮者フリッチャイ指揮バイエルン国立管の名演奏、多彩な才能を示しつつモーツアルトにぴったりの美音でちょっと彼としては優等生の独奏で、若いアバドの指揮する世界一音の美しいウィーンフィルの伴奏でゆったりたっぷりの名演奏もとても魅力です。また、フランスの名手カザドシュの独奏、ジョージ・セル指揮コロンビア交響楽団の落ち着いた名演もお薦めです。また、録音は少し古くなりますが、鍵盤の獅子王といわれたバックハウスの独奏カール・ベーム指揮ウィーンフィルの、質実剛健な名演も魅力的です。
 この他、モーツアルトのピアノ協奏曲で忘れられない名曲に、2台のためのピアノ協奏曲、3台のピアノのためのピアノ協奏曲があります。これらは、モーツアルトが、家族や、仲の良いピアニストと楽しんで演奏するために描かれた雰囲気の良い曲です。
 「2台のピアノのためのピアノ協奏曲」には、エミール・ギレリスが娘のエレナ・ギレリスと組み、カール・ベーム指揮ウィーンフィルと演奏した豪華な名演があります。また、フランスの名手ロベール・カザドシュが奥さんのギャビー・カザドシュと組んで、オーマンディ指揮フィラデルフィア管と組んだほほえましい演奏も魅力であり、バレンボイムとショルティのピアノでショルティ指揮のイギリス室内管の大変美しい名演も魅力的です。
 「3台のピアノのための協奏曲」では、ピアノの詩人といわれるアンドラシュ・シフとバレンボイム、それにショルティのピアノ、ショルティ指揮イギリス室内管の名演が代表でしょう。
 最近(2000年6月15日)アルフレト・ブレンデルのピアノとアルヴァン・ベルグ弦楽四重奏団の競演でモーツアルトのピアノ協奏曲第12番の室内合奏版とピアノ四重奏曲のライヴの素晴らしい名演奏が出ました。お薦めのCD増えました。
 次に、交響曲に進みましょう。
 モーツアルトの交響曲は、41曲以上ありますが、癒しの曲として使えるものは限られてきます。
 まず、25番の交響曲があげられます。励ましの曲として、良いと思われますが、なかなか名演にめぐり合えません。昔から、定評のあるクレンペラー指揮フィルハーモニア管の演奏や、新しいところではレヴァイン指揮のウィーンフィルの演奏がきびきびしていて、気持ちを鼓舞するのにお薦めでしょう。
 次に、26番の交響曲です。人によっては、なぜこの曲がお薦めか、不思議に思われるかたもあるかもしれません。しかし、わずか、5分ほどの短いこの交響曲には、モーツアルトのエッセンスが詰まっている(凝集されている)からです。3楽章の、緩・急・緩の中に、モーツアルトが込めたメッセージは、人生の楽しみから悲しみまで実に見事です。カール・ベーム指揮ベルリンフィルの、洗練された演奏が究極です。
 次に、29番の交響曲に移りましょう。この曲は、名演奏に恵まれています。中でも、ドイツ統一後、なぜか演奏会から姿を消した、オーストリアの名指揮者オトマール・スウィトナー指揮ドレスデン国立管の演奏がゆったりと余裕を持っていて、この曲の持つ良い持ち味をかもし出しています。余談ですが、スウィトナー指揮ドレスデン国立管には、たくさんの名演奏が残されており、ドイツ語版ですが、モーツアルトのオペラ「フィガロの結婚」や、ウィンナ・ワルツ集、スッペ序曲集など数々の名演奏が記録として残っています。是非とも、また演奏活動を再開してほしいものです。また、29番の交響曲に戻りましょう。この曲の名演としては、ベーム指揮ベルリンフィルの演奏、ハンガリーの名指揮者フリッチャイ指揮ベルリン放送交響楽団の演奏がお薦めです。
 次に、33番の交響曲に行きましょう。この曲にも、前出したスウィトナー指揮ドレスデン国立管の名演があり、お薦めです。ほかに、ベーム指揮ベルリンフィルのきりりとしまった名演もお薦めです。
 次に、34番の交響曲に行きましょう。この曲の一押しは、ベーム指揮ベルリンフィルの演奏です。なぜなら、この演奏には普通演奏されない3楽章が演奏されており、その中で繰り広げられるオーボエの名手ローター・コッホとフルートの名手カールハインツ・ツェラーの独奏が天国的な心地よさだからです。この時代のベルリンフィルには、何でもほしがる帝王カラヤンが世界中から集めた名演奏家がたくさんいて、まるでソリストの集団でした。この時代の、ベルリンフィルは、20世紀に残る、いや演奏史上に残る超ソリスト集団です。この、34番のベーム指揮ベルリンフィルの演奏は、その意味でも、またベームの解釈の良さでも天下一品の名演なのです。
 次に、交響曲35番「ハフナー」にいきましょう。この曲は、昔から演奏される機会の多い曲で、名演奏もたくさんあります。ワルター指揮コロンビア交響楽団の中庸な名演、同じくワルター指揮ニューヨークフィルの名演、クーベリック指揮バイエルン放響の豊かな名演、ベーム指揮ベルリンフィルの引き締まった名演、同じベームが晩年ウィーンフィルを指揮した艶やかな名演などがお薦めです。
 次に、交響曲36番「リンツ」に行きましょう。この曲も、演奏される機会が多く、たくさんの名演奏にめぐまれています。ワルター指揮コロンビア交響楽団の素晴らしい名演が何回繰り返し聞いても、飽きない素晴らしい名演奏でお薦めです。なお、この演奏のリハーサルも記録に残っていて、何気ないフレーズに如何にワルターさんが心を込めていたか、なかなか音楽、そして演奏の奥深さを考えさせてくれます。ほかに、クーベリック指揮バイエルン放響の名演があります。ライヴでバイエルン放響の演奏を聞くと、その弦楽器群の豊かな温かみのある音に感心します。バイエルンにある、シュヴァルツバルト(黒森)を連想させる深みのある音色です。音楽は、文化であることを感じさせてくれる名演です。バーンスタインがウィーンフィルを若き日に振った名演もお薦めです。この両者は、同時にモーツアルトのピアノ協奏曲15番を、バーンスタインの引き振りで演奏した歴史的な演奏もありますので、この2曲が組み合わせてあるCDがお薦めです。次に、わが日本が世界に誇る若手の名指揮者広上 淳一指揮ノールショッピング交響楽団の名演も忘れることが出来ません。広上 淳一さんは、ハイドンやモーツアルトを得意にしている指揮者で、現存する指揮者の中でも、ハイドン、モーツアルトで広上さんの右に出る人はいないのではないでしょうか。余談になりますが、是非広上さんにハイドンやモーツアルトの演奏をもっともっと記録に残してほしいと思います。それも、出来れば、日本フィルか仙台フィルで録音してほしいと思います。フル編成のオーケストラでも、決して重くならない広上氏の演奏の素晴らしさを、より多くの人々に聞いていただきたいと思うのです。 次に交響曲38番「プラハ」に行きましょう。モーツアルトを一番歓迎したのは、プラハの人々だと言われています。この交響曲38番「プラハ」は3楽章の交響曲ですが、モーツアルトの代表作のひとつです。したがって、名演奏はたくさんあります。ワルター指揮コロンビア交響楽団の名演奏、クーベリック指揮バイエルン放響の名演等は、何度繰り返し聞いても飽きないでしょう。また、ベーム指揮ベルリンフィルの贅肉を削ぎ落とした引き締まった演奏、同じベーム指揮ウィーンフィルの豊かな響きの演奏も魅力です。450年の歴史を持つドレスデン国立管が始めて桂冠指揮者としたコリン・デイヴィス指揮の同楽団の演奏も、簡素で実にすっきりした名演でお薦めです。
 次に、交響曲39番に行きましょう。39番、40番、41番の3曲の交響曲は、モーツアルトの3大交響曲とよばれることもあり、モーツアルトの代表ともなる曲ですが、この名3曲はわずか2ヶ月の短期の間に作曲されました。作曲家の池部晋一郎氏が、NHKの番組でお話されていましたが、音楽を専門に勉強している音大生でもこの3代交響曲の楽譜を写す(写符)るだけで、2ヶ月はかかるそうですから、モーツアルトの天才ぶりがどれほどか、想像絶するものがあります。お話を39番の交響曲に戻りましょう。ワルター指揮コロンビア交響曲の名演、クーベリック指揮バイエルン放響の名演、ベーム指揮ベルリンフィルの堅固な名演などがお薦めです。
 次に、交響曲40番に進みましょう。この曲の第一楽章は、なじみの深い曲で一度は耳にしたことのある人が多いでしょう。フリッチャイ指揮ベルリン放送交響楽団(現:ベルリン・ドイツ交響楽団)の印象深い演奏、ワルター指揮コロンビア交響楽団の温厚な演奏、ベーム指揮ベルリンフィルの力強い演奏、クーベリック指揮バイエルン放響の気高い演奏、それにフルト・ヴェングラー指揮ウィーンフィルの格調高い演奏などが、お薦めです。
 最後の交響曲41番「ジュピター」に、進みましょう。この曲は、その「ジュピタ−」と愛称がつくくらい力強さを持った曲です。ワルター指揮コロンビア交響楽団の名演、ベーム指揮ベルリンフィルの力強い名演、同じベーム指揮ウィーンフィルの美しくも力強い名演、クーベリック指揮バイエルン放響の格調の高い名演などがお薦めです。
 次に、ヴァイオリン協奏曲に進みます。
 ヴァイオリン協奏曲は、7曲ありますが、演奏者によって録音曲数が異なりますので、演奏者ごとにお薦めのものを書いていきます。
 まず、このヴァイオリン協奏曲の一押しは、1番から5番まで録音してあるグリューミオーの独奏コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団の演奏です。グリューミオーの美しい音色と、コリン・デイヴィスの実にすっきりした演奏は、これらの代表的名演で、他の追随を許さない素晴らしい歴史的な名演です。グリューミオーには、これ以前にも1番から5番それに7番の協奏曲を、パウムガルトナー指揮ウィーン交響楽団と録音したモノラルの演奏もありますが、これも素晴らしい名演でお薦めです。このグリューミオーの演奏に比べると、他のヴァイオリニストの演奏は、どうしても聞きおとりしてしまいます。それでも、グリュミオーと同じフランコ・ベルギー派の名ヴァイオリニストのオーギュスタン・デュメイの独奏・指揮ザルツブルグ・カメラータの3番から5番の演奏、オイストラフの教え子で現在世界最高ともいわれているギドン・クレメルの独奏アーノンクール指揮ウィーンフィルが1番から5番まで録音していてお薦めの名演ですが、グリューミオーの名演から比べれば、少々理屈っぽい演奏に感じられます。それほど、グリュミオーの演奏は素晴らしいのです。
  次に、モーツアルトのクラリネット協奏曲にいきましょう。この曲は大変叙情性に富み、昔から、大変親しまれた曲であり、モーツアルトの代表作のひとつになっております。それだけ、名演奏の多いのも、この曲の特徴となっております。特に、レオポルド・ウラッハ以来ウィーンのクラリネット奏法が独特の柔らかさを持っていますので、ウィーンのクラリネット奏者に名演奏が多いのです。その代表は、ウラッハ独奏ロジンスキー指揮ウィーン国立歌劇場管の演奏に代表される甘美で優雅なものです。また、プリンツ独奏カール・ベーム指揮ウィーンフィルという豪華な、かつ余裕のある演奏も素晴らしいです。新しいウィーンの奏者オッテンザマーの独奏コリン・デイヴィス指揮ウィーンフィルの演奏も、ウラッハの後を継承するものとしてお薦めです。また、ペーター・シュミドールの独奏もお薦めの演奏です。また、長年、ベルリンフィルのソロ・クラリネットを続けたカール・ライスターの演奏も忘れられない。ライスターが、まだ若いころボスのカラヤン指揮ベルリンフィルと組んだ演奏は、カラヤンに主導権があり、少々まじめな硬い演奏であるがライスターのきめ細やかさがよく出ていてお薦めである。ライスターが、後にイギリスのマリナー指揮アカデミー室内管と組んだ演奏は申し分のない完璧な演奏でお薦めである。また、フランスの名手ジャック・ランスロがパイヤール指揮パイヤール室内管と共演した演奏は、昔からの定盤で、その癖のない演奏は誰にでもお薦め出来る名盤である。新しいところでは、シュトルツマン独奏・指揮イギリス室内管の演奏があるが、アクロバット的で人によっては抵抗感を覚える人もあるだろう。
 次に、フルートとハープの為の協奏曲に進みましょう。この曲は、典雅で優美であり、やはりモーツアルトの代表作のひとつに上挙げられるだろう。フランスの名手ランパルのフルート、フランスを代表するハープ奏者ラスキーヌの共演、パイヤール指揮パイヤール室内管の演奏が華やかで、長年のこの曲の演奏史にも残る名盤である。ウィーンフィルの名手ウォルフガング・シュルツのフルート、サバレタのハープ、カール・ベーム指揮ウィーンフィルの演奏は、この曲の持つ典雅さを十分表現していてやはりお薦めである。
アイルランドのフルートの名手で一時カラヤンに請われて、ベルリンフィルのソロを弾いていたジェームズ・ゴールウェイとハープの名手ロブレスの共演、マーク指揮ロンドン響の演奏も名演でお薦めである。ゴールウェイは主導権を握ると、独特のコブシを効かせるようになるが、サバレタのハープ、マリナー指揮アカデミー室内管の新しい録音は、名演であるが、ゴールウェイのコブシに少し抵抗を覚える人もいるかもしれない。ベルリンフィルの若きフルートの貴公子エマニュエル・パユとラングラメのハープ、アバド指揮ベルリンフィルの演奏は、いずれも演奏に癖がなく、柔らかい演奏で今後長く聞かれる名演奏になるだろう。
 次に、フルート協奏曲に行きましょう。フルート協奏曲は、1番、2番の2曲ありますが、オーレル・ニコレのフルート独奏カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ合奏団のロングランの歴史的な名演がまず、挙げられるでしょう。リヒターとニコレは数々の名演奏を記録に残しており、2人のお互いに対する信頼関係、尊敬がそのまま、演奏に現れていることが多く、この録音も歴史的名盤として、長く聞かれることでしょう。カラヤンに気に入られていた名人ゴールウェイと、パウムガルトナー指揮ルツェルン音楽祭管の演奏も優美で好感の持てる名盤です。同じゴールウェイがマリナー指揮アカデミー室内管と組んだ演奏も、大変美しく見事な演奏です。ただ、少しゴールウェイが目立ちすぎるかな?スイスの名手ペーター・ルーカス・グラーフの独奏、レッパード指揮イギリス室内管は、清潔そのものの演奏で聞くもののこころを、洗ってくれるような名演です。ベルリンフィルの若き貴公子、パユ独奏、アバド指揮ベルリンフィルの演奏は、スポーティーなフレッシュな公演でお薦めです。
  次に、オーボエ協奏曲に進みましょう。
 この曲は、モーツアルトのフルート協奏曲第2番と同じ曲です。もともとは、オーボエ協奏曲が原曲です。この曲には、オーボエの名手ローター・コッホの名演があります。伴奏のカラヤン指揮ベルリン・フィルが多少重たいですが、当時全盛時代のコッホの玉を転がすような、美しいオーボエの音色が曲の魅力を一段と高めています。
 次に、ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲に進みましょう。これも、大変な名曲でモーツアルトの代表作のひとつでしょう。したがって、名演奏も大変多い曲です。一押しの名演は、ギドン・クレメルのヴァイオリン、キム・カシュカシアンのヴィオラ、アーノンクール指揮ウィーンフィルの名演でしょう。これは、コメントつけられないほどの名演です。次に、カール・ベームがベルリンフィルを指揮して、独奏者にベルリンフィルのトップの、トマス・ブランディスのヴァイオリン、カッポーネのヴィオラ独奏の名演が遊びは余りありませんが、しっかりと両足を大地にたった規範的名演です。今世紀を代表するヴァイオリニストのダヴィド・オイストラフが、息子のイーゴル・オイストラフにヴァイオリンパートを任せ、自分はヴィオラと指揮をしてベルリンフィルとの競演をした面白い録音があります。息子イーゴリが少し遠慮しているのか、ヴァイオリンに今ひとつ自信がないことと、オイストラフの引き振りでベルリンフィルがその本領を発揮していないのが残念ですが、これも歴史に残る演奏となるでしょう。
 次に、管楽器のための協奏交響曲に、参りましょう。あまり、演奏される機会の多くない曲ですが、ベーム指揮ベルリンフィルの洗練された名演があります。ベルリンフィルの名手たちが、その美しい洗練された魅力ある音色でたっぷり演奏しています。(この時代名手ローター・コッホの影に隠れて全く目立たなかったオーボエ奏者カール・シュタインツがこれほどの名手とは、・・・いやはや当時のベルリンフィルがいかにヴィルトーゾ集団であったかを思い知らされます。)また、ドレスデン国立管の名手たちが、スイトナー指揮のドレスデン国立管と演奏した美しい名演がお薦めです。
 次に、ホルン協奏曲に進みましょう。この協奏曲には、デニス・ブレインという不出世の夭逝した、天才奏者が若きカラヤン指揮フィルハーモニア管と競演した素晴らしい名演があります。この演奏が、ホルンの持つ魅力を存分に堪能させてくれる超名演です。ほかに、ベルリンフィルのソロ奏者だったゲルト・ザイフェルトが、カラヤン指揮ベルリンフィルをバックに演奏した名演もあります。また、旧東ドイツを代表する名手ペーター・ダムの独奏、ブロムシュテット指揮ドレスデン国立管の虚飾を排したすっきりした名演もお薦めです。新しいところでは、ヴラドコヴィッチ独奏ジュフリー・テイト指揮イギリス室内管のおおらかな名演もお薦めです。
 次にたった一曲しかないファゴット協奏曲に参りましょう。オーケストラや管楽合奏の、基盤を支えるファゴットは縁の下の力持ち的な性格がありますが、また、独特のユーモラスな面もあります。後のチェコの作曲家フチークが、このユーモラスなファゴットの性格をうまく利用して「熊」のダンスを表現した名曲がありますが、モーツアルトのファゴット協奏曲もユニークな曲ですが、ひとのこころを和ませてくれる、隠れた名曲です。この曲には、名手クラウス・トゥネーマンのヴィヴラートの良く効いた名独奏エドモンド・シュトゥツ指揮チューリッヒ室内管の名演奏が印象的でお薦めです。
 次に、セレナーデに進みましょう。このセレナーデ集には、「KV203」,「KV204」、「ハフナーセレナーデ」、「ポストホルン」、の4曲をヴァイオリンの名手ウト・ウギの清潔な独奏と、オランダの名指揮者エド・デ・ワールト指揮ドレスデン国立管の素敵な名演があります。何回聞いても飽きのこないこの名演は、癒しの音楽として最高のものです。「KV203」、「KV204」のセレナードには、コレギウムアウレウム合奏団の、落ち着いた名演や、シャンドル・ヴェーグ指揮ザルツブルグ・モーツアルテウム合奏団の名演もあります。
 「ハフナー・セレナーデ」にはカール・ベーム指揮ベルリンフィルの重厚な名演や、ミュンフンガー指揮シュツットガルト合奏団、ウィリーボスコフスキー指揮ウィーン・モーツアルト合奏団の名演もお薦めです。
 「ポストホルン」には、カール・ベーム指揮ベルリンフィルの歴史的名演奏があります。これは、カラヤンが世界中から集めた名ソリストたちが、適切なベームの指揮のもとに個性を存分に発揮して演奏している素晴らしい名演です。特にオーボエの名手ローター・コッホとフルートの名手ジェイムズ・ゴールウェイの共演したところなどは、天国的とも言える、言葉には言い表せないほどの美しい音楽です。この曲の、一押しの名盤です。また、この曲には、アーノンクールがアムステルダム・コンセルト・ヘボーを指揮した名演奏の記録もあります。その演奏は、リズムが素晴らしく、モーツアルトの演奏史に新たな1ページを記したといっても過言ではないでしょう。ベームの名演とは、また違った意味でこの演奏もお薦めです。
 モーツアルトには、また「セレナータ・ノトゥルナ」という実にかわいい曲があります。この曲には、オトマール・スイトナー指揮ドレスデン国立管のじつに落ち着いて堂々とした名演奏がありお薦めです。また、少しお堅いベーム指揮ベルリンフィルの、演奏もお薦めです。イ・ムジチ合奏団の、イタリアの明るさが前面に出た演奏も一聴の価値があります。
 「グラン・パルティータ」という、管楽器12本に、弦楽器ではコントラバス一本が加わった名曲も忘れることが出来ません。この曲にも、カール・ベームがベルリンフィルの名手を指揮したきりりと締まった名演があります。この録音の少し後に、ベルリンフィルの名手たちが、指揮者をおかずに演奏したものもありますが、音楽のまとまり、締まりとしては、カール・ベームが、指揮した方に軍配が上がるようです。この曲には、他にも映画「アマデウス」で音楽を担当したネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管の演奏もお薦めです。
 次に、モーツアルトの代表作のひとつとして、あまりにも有名な「アイネ・クライネ・ナハトムジク」を挙げなければなりません。この曲には、名演がたくさんあり、それぞれ推薦してある演奏が異なり、どの演奏を聞いたらよいかとまどう方もいらっしゃるかもしれません。そのなかでも、ブルーノ・ワルターがワルターのために編成されたコロンビア交響楽団を指揮したステレオ録音(’58年)が、一押しの名演でしょう。また、ウィリー・ボスコフスキーがウィーン・モーツアルト合奏団(ウィーンフィルのメンバー)を指揮した演奏も、美しく爽やかで素敵な演奏です。この曲を得意にしている、イ・ムジチ合奏団の演奏もイタリアの明るさを、地でいく爽やかな演奏です。この曲には、オトマール・スイトナー指揮ドレスデン国立管の、非常におっとりしたこころ休まる演奏もお薦めです。また、カール・ベーム指揮ウィーンフィルの、豪華な感じのする演奏もお薦めです。
 次に、「ナハトムジーク」と呼ばれる、隠れた名曲も心和む曲で、忘れてはならない曲でしょう。この曲には、ベルリンフィルや、ウィーンフィルの名手たちの名演があります。総じて言えば、ベルリンフィルのほうは、まとまったカチッとした中に、名人芸が十分入った演奏、ウィーンフィルの方は柔らかい演奏なのが特徴です。それぞれの、お好みでお選びいただくのが良いでしょう。
 次に、ディヴェルティメントに進みましょう。
 まず、16歳の若い時の名曲ディヴェルティメントK.136〜138の3曲です。この曲は、これから名曲を量産するモーツアルトの前途を暗示するかのような、魅力ある曲です。イ。ムジチ合奏団の、明るいイタリアの青空を思わせる名演がお薦めです。少し古い演奏ですが、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の美しい演奏も忘れられない名演のひとつです。同じ弦楽四重奏の演奏では、イギリスのアマデウス弦楽四重奏団や、ドイツのハーゲン弦楽四重奏団の演奏もいいでしょう。また、オーケストラの演奏では、好き嫌いが出てくるかもしれませんがカラヤン指揮ベルリンフィルの1968年の演奏も一聴の価値があります。当時のソリストの集団の様なベルリンフィルの、弦楽合奏の美しさを十分に堪能できる演奏です。
 次に、第11番のディヴェルティメントK.251に行きましょう。
 このオーボエの活躍する明るい曲には、カラヤン指揮ベルリンフィルの名演奏がお薦めです。カラヤンは、夏休みに自分の別荘のあるサン・モリッツにベルリンフィルの名手たちを呼んで素晴らしい名演の記録を数々残してくれました。この演奏も、シーズン・オフの開放感あふれるような重くならない名演奏です。
カラヤンのモーツアルトやハイドンは、どちらかというと重いあまりモーツアルトやハイドンらしからぬ演奏が多いのですが、サン・モーリッツの別荘での録音には、爽やかな演奏が多いことに驚かされます。夏休みの開放感からなのか、サン・モーリッツの喧騒を離れた空気のためなのかわかりませんが、この演奏はそのことを感じさせてくれる名演です。ローター・コッホの全盛時代の、玉を転がすようなきれいなオーボエの音色がその魅力を一段と増加しています。
 次に、第15番のディヴェルティメントに進みましょう。
 この曲にも、カラヤン指揮ベルリンフィルの名演があります。また、古楽器演奏の端緒になる、コレギウム・アウレウム合奏団の優雅な演奏もお勧めです。また、ミュンフンガー指揮シュツットガルト室内管の演奏も爽やかで推薦です。
 次に、第17番、K.334のディヴェルティメントに、進みましょう。この曲もモーツアルトの中期の曲ですが、彼の代表作のひとつといってもおかしくない名曲です。この曲には、その将来を惜しまれつつ山岳事故で亡くなったウィーンフィルの名コンサートマスターの、ゲルハルト・ヘッツェルが演奏しているウィーン室内合奏団の名演があります。ヘッツェルさんは若いころリヒター率いるミュンヘンバッハ合奏団に参加したり、ベーム指揮ウィーンフィルのベートーヴェンのミサ・ソレムニスで大変きれいな印象的なソロを聞かせていたので、ブラームスのヴァイオリンソナタ3曲のCDが出た後の急逝は世界中のファンの涙を誘ったものです。また、ボスコフスキー指揮ウィーン・モーツアルト合奏団の名演、ベルリンフィルハーモニー八重奏団の引き締まった名演もお薦めです。
 次に、モーツアルトの弦楽五重奏曲3番・4番に行きましょう。この曲も、モーツアルトの代表作に挙げても良い名曲です。名曲の割には、理想的な演奏はなかなか回り逢えません。スメタナ四重奏団にヴァイオリンの名手ヨセフ・スークがヴィオラを弾いた演奏が、面白みには少々欠けますが中庸な立派な名演です。また、モーツアルトを弾いたらこの人の右に出る人はいないほどの名手グリューミオーが、エヴァ・ツァコなどの名手と組んだ演奏も、きれいですが今ひとつ魅力に欠けます。名演には間違いないのですが・・・。イギリスの名門アマデウス四重奏団に、ヴィオラのセシル・アロノヴィッツが加わった演奏がお薦めの名演となります。また、一時代を画したブタペスト四重奏団にヴィオラの名手ワルター・トランプラーが加わった演奏もお薦めです。でも、最近若い人で上手な弦楽奏者がたくさん出ていますので、きっとこれらの名演をしのぐ演奏が必ず出てくるものと、期待しているところです。
 次に、クラリネット五重奏曲K.581に進みましょう。
 この曲も、モーツアルトの代表作のひとつと数えても良い名作です。第2楽章などは特にこころ慰める名曲で癒しの音楽の代表のひとつです。したがって、名演奏も数多くあります。ベルリンフィルの看板奏者だったカール・ライスターは、共演者を取り替え引き換え多くの名演を残しています。いずれもお薦めですが、ベルリン・ゾリステンと組んだ演奏やウィーン弦楽四重奏団と共演した演奏がお薦めです。また、ウィーンの透明な澄んだクラリネットの音色は独特の魅力を持ち、その開祖とも言うべきウラッハ以来2000年の今日のペーター・シュミドールまで名演はたくさんあります。その開祖のウラッハ独奏ウィーンコンツェルトハウス弦楽四重奏団や、プリンツ独奏ウィーン室内アンサンブル(第一ヴァイオリンが将来を期待されていて山岳事故で惜しくも亡くなったヘッツェルさんが弾いています)そして、シュミドール独奏新ウィーン八重奏団まで、なんて伝統って素晴らしいのか思わずうなってしまう名演ぞろいです。また、フランスの名手ジャック・ランスロ独奏ミュンヘンのバイエルン放響の名コンサートマスターで知られたバルヒェット率いるバルヒェット弦楽四重奏団の名演もこころに染み入るものでお薦めです。
  次に、オーボエ四重奏曲に進みましょう。
 この曲には、カラヤン時代の黄金のベルリンフィルの顔の一人だったオーボエの名手、ローター・コッホの名演が2種類あります。ベルリンフィルの仲間であるベルリンフィルゾリステンと共演した演奏は、ローター・コッホの全盛時代で、その玉を転がすような大変美しい音色は、魅力的であり、まるでオペラのアリアを聞くような優雅さと興奮すら覚えます。もうひとつの録音は、イギリスの名弦楽四重奏団であるアマデウス四重奏団と組んだもので、美しい演奏には変わりありませんが、ベルリンフィルゾリステンのものと比較すると、コッホの自由さが(遊び?)少々失われていて、魅力が今ひとつです。コッホの後を受け持った、シェレンベルガーのオーボエにフィルハーモニア・カルテット・ベルリンの演奏も、曲の感じがコッホの華やかさに比べて少し憂いを帯びたような感じになりますが、お薦めの演奏です。
 次に、フルート四重奏曲に参りましょう。
 モーツアルトの時代のフルートは、まだ未完成の楽器で、また、当時モーツアルトと大変仲の良かったクラリネットのアントン・シュタットラーのような名人もいませんでしたので、交響曲などでもクラリネットは使われているのに、フルートが使われていない曲はたくさんあるのです。しかし、フルートの機能が完成し、音程も安定し運動性も問題の無くなった今日、このフルート四重奏曲はその魅力が十分に表せるようになり、名演奏もたくさん出ています。モーツアルトが、現代のようなフルートの素晴らしい発展を予想していたらもっともっとフルートのために、たくさん作曲していたものにと思われるほどの可愛らしく魅力的な、モーツアルトの音楽の特徴を良く表している曲集(4曲)です。
 したがって、名演奏もたくさんあります。まず、ドレスデン国立管のソロフルーティストのヨハネス・ワルターの独奏と同じオーケストラの仲間のドレスデンカンマーゾリステンと組んだ演奏が、ワルターの持つ大変可愛らしい音色が魅力的でお薦めです。ヨハネス・ワルターの様な名手が名オーケストラのドレスデン国立管の魅力ある伝統のある音色を作っていることは、伝統とは何かということをよく考えさせてくれます。スイスの名手ペーター・ルーカス・グラーフとカルミナ三重奏団の演奏は、透明なグラーフの音色がすっきりした清潔感あふれる演奏になっています。また、古楽器の名手、クイケン兄弟の演奏は古き時代をほのぼのと思い出させるような演奏です。フルートのランパル、ヴァイオリンのスターン、ヴィオラのシュナイダー、チェロのローズというそれぞれ、一時代を画した名演奏家の記録もありますが、モーツアルトの持つ自然さが損なわれているようで、私はあまり好みません。しかし、高く評価する人もいますので、また、演奏は解釈や音色の組み合わせで実に様々ですので、ここに挙げておきます。
 次に、弦楽四重奏曲にいきましょう。
 この弦楽四重奏曲には、全曲録音の名演奏が数々あります。古くは、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団、ブダペスト弦楽四重奏団、イタリア弦楽四重奏団、アマデウス弦楽四重奏団、アルバン・ベルク弦楽四重奏団などいずれも魅力あるお薦めの演奏です。
 この中で、特に有名な第14番〜第19番までの、いわゆる弦楽四重奏曲の開祖ハイドンに捧げられた「ハイドン・セット」は名曲が多く、演奏される機会も多く、モーツアルトの魅力、特色がたくさん凝集されていますので、名演奏がたくさんあります。とくに、ジュリアード弦楽四重奏団、イタリア弦楽四重奏団、アルバン・ベルク四重奏団、アマデウス弦楽四重奏団、ウィーンコンツェルトハウス四重奏団、スメタナ弦楽四重奏団、メロス・クァルテットの名演奏がお薦めです。この中で、たった1曲の、短調の名曲第15番には、ウィーンコンツェルトハウス四重奏団の余裕のある情緒たっぷりの名演が、特にお薦めですが、1999年年末に魅力ある新しいCDが加わりました。それは1990年に夭逝したソヴィエトの将来を嘱望されていたヴァイオリニスト、オレグ・カガンに、名ヴァイオリニスト、トレチャコフ、名ヴィオラ奏者バシュメット、名女流チェリスト、グートマンのライヴ(1982年)の素晴らしい名演奏です。これからは、このカガン達の名演奏のように、放送局に残っている隠れた名演の掘り出し物が出てくる可能性がまだまだ、ほかのいろんな曲であることを意味していますので、楽しみが増えました。もちろん、現役の名手たちもどんどんチャレンジしてほしいですね。
 また、第21番から第23番までの、モーツアルトの最後の3曲の弦楽四重奏曲は、当時の強国プロシアの王様フリードリヒ・ウィルヘルム2世に捧げられたので「プロシャ王」と呼ばれています。この3曲には、アルバン・ベルク四重奏団と、イタリア弦楽四重奏団明るい名演奏、それに、メロス弦楽四重奏団の中庸で立派な名演がお薦めである。
 次に、ヴァイオリン・ソナタに参りましょう。モーツアルトは、ヴァイオリンの名手でもありましたので、生涯に渡って数々のヴァイオリン・ソナタを作曲しています。初期の作品は、ピアノソナタにヴァイオリンの伴奏を付けた「オブリガートヴァイオリン付きピアノソナタ」という性格をもっています。
 この、初期のヴァイオリン・ソナタには、シャンドル・ヴェーグの名演があります。
 モーツアルトの、ヴァイオリン・ソナタは、何と言ってもグリュミオーとクララ・ハスキルの数々の名演奏が歴史に燦然とひかり輝いています。若かりし頃のグリュミオーのえも言われぬ美しい音色と、クララ・ハスキルのコントロールの効いた演奏は、品がよく、モーツアルトの最も美しい性格を、的確に表しています。グリュミオーは、晩年ウィーンの名手ワルター・クリーンと組んだ名演もあります。グリュミオーは、使用ヴァイオリンを代えていますが、最初のヴァイオリンの時の演奏が美しさが
際立っています。ワルター・クリーンとのすっきりした演奏も魅力ですが、クララ・ハスキルと若きグリュミオーのデュオは、20世紀を代表するといっても過言ではないモーツアルトのヴァイオリンソナタです。グリュミオーとハスキルの名演は、ブザンソンでのライヴの貴重な記録も残しています。
 モーツアルトのヴァイオリンソナタには、ソヴィエトの名手オイストラッフとウィーンのピアノの名手パウル・バドゥラ・スコダと組んだ名演もお勧めです。オイストラッフの演奏は曲の核心をつかみ、スケールの大きな演奏が多く、モーツアルトはあまり合わない感じがしますが(たとえばベルリンフィルを弾き振りしたモーツアルトの協奏曲集)、このスコダと組んだソナタは、スケールの大きさを残しながら、さわやかですっきりした名演です。
 また、メキシコ国籍ポーランド出身のヘンリク・シェリングのヴァイオリンと、モーツアルト弾きで有名だったイングリット・ヘブラーの演奏も、好き嫌いが分かれるかもしれませんが、名演奏です。
 次に、モーツアルトのピアノ・ソナタに参りましょう。
 モーツアルトのピアノ・ソナタにはさまざまの演奏が記録として残っています。カナダの奇才グレン・グールドの主観的な演奏から、ウィーンの伝統を引いているワルター・クリーンや、アルフレド・ブレンデル、ウィーン出身でも個性を発揮したフリードリヒ・グルダや、日本人ながらウィーンで教育を受けた内田光子も素晴らしく、また古きはワルター・ギーゼキングの素晴らしい名演や、モーツアルト弾きで一時期を画したイングリット・ヘブラーや、マリオ・ピリスの新・旧の名演、スペインの名手アリシア・デ・ラローチャの名演、ダニエル・バレンボイムの意欲的な演奏、クリストフ・エッシェンバッハの清潔な演奏、ドイツの一時代を画した鍵盤の獅子王ウィルヘルム・バックハウスのがっしりした演奏、ポーランドの巨匠ホルショフスキーの名演、一時代を画したクララ・ハスキルの模範的な演奏などが代表的な名演奏として挙げられます。それぞれに、個性がありますので自分にあった演奏、自分の感性にあった演奏を選ぶのが良いです。
 モーツアルトのピアノソナタ以外のピアノ曲集では、ダニエル・バレンボイムがなかなか良い記録を作っています。
  次に、モーツアルトのピアノ三重奏曲に進みましょう。この曲集には、フランスの名ピアノトリオ、ボーザール・トリオの全曲録音があります。聞いていて、モーツアルトの音楽がサラサラと流れていく心地よさを感じます。全曲ではなく、数曲選んだ記録の中に優れたものがあります。そのひとつは、ピアノの名手マリオ・ピリス、美音のヴァイオリンのデュメイ、チェロのワンが組んで好演奏を繰り広げている、K.496番、K.502番があり、お勧めです。その他、クレンメルのヴァイオリン、ヴィオラの名手カシュカシアン、ピアノをアシェナフエフの名演も一聴の価値があります。
 次に、弦楽三重奏のためのディベルティメントK.563に行きましょう。
 この曲には、モーツアルト弾きで有名だったグリュミオー・トリオの名演奏が昔から有名です。また、名手オイストラフの弟子でありながら、独自の個性を発揮して数々の名演を行うクレーメルと、ヴィオラの名手カシュカシアンそれにチェロの個性派ヨー・ヨー・マの共演した名演奏がお勧めです。
 次に、ピアノと管楽器のための五重奏曲K.452に進みましょう。
 この曲にも、名演奏がたくさんあります。日本ではあまり、有名ではありませんが、ピアニストのコンタルスキーとカラヤン時代のベルリンフィルの名手たちが組んだ演奏が少し地味ですがお勧めです。ほかに、ピアノの名手ブレンデル、オーボエのホリガー、クラリネットのブルンナー、ホルンのヘルマン・バウマン、ファゴットのトゥーネマンらのそれぞれの分野での最高の名手たちをそろえた大変きれいな名演もお勧めです。また、指揮者、作曲者としても有名なアンドレ・プレビンがピアノを弾き、ウィーンフィルの名人と和気藹々と演奏しているのも大変魅力的です。
 次に、「音楽の冗談(村の音楽士の六重奏曲)」に進みましょう。
 この曲は、モーツアルトの冗談音楽として知られています。楽器がわざと音をはずしたり、ヴァイオリン独奏があらぬ方向に独走してしまったりする、迷曲です。
 オトトマール・スイトナーが、名門ドレスデン国立管を指揮した冗談を分厚い音でしっかりまじめに演奏したもの、ボスコフスキーがウィーン・モーツアルト合奏団を指揮した美しい冗談音楽がお勧めです。
 次に、「ミサ曲ハ単調K.417」に進みましょう。この曲は、演奏に50分前後かかりますが、厳かで、聞いた後は深い感動を味わいます。
 演奏は、カラヤンの好敵手として活躍していたフリッチャイ指揮のベルリンRIAS放送交響楽団(現在のベルリン・ドイツ交響楽団)を指揮がお勧めです。感動的なその演奏は、聞く人を引き付ける魅力あるものです。これから活躍が期待されていたときのフリッチャイの死は、同じハンガリー出身でテルアビブの海で夭逝したイシュトバン・ケルティシュと同様クラシックの世界に深い悲しみをもたらしました。
 次に、「戴冠式ミサ曲」K.317に進みましょう。この曲は、親しみやすいメロディーで、演奏される機会の比較的多い曲です。
 演奏は、クーベリック指揮バイエルン放響がお勧めです。また、晩年のカラヤンがウィーンフィルを指揮した演奏も一聴の価値があります。
 次に、「エクスルターテ・ユビラーテ(踊れ、喜べ、幸せな魂よ)」K.165に行きましょう。この曲は、ソプラノ独唱で美しいメロディーで知られる3楽章が有名で、この3楽章だけ単独で演奏されることもあります。演奏は、シュターダー独唱、フリッチャイ指揮ベルリンRIAS放送交響楽団の演奏がお勧めです。また、エディット・マティス独唱、ベルンハルト・クレー指揮ドレスデン国立管の演奏、それにキャスリン・バトル独唱プレヴィン指揮ロイヤル・フィルの演奏ももお勧めです。
 次に、「アヴェ・ヴェルム・コルプス」に行きましょう。
 この曲は、3分少々のごく短い曲ですが、清楚な性格の魅力は、人の心を洗うようなとても魅力的な曲です。癒しの音楽として、ふさわしい曲のひとつでしょう
 演奏は、優れたものが多く、クーベリック指揮バイエルン放響や、グシュルバウアー指揮ウィーン・バロック合奏団のもの、また、ムーティ指揮ベルリンフィルなどがお勧めの演奏です。
 次に、「フリーメーソンのための葬送音楽」に移りましょう。
 この曲は、告別の音楽として悲しみにあふれるものです。演奏は、ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団、カール・ベーム指揮ウィーンフィル、がお勧めですが、この葬送行進曲を含んだモーツアルトがフリーメーソンのために書いた曲をほとんど網羅したケルテス指揮ロンドン交響楽団も素晴らしくまた希少価値もありお勧めです。
 次に、モーツアルトの最後の作品で未完のままに終わった有名な「レクィエム」に参りましょう。
 未完の部分を、モーツアルトの弟子のジェスマイヤーが補筆したジェスマイヤー版や、バイヤーが補筆したバイヤー版など複数の楽譜があったり、モーツアルトが書いたところまでしか演奏しない記録など様々な演奏があります。その中で、特に優れているものは、カール・ベームがウィーンフィルを指揮したもの、同じベーム指揮ウィーン交響楽団の録音、ブルーノ・ワルター指揮ニューヨーク・フィルの演奏、ミシェル・コルボ指揮リスボン・ブルベキアン響の演奏、カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ管の早めのしまった演奏、カラヤン指揮ベルリンフィルの演奏が優れていて、お勧めです。中でも、カール・ベーム指揮ウィーンフィルの演奏が、一押しの名演です。以上はモーツアルトの直弟子のジェスマイヤーが未完の部分を補筆したものです。しかし、このジェスマイヤー版はどうしてもオーケストレーション等に問題があり、後世いろんな人が改訂版を出しています。その中で代表的なのが、バイヤー版で、この版には、バーンスタイン指揮バイエルン放送交響楽団他の非常に充実した名演奏があり、お勧めです。
 モーツアルトには、重要な作品としてオペラがあるが、全曲を聞くのが苦痛なこともあり抜粋版もいまのところ決定的なものはないので、ここでは取り上げない。また、オペラの管楽合奏盤も癒しの音楽としてはあまりふさわしくないので、同様に取り上げないことにする。
 モーツアルトには、素敵な歌曲がありますが、この歌曲も歌手の声の質によって印象が全く異なるものになってきます。お薦めなのは、エリー・アメリンクの天使のような歌声、それにペーター・シュライヤーの清潔で美しい演奏でしょう。

 次にハイドンに参りましょう。ハイドンは「パパ・ハイドン」と言われているほどたくさんの作品を残しました。交響曲の構成を確立し、弦楽四重奏曲というそれまで無かった新しい分野も作りました。
 ハイドンは、作曲家としては長生き(77歳まで生きました)で、その活動時期はモーツアルト、ベートーヴェンと重なっています。
 まず、交響曲から参りましょう。ハイドンは生涯に100曲以上の交響曲を書いています。ハイドンの特徴は、なんといっても飾らない、虚飾を廃した素朴な音楽の魅力でしょう。ハイドンの交響曲の記録には、104曲を演奏した、ハンガリー出身の名指揮者アンタール・ドラティ指揮フィルハーモニカ・フンガリカのものがあり、演奏自体優れたものです。また、ハンガリーのドラティの後輩にあたるアダム・フィッシャーがこのハイドンの交響曲の記録のために特別編成されたオーストリア・ハンガリー・ハイドン交響楽団を指揮した演奏が2002年発売になりましたが、この演奏も大変優れたものです。しかし、全曲を聞くのは大変ですし、有名で親しみ易い曲にはニック・ネームが付いています。ニック・ネームの付かない曲でも後期の交響曲には優れたものが多く、素朴な音楽は私たちの心に抵抗無く入ってきます。
 まず「22番」の交響曲「哲学者」から行きましょう。この曲のお勧めは、ドラティ指揮フィルハーモニア・フンガリカ、それに将来を嘱望されすっきりした演奏のサイモン・ラトル指揮バーミンガム市交響楽団です。次に「第31番」「ホルン信号」に行きましょう。この曲には、サー・チャールズ・マッケラス指揮セント・ルークス管の素晴らしい名演奏があります。4本のホルンが勇壮に高らかに狩の光景を描写しています。アメリカの新しいオーケストラの一人一人の腕がうまく、ホルンの響きもドイツ風の音色をだしています。次に、有名な交響曲45番「告別」に行きましょう。これは、当時最高のオーケストラであったエステルハーザ宮殿付属のオーケストラの演奏を愛したニコラウス候が、夏休みの休暇に入るのを遅らせてまで演奏を楽しみたがったので、夏休みに入って早く家族の元に帰りたい楽団員の気持ちをハイドンが曲に託したとされるもので、4楽章で自分のパートを終えた団員が次々と舞台から去り、最後に指揮者と第一ヴァイオリン奏者だけが残り、楽団員の気持ちを伝えたといわれる曲で、演奏にはチェロの名手アントニオ・ヤニグロ指揮ザグレブ・フィの優れた演奏や、ドラティ指揮フィルハーモニカ・フンガリカの演奏がお勧めです。次に、交響曲第88番「V字」に行きましょう。これは、ハイドンの傑作のひとつで、代表的な演奏では、柔らかい優しいブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団や、フルトヴェングラー指揮ベルリンフィルの格調の高い演奏がお勧めです。また、この交響曲88番から92番の合計5曲と、ハイドンの協奏交響曲合計6曲をカ−ル・ベーム指揮ウィーンフィルが演奏した素晴らしい記録が残っています。カール・ベームの曲の核心をとらえた見事な解釈と、ウィーンフィルの美しい演奏が1970年代カール・ベームさんの晩年のひとつのモニュメントとして残されています。レコード会社としては、カラヤンにハイドンの後期交響曲の演奏を、ベームさんの演奏を中間に配してその前後を演奏記録として残すもくろみだったのでしょうが、カラヤンの解釈が重すぎてハイドンの持つ良さを余り持っていません。どうせのことなら、ハイドンの後期交響曲はすべてベームさんに任せてほしいと思うくらいの自然体のハイドンの名演奏です。次に、交響曲第92番「オックスフォード」ですが、ベームさんの演奏も素晴らしいのですが、ジョージ・セル指揮クリーブランド管の忘れられない名演奏があります。ジョージ・セルのハイドンの解釈も素晴らしく、録音としては第92番「オックスフォード」、第94番「驚愕」、第96番「奇跡」の3曲しか残されていませんが、いずれも虚飾を廃したかくしゃくとした実に立派な演奏です。出来ればもっと記録として残してほしかったと思いたくなる名演です。次に、交響曲第94番「驚愕〜びっくり交響曲」に進みましょう。この交響曲には、カール・リヒター指揮ベルリンフィルの名演奏があります。この曲を録音していた頃のリヒターさんは有名なバッハの「マタイ受難曲」、「ヨハネ受難曲」、「ロ単調ミサ曲」の記念碑的な録音を残していた時代で、当然のごとく、リヒター指揮ベルリンフィルのハイドンの「驚愕」はピリっと引き締まった贅肉を落とした名演奏です。また、この有名な交響曲94番にはヨゼフ・クリップス指揮ウィーンフィルの名演奏も忘れられません。ヨゼフ・クリップス指揮ウィーンフィルのハイドンにはあと交響曲第99番の名演もあります。ヨゼフ・クリップスは派手さはありませんがこの当時(1950年代後半)にいとつの絶頂期を迎えていたウィーンフィルとの間にこのハイドンの名演奏やモーツアルトのオペラに大変素晴らしい名演奏を残しています。またイギリスの代表的な指揮者コリン・デイビスがアムステルダムコンセルトヘボウを指揮したさわやかな名演奏も魅力です。次に交響曲第95番に進みましょう。この曲にはオットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管の見事な名演奏があります。クレンペラーのハイドンにはほかに交響曲第88番、92番、98番、100番、101番、102番、104番の記録が残っていますが、いずれも一聴の価値があります。次にハイドンの代表作のいとつといっても過言ではない交響曲第100番「軍隊」に行きましょう。この曲にはブルーノ・ワルターがウィーンフィルを指揮した記念碑的な名演と、ステレオ時代になってからコロンビア交響楽団と演奏したこれまた素晴らしい名演があります。いずれも、ワルターの持つ心優しさが前面に出ている名演で、聞く人の心を洗い流してくれるような優しい天国的演奏です。この曲にはイギリスの巨匠トマス・ビーチャムが手兵のロイヤルフィルを指揮したさっぱりとした清潔な演奏も魅力的です。次に、これまたハイドンの代表作と言っても過言ではない交響曲第101番「時計」に進みましょう。この曲には、全盛時代のカール・リヒターがベルリンフィルを指揮した名演奏があります。リヒターさんのきびきびした無駄のない虚飾を廃した解釈と、名人のそろったカラヤン時代のベルリンフィルの音色がとても魅力的です。特に、二楽章の時計のリズムを刻むフルートの音色の美しさは絶品です。
 また、演奏史に画期的な革命的な斬新さをもたらした古楽器奏者たちによるハイドンの交響曲の名演奏もあります。ひとつは、すべて古楽器での演奏で、フランス・ブリュッヘン指揮18世紀管のハイドンの後期交響曲集「ロンドン交響曲集」の演奏、それに現代楽器を使った世界有数のオーケストラのひとつであるロイヤル・コンセルトヘボウ管をアーノンクールが指揮をして、オーケストラに古楽器奏法を行わせたものがあります。18世紀管はすべて古楽器で、音色の変化が面白いものです。ロイヤルコンセルトヘボウ管は、長年アーノンクールと良好な関係を保っている上に、もともとオーケストラとしての技量、音色、合奏力は世界最高レベルですのでそれぞれ面白さに特徴があります
 また、ハイドンの後期交響曲には、魅惑的な演奏をもう少し挙げなければならないでしょう。
 ひとつは、現代を代表する指揮者クラウディオ・アバドがヨーロッパ室内管を指揮した自然な大変ハイドンの美点を表した魅力的な演奏です。これらの演奏は、20世紀後半のハイドンの交響曲演奏のひとつの代表とも言えるでしょう。
 もうひとつは、チャールズ・マッケラス指揮セント・ルークス室内管の演奏です。このなかでは、オーケストラの運動性が抜群で、個々の奏者の卓越した技術が聞き物になっています。人間の技術の素晴らしさが、ひとつの美しい芸術の結晶を結んでいるかのような演奏です。この組み合わせによる、ハイドンの交響曲の演奏記録がもっと出来ることを祈るばかりです。
 また、忘れてならないのは、地味ですが、音楽の持つ本質を本当にしっかりと伝えてくれるオイゲン・ヨッフムがロンドン・フィルを指揮した1970年代前半の名演奏です。ヨッフムの演奏には、ハッタリというものが全く無く、曲の持つ本来の素晴らしさを素直に表現しています。ハイドンの持つしぜんさを堪能できる名演です。
 また、イギリスの名指揮者コリン・デイビス指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管の演奏も曲の持つ魅力を気品を持って演奏されています。デイビスの持つ品性と、ロイヤル・コンセルトヘボウ管の音色の魅力がうまくブレンドされた名演奏ですデイビスの気品ある演奏は、ハイドンやモーツアルト、シューベルト、シベリウスなどで最大に現れています。
 まだまだ、ハイドンの交響曲には秘められた魅力がたくさんありそうですので今後もっともっといろいろな演奏が出てきても良いものと思われます。日本を代表する指揮者の一人、若杉弘さんが交響曲第71番の名演奏の記録を造っていますが、若杉さんにももっと演奏記録を造ってほしいですし、ハイドンを得意にしている広上淳一さんにももっと演奏記録を作ってほしいと願っています。
 また、ソヴィエトで教育を受けたドイツの名指揮者クルト・ザンデルリンクがベルリンフィルの定期演奏会でハイドンの交響曲を大変魅力的に演奏していたのが印象的でしたが、両者の共演によるハイドンの交響曲の録音も望まれます。
 次に、ハイドンの代表的なオラトリオである「天地創造」と「四季」に進みましょう。
 ハイドンの合唱付きのミサ曲としては「ネルソン・ミサ」、「マリア・テレジア」が有名ですが、癒しの音楽としてはあまりふさわしくありませんので省略します。
 「天地創造」はタイトル通り、旧約聖書の一番最初の「創世記」で神が世界を創り上げた箇所を題材にしています。音楽全体に、崇高さが漂い美しい曲です。この曲はベートーベンの晩年の名大作{ミサ・ソレムニス」と同じ頃に書かれ、比較および並び表されている名曲です。演奏はカラヤン指揮ベルリンフィルの演奏が曲の持つ美しさをあますところなく伝えています。
 次に「四季」に参りましょう。これは、「天地創造」が神の仕事を描いて荘厳であるのに対して、一般民衆が四季の移り変わりを楽しみ、四季の恵みを神に感謝する親しみ易い旋律で描かれています。カール・ベームがウィーン交響楽団を指揮した演奏が、作曲者ハイドンの持つ素朴さと、一般民衆の素朴な感情や神への感謝の気持ちをよく表現しています。
 ただし、「天地創造」が2時間以上、「四季」が約2時間の演奏時間を要しますので、またドイツ語の歌詞ですのでクラッシックでも声楽曲に慣れていない人には余りお勧めできないかもしれません。しかし、カラヤン、ベームの演奏は当時の最高のスタッフで演奏されていますので、美しいですからこころに響く方もいらっしゃるものと存じます。
 次に、ハイドンが完成した弦楽四重奏に参りましょう。
 ハイドンの弦楽四重奏曲は、全部で69曲ありますが、現在ハンガリーの名弦楽四重奏団タートライ弦楽四重奏団のものがあります。また、廉価盤のナクソス・レーベルにハンガリーのコダーイ・カルテットが、さらに同じハンガリーの古楽器による弦楽四重奏団フェステティーナSQによる全曲録音が進行中で、これから面白い分野になりそうな気配を漂わせています。
 ハイドンの代表的な弦楽四重奏曲は、ある程度限られています。代表的な弦楽四重奏曲について記します。
 まず、「ひばり」が第一ヴァイオリンの第一楽章の活躍が、ひばりを表現するような明るい明快なメロディーで有名で、一度聞いたら忘れられないような美しい音楽です。代表的な演奏として、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団、アマデウス弦楽四重奏団、スメタナ弦楽四重奏団、ウィーン弦楽四重奏団などが挙げられます。
 次に、第2楽章がオーストリアの第2の国歌になっている、「皇帝」に行きましょう。
 ハイドンの曲は、派手さはありませんが、一度聞くとこころの深いところに留まり、忘れられないものになることがあります。この弦楽四重奏「皇帝」もそんな曲です。戦争に明け暮れた、かつてのヨーロッパの大国は、国民が2つの世界大戦に巻き込まれ疲弊し切ってしまいました。そんな、オーストリアの国民が国歌として慕うハイドンの「皇帝」には平和への願いさえ込められているようにも思えてきます。代表的な、名演は、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団、明るいイタリアの青い空を思わせるイタリア弦楽四重奏団、エマーソン弦楽四重奏団、第一ヴァイオリンのビュヒラーの音色がきつくて好き嫌いが分かれるアルバン・ベルク四重奏団、イギリスの名弦楽四重奏団のアマデウス四重奏団が挙げられるでしょう。
 次に、「五度」に行きましょう。この曲の名演には、ウィーン弦楽四重奏団、アマデウス弦楽四重奏団の演奏がお勧めです。
 初期の弦楽四重奏曲の名曲「太陽四重奏曲」に進みましょう。この曲には、古楽器で演奏したモザイク四重奏団や、旧東ドイツの隠れた名弦楽四重奏団のウルブリッヒ四重奏団の優れた名演があります。また、中期の名弦楽四重奏曲の「ロシア四重奏曲」には、ウィーンフィルのコンサートマスターで現在指揮者として活躍している、ワルター・ウェラーが第一ヴァイオリンを弾いてウィーンフィルのメンバーで構成されたウェラー四重奏団の名演があります。
 また、「騎士」という名曲もあります。この曲には、アルバン・ベルク四重奏団の名演がお勧めです。
 この時代、著作権がありませんでした。作曲家は、自分の曲を演奏するか、出版して楽譜の売れ高で生活するしか生きる道がなく、そのためパトロンを付けるか、修道院で僧侶として生活していることが多いのが事実でした。
 しばらく、ハイドンの「セレナード」として大変有名で美しい曲がありました。実は、よく調べたところ、この有名な曲は、ハイドンの作品ではなく、ロマン・ホフシュテッターという僧侶が本職の人の作品であることが分かりました。作曲家がたとえハイドンではなくても、名曲中の名曲であることには、変わりありません。この「セレナーデ」には、アマデウス四重奏団の大変な名演奏があります。
 アマデウス四重奏団は惜しまれつつ解散しました。現在聞ける「セレナーデ」の名演はウィーン四重奏団です。
 ハイドンの弦楽四重奏曲には、名曲が多く、ただ、名演が少ないためまだまだ一般化していません。たびたび、来日して素晴らしい演奏を披露してくれるライプツィッヒ・ゲヴァントハウス四重奏団は新しく優秀な第一ヴァイオリン奏者ミヒャエル・エルベンが入り、音色が大変美しくなっているので、今後ハイドンの四重奏曲の記録を作ってくれることを望みます。また、日本人の弦楽奏者にはたくさんの名手がいるので、日本人の弦楽四重奏団の活躍も今後期待されます。サイロウキネン・オーケストラのメンバーや、寺戸亮を中心とした古楽器の四重奏団など、またロンドン国際弦楽四重奏コンクールで優勝した若いクァルテット・アルモニコにも今後の活躍を期待したい。
 次に、ハイドンのピアノ・ソナタに進みましょう。
 今まで、ハイドンのソナタには、アルフレッド・ブレンデルや、エフゲニー・キーシンなどの名演があったが、全曲録音はなくその魅力はあまり知られていなかった。しかし、ウィーンの若手のローランド・バティックが素晴らしいハイドンのピアノ・ソナタ全曲録音を完成させた。この演奏は、ハイドンの新しい魅力を現代に蘇らせたもので、ハイドンの持つ生命力を内面に湛えているので、今後癒しの音楽領域にも用いられることだろう。また、ルドルフ・ブーフビンダーも全曲録音を行っており、ハイドンの持つ魅力に新たな光を投じています。
 さて、次にハイドンの「チェロ協奏曲第2番」に行きましょう。この曲は、ハイドンの全作品の中でも最高の気品と上品さを兼ね備えた名曲です。聞く人を、典雅な古典の世界にいざなってくれます。癒しの音楽として、ふさわしい名曲です。
 演奏は、チェロの神様パブロ・カザルスが指揮を取り、愛弟子のモーリス・ジャンドロンを独奏者に立てた演奏がとても素晴らしいです。曲の持つ優雅さと会うのか、同じフランス人の名チェロ奏者であるピエール・フルニエが独奏で、パウムガルトナー指揮ルツェルン音楽祭管の演奏も優れたものでお勧めです。
 次に、ハイドンの最期の管弦楽作品になった、これまた名曲のトランペット協奏曲に参りましょう。
 この演奏は、優れた演奏が多く、トランペット奏者は一度は演奏している名曲です。その中でも、20世紀を代表するトランペット奏者のモーリス・アンドレがパイヤール指揮パイヤール室内管と共演した演奏が、落ち着いていてハイドンの持つ素朴さと、アンドレのほどよいヴィヴラートの効いた美しい柔らかい音色と、パイヤールの中庸な演奏が我々のこころに、優しく染み込んでくる名演で一押しです。
 次に、ハイドンの歌曲集に進みましょう。
 この曲には、エリー・アメリンクの素晴らしい演奏が、断然お薦めです。

 次に、ベートーヴェンに行きましょう。
 まずは、ベートーヴェンの交響曲から行きましょう。
 ベートーヴェンの交響曲というと、癒しの音楽から遠いもの、無縁のものと思われる方も多いものと思います。しかし、多くの人生の危機を乗り越え克服したベートーヴェンの曲には、聞く人に生きる勇気と、前向きの姿勢を与えてくれるものも、また、安らぎを与えてくれるものもあります。
 もちろん、演奏者や、曲の解釈により、同じ曲でも私たちが感じる印象は、随分異なってきます。
 たとえば、有名な交響曲第3番「英雄」ですが、この曲にはオランダの名指揮者カール・ファン・ケンペン指揮ベルリンフィルの大変雄渾な演奏があります。この演奏は、聞くものに勇気と人生を前向きに生きる力を与えてくれる名演です。また、フルトヴェングラーがウィーン・フィルを指揮した演奏は、曲の持つ良さをよく表現しています。この演奏は、この曲の本質を心に訴えてくる名演奏です。ちなみにこのベートーヴェンの名曲には、若杉 弘指揮ドレスデン国立管の実にすっきりとした清潔かつ高潔な名演奏があります。若杉 弘氏は、曲の本質の持つみずみずしさを引き出す名指揮者です。もっと記録を残してほしい指揮者です。
 交響曲第4番は最もベートーヴェンらしさを持った名曲ですが、なかなか理想的な演奏にめぐり合いません。ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルの演奏が、曲の持っている雄渾さ、精神性の高さを最も的確に表現したものとして、聞く人に大きなベートーヴェンの精神を伝えています。また、2001年12月に発売されたギュンンター・ヴァント指揮北ドイツ放送交響楽団の演奏はこの曲の理想的な名演奏として記憶されるにふさわしい名演奏でお薦めです。
 昔から有名でベートーヴェンの代表曲みたいに言われていた交響曲第5番には、雄渾な演奏は満ち溢れていましたが、ヒーリングミュージックとなる演奏にはなかなか出逢いません。その中では、昔から評判の高いワルター指揮コロンビア交響楽団の名演奏や、ザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団の演奏がこころに染み入る名演奏になっていてお勧めです。
 交響曲第6番「田園」は、名曲中の名曲、かつ癒しの音楽の代表として、音楽史に不動の位置を確立しています。ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団の演奏が、ワルターの温厚な性格をそのまま表したような、心温まる名演奏です。また、カール・ベーム指揮ウィーン・フィルの演奏も、ベームの的確なテンポ設定で、この曲の理想的な名演で、聞く人に深い感動を与えてくれる素晴らしいものです。この時期のベートーヴェンは、精神的に最も安定していた時期で、「ヴァイオリン協奏曲」や「ピアノ協奏曲第4番」など心休まる、こころがあったまる音楽がたくさん作られています。これらの名曲については後ほど述べましょう。
 ベートーヴェンの交響曲第8番の第2楽章はメトロノームが発明された頃の曲で、この楽章はメトロノームを模したものともいわれていますが、安定したリズムを持つこの曲は、聞く人に安心感を与えてくれます。ただ、リズムを刻む木管の音色がきれいなほうが良く、カラヤン指揮ベルリンフィルの60年代と70年代のベルリンフィルに世界最高の奏者が集まっていた時代の演奏が、美しく心地よいものになっています。
 第九交響曲「合唱付き」も、聞く人に深い感動を与えてくれる名曲です。定盤となっているフルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管(1951年ライヴ)は、曲の進行により感動が高まるような演奏で、最終楽章でのアッチェランド(テンポのアップ)はオーケストラも指揮者についていくのがやっとの猛スピードで終わりますが、感動もひとしおです。同じフルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管の演奏に1954年のライヴ録音に1954年のライヴ録音が2003年の年の暮れに加わりました。この演奏は音楽評論家「吉田秀和」氏が実演を聞いて絶賛された名演奏です。1951年の記録よりも表現がマイルドになり滋味深い素晴らしい感動的な名演奏です。また、カール・ベーム指揮ウィーンフィルの演奏も、しっかりしていて曲の持つ素晴らしさを感動的に表現しています。同じベーム指揮ウィーン交響楽団の古い演奏も実に立派で感動的です。また、ミュンシュ指揮ボストン交響楽団の演奏は、レコーディングでもライヴのように燃焼し尽くしたミュンシュの迫力満点の演奏で、ベートーヴェンのこの人類の理想を歌った精神が伝わってくるような名演奏です。また、オイゲン・ヨッフム指揮ロンドン交響楽団の演奏も、この曲の持つベートーヴェンの祈りが伝わってくるような名演で感動的です。また、正式発売はされていませんが、旧東ドイツの名指揮者ヘルベルト・ケーゲルが手兵のライプツィヒ放送交響楽団と合唱団をしきした素晴らしいライブ演奏も感動的で魅力的です。旧東ドイツから亡命したクラウス・テンシュテットという指揮者はライヴでとても感動的な演奏をすることでイギリスやアメリカでは大変人気の高い指揮者でした。そのテンシュテットがロンドン・フィルを指揮したライヴ録音の記録が2003年末に発売されましたが生気溢れる好演奏でお勧めです。また、2003年12月に発売されたオットー・クレンペラー指揮のライヴ録音(1961)も感動的です。
 次に、「ミサ・ソレムニス」別名「荘厳ミサ曲]に進みましょう。この曲は、第九交響曲と前後して作曲されました。この2曲を作曲中、ベートーヴェンは神を見たと言われるくらい、人格が変貌してしまうくらい見かけも人格も変わったそうです。ベートーヴェンは、この曲を作曲した後は、ピアノ・ソナタを数曲、弦楽四重奏曲を数曲作曲しただけで、管弦楽曲など規模のおおきな曲を作っていません。ただし、そのピアノ・ソナタも弦楽四重奏曲もいずれも内容は哲学的であり、ベートーヴェンの精神に何らかの大きな変化が起きたことは間違いないようです。もしかしたら、「第九交響曲」と「ミサ・ソレムニス」という祈りの曲を作曲中、ベートーヴェンは聖書を繰り返して読み、過去の宗教曲も相当調べたそうですので、もしかしたら神との遭遇体験を本当にしたのかも知れません。それだけ、演奏が難く、名演奏もすくないのが本当です。この「ミサ・ソレムニス」にはもう一つ神体験に似たことが起こっています。クレンペラーという大指揮者は晩年、下半身麻痺になって車椅子生活をしていました。当然、指揮をする時も車椅子で指揮をします。ところがです。不思議なことに、クレンペラーがベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」を指揮するとき、曲が進行するに従い、下半身麻痺のクレンペラーが車椅子から立ち上がって自分の足で立って指揮をする姿が何度も確認されていますが、これは、医学的には不可能なことです。演奏するクレンペラーにも、この曲が神体験のような影響をもたらしたのかもしれません。その、クレンペラーがニュー・フィルハーモニア管弦楽団を指揮した演奏が記録として残っています。この演奏も、素晴らしいものです。また、カール・ベームがウィーンフィルを演奏した記録はウィーンフィルの夭逝した将来を嘱望されていた名コンサートマスターのゲルハルト・ヘッツェルさんが素晴らしい独奏をしています。その独奏だけでも感動的です。また、ベームがフルトヴェングラー時代の音色を残すベルリンフィルを指揮した演奏もまた全然違った意味で名演です。この録音の合唱はベルリンの聖ヘドウィッヒ教会の合唱団が受け持っていますが、このカトリックの合唱団はヴィブラートをかけない唱法ですが、これが、この曲に清麗さをもたらしているのです。また、もうすぐカラヤンによって音色が全く異なってしまうベルリンフィルが重厚な音色と合奏力で大変迫力があります。また、レナード・バーンスタインが相性の良かったアムステルダム・コンセルトヘボウ管を指揮した演奏は、この曲を一気呵成に演奏し上げた、実にすがすがしい印象をこの曲に与えています。この曲を新しい魅力を持って感動的に表現した素晴らしい名演です。
 次に、ベートーヴェンのピアノ協奏曲に進みましょう。
 まずピアノ協奏曲第一番です。ベートーヴェンの若いエネルギーを全曲からみなぎらせる、リヒテル独奏ミュンシュ指揮ボストン交響楽団の演奏がお薦めです。また、堂々としたバックハウス独奏イッセルシュテット指揮ウィーンフィルの演奏や、きれいで自由を楽しむフリードリッヒ・グルダ独奏ホルスト・シュタイン指揮ウィーンフィルの演奏がお薦めです。
 第3番は、有名なハイリゲンシュタットの遺書をベートーヴェンが書いた時期の作品で5曲あるピアノ協奏曲の中で、唯一の短調の曲です。精神性が高く内容も劇的のものを内蔵している名曲です。グルダ独奏シュタイン指揮ウィーンフィルの演奏、バックハウス独奏イッセルシュテット指揮ウィーンフィルの演奏、ツィンマーマン独奏バーンスタイン指揮ウィーンフィルの演奏、ポリーニ独奏ベーム指揮ウィーンフィルの演奏、ブレンデル独奏ラトル指揮ウィーンフィルの演奏、内田光子独奏ザンデルリンク指揮バイエルン放響の演奏など名演奏が目白押しです。
 第4番は静かな、落ち着いた癒しの音楽にふさわしい名曲です。同じ時期に書かれたヴァイオリン協奏曲(後述)も同様に、大変平安に満ちた名曲です。グルダ独奏シュタイン指揮ウィーンフィルの味わい深い演奏、バックハウス独奏イッセルシュタット指揮ウィーンフィルの堂々とした演奏、ツィンマーマン独奏バーンシュタイン指揮ウィーンフィルの美しさ溢れる演奏、ブレンデル独奏ラトル指揮ウィーンフィルの好演、内田光子独奏ザンデルリンク指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管の静寂な美しさをたたえた演奏、ポリーニ独奏ベーム指揮ウィーンフィルの骨太な演奏、エミール・ギレリス独奏ジョージ・セル指揮クリーヴランド管の洗練された精神性が印象深い演奏、クラウディオ・アラウ独奏コリン・デイヴィス指揮ドレスデン国立管弦楽団のたっぷり叙情あふれる演奏など名演奏がたくさんあります。
 第5番は「皇帝」という名称がつくくらい壮大で、雄大な曲です。ベートーヴェンの最後を飾るにふさわしい名曲です。一楽章、三楽章が雄大かつ壮大な曲ですが、その間に挟まれた二楽章は静かな中にも静かで少しもの悲しく、印象深い中間楽章になっています。
 (個人的に、私はこの有名なピアノ協奏曲第5番「皇帝」の第二楽章には特別な思いがあります。
 それは、私が初期研修医として、東北大学の麻酔学教室に在籍していた時のことでした。
 その当時の教授は人工呼吸、集中治療学で世界的な権威の「天羽敬介」先生でした。「天羽」先生もちょうど脂が乗り切って、論文、学会に大活躍で、「天羽」先生を慕って東北大学の麻酔学教室に他大学から入局してくる医師もたくさんいました。その中で、突然降って沸いたような話「東京医科歯科大学」の医学部の麻酔科の教授に就任する話が出てきたのです。同じ国立大学でも東北大学が歴史が深く、東北の拠点大学と位置付けられ、東京医科歯科大学は国立の歯学部として日本で一番早く開設された大学で、医学部が作られたのは歯学部にはるか遅れた昭和18年のことで、歯学部の力が医学部より強く、また歴史の上から、国家予算も東北大学のほうが多く研究もやりやすかったのです。このような理由から、「天羽」先生が東北大学から東京医科歯科大学に移籍する理由は何もなく、当然「天羽」先生は、その話を固辞されていました。しかし、連日連夜の東京医科歯科大学からの教授就任の依頼に、ついに「天羽」先生は東北大学の教授をやめて東京医科歯科大学の教授に就任せざるを得ないこと、それが当時の東京医科歯科大学の麻酔学教室を救う唯一のみちであることを承知せざるを得ない状況になり、東北大学の教授を辞任することになりました。当時の医局員も皆大変驚きましたが、「天羽」教授の意思が固いことで反対することは出来ませんでした。
 その、「天羽」先生の、医局挙げての送別会が開かれました。その時の医局長で現在の近畿大学医学の麻酔学教室教授「古賀義久」先生から、私に「天羽」先生の送別会の、音楽を担当することを命ぜられました。その送別会の冒頭で、「天羽」教授を始めとして医局員が送別会場に入る時の音楽として私の頭に迷わず浮かんだのが、このベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」の第二楽章でした。その時の医局員の気持ちをぴったりと表現した曲だったからです。)
 この曲にも名演奏が目白押しです。
 ユニークな演奏をお好みの方には、グレン・グールド独奏ストコフスキー指揮アメリカ交響楽団の演奏がお薦めです。とにかく、この演奏はグレン・グールドの個性が満点で、音楽界の大先輩であるストコフスキーが良くグールドの解釈を理解して巧みな伴奏でグールドを盛り立てています。
 ポリーニの独奏ベーム指揮ウィーンフィルの格調高い堂々とした演奏、グルダ独奏シュタイン指揮ウィーンフィルのこまやかな気配りの中にも力強い演奏、バックハウス独奏イッセルシュテット指揮ウィーンフィルの堂々としてなおかつ温かみのある演奏、ツィンマーマン独奏バーンスタイン指揮ウィーンフィルの素晴らしい精神性が込められた演奏、ブレンデル独奏ラトル指揮ウィーンフィルの初々しい次世代を予感させる演奏、内田光子独奏ザンデルリンク指揮バイエルン放響の繊細な中にもスケールの大きな演奏、ギレリス独奏セル指揮クリーヴランド管のきりりと引き締まった演奏など名演奏がたくさんあります。
 次に、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲に進みましょう。
 この曲は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番や田園交響曲とほぼ同じ頃描かれ、ベートーヴェンの心中が一番安定していた時の曲で、静かで美しく、癒しの音楽としては最適の音楽の一つでしょう。それだけ、演奏が難しく、なかなか良い演奏にめぐり合いません。その演奏の中で、燦然と光り輝く演奏はダヴィド・オイストラフ独奏アンドレ・クリュイタンス指揮フランス国立放送フィル(現在のフランス国立管)の演奏でしょう。20世紀を代表するヴァイオリニストのオイストラフが、彼の持つスケールの大きさを遺憾なく発揮した演奏で、クリュイタンスもクリュイタンスの人間性がにじみ出るような、実にさわやかな伴奏を行っており、理想的な名演になっています。聞いていて、思わず曲と演奏の素晴らしさに我を忘れてしまうほどの名演です。次にイツァーク・パールマンがジュリーニ指揮フィルハーモニア管の好サポートを得た名演奏が素晴らしいです。ジュリーニは元来スケールの大きな音楽作りをする指揮者で、そのスケールの大きな伴奏に乗って、パールマンが美しい音色で色つけし、旋律を奏でます。パールマンはどちらかというと明るい演奏を行うのが特徴ですが、ここではジュリーニの豊かな音楽性に素直に従い、名演奏を行っています。あと、カール・ズスケ独奏マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス官の演奏も感動的です。ズスケは、旧来のドイツ人のもっていた奏法で、少しまじめに、しかし曲の良さを十二分に表現した好演奏を行っております。隠れた名演奏の一つでしょう。現在、世界のヴァイオリン界の頂点に立つクレンメルはアーノンクール指揮ヨーロッパ室内管と組んで演奏していますが、カデンツァがシュニトケ作曲のものを使っていますので、きれいな演奏の中に突然現代音楽が表われ、クレンメルも故意にヴァイオリンの生の音を使ったりしていますので、カデンツァが無ければ癒しの音楽として推薦できるのですが、このカデンツァがベートーヴェンの美しさをかき消しています。クライスラーか、ヨアヒムのカデンツァを使って録音しなおしてほしいほど他の部分はきれいなのですが、おしまれます・・。 また、チョン・キョン・ファ・の独奏、ロシア出身の名指揮者キリル・コンドラシンがようやく西側に脱出し、これからの活躍を期待されながら、わずかの録音を残しただけで亡くなったその白鳥の歌の一枚のウィーンフィルを指揮してチョンをサポートした演奏も素晴らしいものです。また、美しい音色で、一世を風靡したアルテュール・グリュミオーの独奏、ハイティンク指揮フィルハーモニア管の演奏も素晴らしいです。オケがロイヤルコンセルトヘボウ管なら、もっとコクが出たろうにと少々残念な面もありますが・・・・・。
 次に、ベートーヴェンのヴァイオリンとオーケストラのための二つのロマンスに参りましょう。この二曲とも慈愛に富み、癒しの音楽としてふさわしいものです。演奏には、グリューミオー独奏ハイティンク指揮ロイヤルコンセルトヘボウ管の名演や、旧東ドイツを代表するカール・ズスケがボンガルツ指揮のライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管の男性的な演奏、ズーカーマンの名演があります。
 次に、ピアノソナタに進みましょう。 
 まず、ピアノソナタ第8番「悲愴」は、大変に美しい曲で、聞く人のこころを深く捉える名曲です。名演奏も、。たくさんあります。まずは、鍵盤の獅子王といわれたウィルヘルム・バックハウスのステレオ録音がお薦めです。大きな風格が、にじみ出るスケールの大きな演奏です。次に、アルフレド・ブレンデルの歌心に満ち溢れた演奏も、大変魅力的です。また、リヒテルの演奏も魅力的です。リヒテル同様旧ソ連出身の、エミール・ギレリスもベートーヴェンのソナタ選集の素晴らしい記録を残しました。リヒテルの演奏が推進力のある名演、ギレリスの演奏がオーソドックスな中にも豊かな表情を湛えています。グルダの演奏も、そのタッチの美しさが独特の魅力を持っています。
 次に、ピアノソナタ第14番「月光」に行きましょう。この曲も名演奏がたくさんあります。
 ポリーニの演奏は、完璧と言っても過言ではない意思の高さ、集中力、技術力でこの曲の理想的な名演の一つです。また、ブレンデルの演奏は情感がたっぷりっと全曲に流れ、独特の魅力を持っています。ギレリスの演奏は、少し固めの表現の中に繊細な表現が魅力的です。ソヴィエト崩壊後出てきた、ヴェデルニコフの演奏は、あじわい深く、感動的です。バックハウスの演奏は、スケールの大きな演奏です。
 次に、ピアノソナタ第15番「田園」に進みましょう。この曲にも、名演奏がたくさんあります。まず、ポリーニの演奏は、明るくかつ、良く考え抜かれた名演奏です。また、ギレリスの演奏は考え抜かれ、穏やかな演奏になっています。また、日本を代表する名ピアニスト園田高弘の演奏も、大変立派で印象深いものになっています。また、ブレンデルの演奏は、細部まで考え抜かれた知的な名演です。バックハウスの演奏は、大きな風格に満ち溢れた名演奏になっています。クラウディオ・アラウの演奏は、ふくよかで品の良い演奏です。
 次に、ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」に参りましょう。エミール・ギレリスの演奏が、この曲の良さを最大限表した名演奏です。ポリーニの演奏は、構成力の大きさの魅力で一気に聞かせてくれる名演奏です。ブレンデルの演奏は、とにかく音が美しい素晴らしい名演です。バックハウスの演奏はそのスケールの大きさがとても魅力的です。フリードリヒ・グルダの演奏は、個性的な演奏で、構成力も素晴らしく聞き応えのある名演奏です。クラウディオ・アラウの演奏は、堂々としていて立派な名演です。
 次に、ピアノソナタ第26番「告別」に進みましょう。
 この曲にもたくさんの名演奏がありますが、ポリーニの演奏は完成された完璧な安心して聞ける名演奏です。また、ギレリスの演奏も、大変素晴らしく、重厚な音楽作りのなかにも豊かさを含んだ名演です。また、バックハウスのステレオ録音も、誠実な演奏が感動をもたらしてくれます。また、歌心に満ち溢れたグルダの演奏も、お薦めです。また、ルドルフ・ゼルキンのカーネギー・ホールでのライヴ録音も素敵です。虚飾を廃したその演奏からは、曲自体の持っている素晴らしさが伝わってきます。
 次に、ピアノソナタ第32番に参りましょう。この曲はベートーヴェンの最後のピアノソナタですが、悲劇的な第一楽章が、明るい第二楽章に進み、「人生は苦難の中を進み、それを克服すると歓喜の勝利の世界に進む」というベートーヴェンが生涯持ち続けたテーマの結晶のような音楽です。演奏には、バックハウスのステレオ録音の名演奏があります。このバックハウスの演奏を聞いているうちに、自然に感動に包まれること間違いないでしょう。また、ポリーニの演奏は、考えに考え抜かれた名演奏です。また、リヒテルの演奏は、一楽章をスケール大きく、二楽章を静かに感慨深く演奏したもので、ユニークですが、ベートーヴェンの意図したものの意味を考えさせられる名演奏です。また、ソヴィエト崩壊後に出てきたヴェデルニコフの演奏は、ベートーヴェンの曲にこめたメッセージをまじめに誠実に表現したもので、これまた感動物です。
 この他、ベートーヴェンの変奏曲を集めたリヒテルの名盤も美しい音色で、聞く人のこころが洗われるような名演です。
 次に、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタに進みましょう。
 全集では、20世紀を代表するダヴィド・オイストラフのヴァイオリン、レフ・オボーリンのピアノ、が実に堂々としていて代表的名演です。また、美しい音色が魅力のアルテゥール・グリューミオーのヴァイオリン、クララ・ハスキルのピアノ伴奏は、美しさいっぱいで、癒しの音楽にはもってこいです。あと、知的でやはり、20世紀から21世紀にかけてヴァイオリン界を代表するギドン・クレンメルが奔放な演奏のマルタ・アルゲリッチと組んだ演奏も素敵です。
 次に、チェロ・ソナタに参りましょう。
 このソナタ集は、名演に恵まれています。代表的な演奏は、お互いに絶頂期にあったロストロポーヴィッチのチェロ独奏、リヒテルのピアノ伴奏です。その気迫溢れる演奏は、聞くものに生きる勇気と喜びさえ与えてくれます。特に第3番から第5番の3曲が絶品です。また、録音は古いのですが、チェロの神様パヴロ・カザルスのチェロ 独奏、ホルショフスキーのピアノ伴奏は、激しさと優しさの融合した歴史的な名演奏です。また、フランスの巨匠ピエール・フルニエの独奏、ドイツの名ピアニスト、ウィルヘルム・ケンプのピアノ伴奏の演奏は、気品溢れる名演奏で、聞くものに、豊かな人間の感性を伝える名演奏です。また、このフルニエが若き日のウィーンの名ピアニスト、フリードリヒ・グルダと組んだ演奏は、フルニエの気品と、グルダの美音がマッチした味わい深い名演です。
 次に、ベートーヴェンの若き日の弦楽三重奏のためのセレナードに行きましょう。
 グリューミオーのヴァイオリン、エヴァ・ツアコのヴィオラ、ヤンツェルのチェロが美しい耽美の世界にわれわれを誘ってくれます。また、録音は古いのですが、シモン・ゴールドベルグのヴァイオリン、作曲家またヴィオラ奏者として有名なパウル・ヒンデミットのヴィオラ、チェロの名手フォイアマンの3人が組んだ演奏は、忍び寄るナチスの台頭の直前の録音で、独特の感動を誘う名演奏です。
 次に、フルート・セレナーデに進みましょう。
 この曲は有名な曲ですが、あまり評判にならないドレスデン国立管のトップが組んだ演奏が素晴らしいです。ソロフルーティストのヨハネス・ワルターの玉を転がすような音色の何ときれいなことか。このような、名手がドレスデン国立管のあの見事な自己犠牲とでも言いたくなるような素晴らしい一つに溶けた音色を作り出すのかと思うと、それは感動的です。このオケには他にソロフルーティストのギュンター・タストがいたり、ホルンにはペーター・ダムがいたりと、名人それも世界指折りの名人がたくさんいて、その名手たちが多大な練習時間をかけて、いわゆるドレスデンサウンドと呼ばれるひとつの素晴らしい楽器を作ってしまう、そして、若い人をエキストラとして入れて、自分たちの音作りを伝達していく、それが450年以上もの伝統を持つドレスデンサウンドという独特のアンサンブルを作っていく。本当に感動的です。
 また、マクサンス・ラリューがフルート独奏を持ち、グリュミオーと組んだ演奏も、美しくこころ踊る名演奏になっています。
 次に、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲「大公」に参りましょう。この曲はスケールの大きな曲で聞く人にベートーヴェンの雄大な世界を与えてくれるでしょう。演奏では、オイストラフがヴァイオリン、オボーリンのピアノ、クヌシェヴィツキーのチェロの組み合わせの演奏がスケールの大きな演奏でお薦めです。また、ルービンシュタインのピアノ、シェリングのヴァイオリン、フルニエのチェロの組み合わせの演奏も気品のある素晴らしい名演奏を繰り広げています。また、ホルショフスキーのピアノ、シャンドル・ヴェーグのヴァイオリン、パブロ・カザルスの演奏は歴史的な名演で、非常にスケールが大きく、聞く人に大きな深い感動を与えてくれるでしょう。また、チェコの名手ピアノのヤン・パネンカ、ヴァイオリンのヨゼフ・スーク、チェロのフッフロの演奏は、中庸で落ち着いた名演です。
 次に、ベートーヴェンの七重奏曲に進みましょう。この曲は、ベートーヴェンの初期の名曲です。楽しく、美しい旋律がたくさんちりばめられています。癒しの曲としても、ふさわしい名曲です。演奏は、ベルリンフィル八重奏団の名演奏が一押しの名演です。また、ベルリンゾリステンの演奏も良いですし、ウィーン八重奏団の演奏、少し録音は古いですがバリリ弦楽アンサンブルとウィーン・フィルハーモニー木管グループの共演など、ベルリンフィルとウィーンフィルのメンバーの演奏が美しく、こころに気持ちよく響きます。
 次に、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲に行きましょう。
 弦楽四重奏曲は全部で16曲ありますが、作曲時期によって、最初の6曲を初期、7番から11番までを中期、12番から16番を後期に分け、作品の内容も大きく異なってきます。
 このうち、癒しの音楽に使えるのは、まず、第9番「ラズモフスキー第3番」でしょう。この曲はベートーヴェンの強い意志と力がみなぎる名曲で、聞く人に勇気と前に進む力を与えてくれるでしょう。
この曲には名演奏がたくさんあります。まず、メロス弦楽四重奏団の演奏が、生き生きしていてみずみずしい生命力を良く伝えてくれます。また、チェコのスメタナ弦楽四重奏団の演奏も、落ち着きの中にアンサンブルの楽しさを十分に伝えた演奏です。少し古いですが、ブタペスト弦楽四重奏団の演奏が内包するエネルギーが、素晴らしいです。さらに古くなりますが、ドイツの一時代を画した名弦楽四重奏団のブッシュ弦楽四重奏団の演奏も素晴らしいもので、感動的な情熱的な演奏になっています。また、第一ヴァイオリンのギュンター・ピヒラーの音色がすこし硬いですが、アルバン・ベルグ弦楽四重奏団の演奏も優れています。
 次に、弦楽四重奏曲第10番「ハープ」も独特の雰囲気を持った曲です。この曲は聞く人に平安な気持ちを与えてくれるでしょう。
 まず、チェコのスメタナ弦楽四重奏団がこの曲のよさを最も良く表した演奏でしょう。スメタナ弦楽四重奏団のメンバーは本当に良くたっぷり時間を掛けて練習しました。本番の演奏は、楽譜無しで全員暗譜で演奏するくらい弾き込んでいました。お互い音符を確認しあうよう、バランスの取れ具合を演奏しながら、お互い会話を交わすように演奏していました。その成果が最も実ったのが、この「ハープ」といえるでしょう。また、メロス弦楽四重奏団の演奏も美しく、印象的です。また、東ドイツを代表するベルリン弦楽四重奏団の演奏も、作品のもつ良さを素直に表現した特筆すべき名演奏です。
 次に、弦楽四重奏曲第12番に行きましょう。後期の弦楽四重奏曲は皆、難しい面をもっていますが、この曲は例外的に全曲美しいメロディーの曲です。この曲のお薦めは、メロス弦楽四重奏団、ベルリン弦楽四重奏団、スメタナ弦楽四重奏団、アルバン・ベルク弦楽四重奏団、ウィーン弦楽四重奏団、アマデウス弦楽四重奏団、ブタペスト弦楽四重奏団など多くの楽団が見事な演奏を聞かせてくれます。13番以降の哲学的な内容を持つ、弦楽四重奏曲に対して、その直前に咲いた美しい第12番は聞く人の心に自然に人懐こく入り込む名曲なのです。
 次に、第13番の最終楽章として描かれた「大フーガ」に進みましょう。この曲は、普通弦楽四重奏曲第13番からは、切り離されて、独立して演奏されることの多い曲です。内容が、大きくスケールのとても大きな曲で、15分前後の曲ですが、その大きさは宇宙的な大きさを持っています。弦楽合奏用にも編曲されており、オーケストラのコンサートで演奏されることもある曲です。最初は聞きにくいかもしれませんが、一端この曲の持つ宇宙的スケールに触れると、感動的な気持ちになります。演奏では、メロス弦楽四重奏団、ベルリン弦楽四重奏団、アルバン・ベルク弦楽四重奏団、スメタナ弦楽四重奏団、ラサール弦楽四重奏団、ブッシュ弦楽四重奏団など名演奏が目白押しです。弦楽合奏版では、フルトヴェングラー、アンドレ・プレヴィンなどが素晴らしい演奏を行っております。
 次にシューベルトに行きましょう。
 シューベルトは歌曲の王と言われているくらいですので、そのメロディーメーカーとしての才能は素晴らしいものがあります。美しい旋律を持つ曲がたくさんあります。普通は変奏曲で曲をつないでいく場合でも、シューベルトの場合は溢れる旋律をつないでいって曲を完成させていく場合もあります。
 まず、交響曲に行きましょう。シューベルトの交響曲は、第5番と第8番「未完成」、第9番「ザ・グレート」が有名で、演奏される機会も多いでした。しかし、個々の全8曲の素晴らしさを、本当の意味でわからせてくれたのは、イギリスを代表する指揮者で、ドレスデン国立管弦楽団が450年以上の長い歴史の上で史上最初に、桂冠指揮者に選定された、コリン・デイヴィスがドレスデン国立管弦楽団を指揮した、シューベルトの交響曲全集でしょう。この演奏は、シューベルトの歌う曲の本質を実に見事に表現し、しかも上品に、爽快に、さっそうと演奏した素晴らしい演奏です。全8曲を続けて聞いても、全く飽きない、いやみの無い素晴らしい演奏です。それまでも、カール・ベーム指揮ベルリンフィルの格調高い名演奏や、サヴァリッシュ指揮ドレスデン国立管のチャーミングな演奏がありましたが、シューベルトの持つ運動性、旋律の歌わせ方でデイヴィス指揮ドレスデン国立管のような素晴らしい演奏はありませんでした。ドレスデン国立管が450年以上の古い歴史の中で、コリン・ディヴィスを始めて桂冠指揮者に選んだ理由が大変納得のいく素晴らしい名演です。全8曲通して聞いても、素晴らしい演奏ですので、癒しの音楽としても、大変ふさわしいものになっております。また、伝統を重んじるドレスデン国立管を、愛していたのがカール・ベームであり、当時東西両ドイツに分かれていたが、ベームさんがドレスデン国立管を指揮しに行く時は、国境警備隊に連絡しておいて、ヘリコプターで国境を越えて嬉々として行っていたそうな。その両者のライヴ演奏が記録に残っているが、金管楽器に思い切り「生」の音で吹かせたり、ドレスデン国立管らしからぬ実に男性的な荒々しくも魅力的な演奏です。ちなみに、同様なことはベートーヴェンのオペラ「フィデリオ」の演奏の記録として残っていますので、ご興味ある方、一度聞いてください。
 次に、弦楽四重奏曲に進みましょう。代表的な名曲は「死と乙女」ですが、これにはボロディン弦楽四重奏団の素晴らしい名演奏があります。ソヴィエト連邦崩壊後のロシアの演奏家の音楽はつまらないとお感じの方には、是非お薦めです。ゲルギエフとボロディンSQだけは、ソヴィエト時代の凄さを持ち続mけているようです。2楽章の有名な自作の歌曲「死と乙女」の演奏が、情緒たっぷりで聞く者の心に染み込んできます。少し古くなりますが、ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団の演奏は、古きよき時代のウィーンの優雅な伝統が魅力的です。他に、ウィーン・アルバン・ベルク弦楽四重奏団の演奏もお薦めです。次にこれまた代表的な名曲「ロザムンデ」には、ウィーン・アルバン・ベルク弦楽四重奏団の演奏がお薦めです。この曲も自作の有名な歌曲「ロザムンデ」の旋律を2楽章に使用しています。甘い独特のムードを持つ曲です.全曲録音としては、戦後のウィーンの名団体であるウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団が古きウィーンの情緒深い名演奏でお薦めですし、また、イギリスを代表するアマデウス弦楽四重奏団の演奏も素敵です。両者とも弦楽器の音のきれいさが魅力です。シューベルトの作品は、メロディーが美しくきれいなメロディーときれいな演奏で癒される人多いと思います。以上、2曲がシューベルトの弦楽四重奏曲の代表的な名曲です。でも、この2曲だけで終わりにするにはあまりにももったいない、名曲、また、癒しの音楽が入っている曲がたくさんあります。シューベルトは、メロディーがきれいなので、聞き流していても、こころ洗われたり、うっとり魅せられる曲がたくさんあります。
 全曲聞いてみることも、お勧めします。全曲では、古きよき時代の名残を持っているウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団や、すっきりした解釈の中にもシューベルトの音楽の持つ強さやしなやかさを併せ持ったメロス弦楽四重奏団の名演、イギリスを代表する1960年代から1980年代世界的に活躍したアマデウス弦楽四重奏団の演奏がお勧めです。
 次に、有名なピアノ五重奏曲「ます」に行きましょう。この「ます」という名前は、シューベルトの有名な歌曲「ます」のメロディーが第4楽章の主題に使われているところから来ています。全部で五楽章ありますが、美しいメロディーが全曲にあふれて、こころ洗われる名曲です。この曲は名曲だけあって、多くの名演奏の記録があります。特に、ブレンデルがクリーヴランド弦楽四重奏団と組んだ演奏が第一のお勧めです。ブレンデルの粒のそろったきれいな音色と、クリーヴランド弦楽四重奏団の緊密なアンサンブルが絶妙な心地よさをかもし出しています。また、この名演奏のあとに、ブレンデルがツェートマイヤーのヴァイオリン、ツィンマーマンのヴィオラなど若手の奏者たちと演奏した記録も若々しいすがすがしさをかもし出しています。
 また、ソヴィエトの鋼鉄のタッチを持つといわれた名手ギレリスとイギリスの名弦楽四重奏団のアマデウス四重奏団の組み合わせも、熱い名演奏です。ウィーンの古きよき香りを残しているパウル・バドゥラ・スコダのピアノ独奏とバリリ弦楽四重奏団の演奏も典雅でとても魅力的です。また、指揮者のジョージ・セルがピアノを弾いてブダペスト弦楽四重奏団と組んだ演奏も充実していて魅力的です。
 次に、ピアノ三重奏曲第一番に行きましょう。この曲は名曲ですが、なぜかあまり取り上げられる機会の少ない曲です。この曲には、チェコの名手たちの素晴らしい名演奏があります。ヤン・パネンカのピアノ、ヨゼフ・スークのヴァイオリン、フッフロのチェロの組み合わせです。貫禄を感じさせる余裕の名演奏です。また、ピアノの一世代前の楽器フォルテピアノをインマゼールが、ヴェラ・ベスのバロック・ヴァイオリン、アンナー・ビルスマのチェロという古楽器奏者の名演奏も落ち着いた雰囲気で素敵です。いずれの演奏も第2番のピアノ三重奏もt楽しめます。
 次に、アルペジョーネ・ソナタにいきましょう。この曲は、アルペジョーネという今では廃れてしまった楽器とピアノのために描かれた素晴らしい曲ですが、現在はアルペジョーネの変わりに、チェロやヴィオラで演奏されます。この曲にはチェロの名手ロストロポーヴィッチが、作曲家でピアニストのベンジャミン・ブリテンと組んだ演奏が悠然と堂々としていて、聞く人のこころに染み入るような印象深い名演奏がお勧めです。また、ヴィオラのバシュメットの演奏もスケールは小さいですが、お勧めです。
 次に、弦楽五重奏曲に進みましょう。この曲にはチェロの神様といわれるカザルスがシャンドール・ヴェーグの率いる弦楽四重奏団と共演したスケールの大きな名演奏があります。また、ロストロポーヴィッチがメロス弦楽四重奏団と組んだ演奏もスケールが大きく魅力的でお勧めです。また、ウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団とチェロのヴァイスの演奏は、録音が古いですが、ウィーンの優雅な伝統に裏付けられた魅力的な演奏で、お勧めです。
 次に八重奏曲に参りましょう。この曲にも美しい旋律がちりばめられています。ベルリン・フィル八重奏団の名人芸、ウィーン八重奏団の甘美な音色、ギドン・クレメルとその仲間たちによる美しき中にもユーモアのある演奏などが魅力的でお薦めです。
 次に、歌曲の王といわれたシューベルトのもっとも有名な歌曲に進みましょう。
 まず、3大歌曲集といわれる「美しい水車小屋の娘」、「白鳥の歌」、「冬の旅」から始めましょう。
 まず、「美しい水車小屋の娘」から参ります。この曲には、西ドイツを代表すると考えられていた夭逝したテノール歌手のフリッツ・ブンダーリヒの代表盤といわれる名演奏があります。また、東ドイツを代表するぺーたー・シュライヤーの演奏も、清楚で張りのある美しい演奏が印象的です。なおシュライヤーには3種類の録音があり、そのいずれも優れた名演奏ですので紹介しましょう。古い順に、1972年ピアニストのワルター・オルベルツと組んだ若々しい演奏、1982年にギターのコンラート・ラゴスニッヒと組んだ珍しくもシューベルトの生前によくこの組み合わせで演奏されたであろう清楚な可憐な演奏、1991年にピアニストのラド・ルプーの音が粒のそろったきれいな伴奏が楽しめる演奏といずれも特徴がありますが、いずれもペーター・シュライヤーがまじめに清楚に演奏しているのが感動を誘います。
 次に、「白鳥の歌」に参りましょう。この曲には、この曲を得意にしているペーター・シュライヤーの演奏が優れた名演奏でお勧めです。また、シューベルトの歌曲の全曲録音をしている20世紀を代表するであろうドイツの名バリトン奏者ディートリッヒ・フィッシャーディスカウの演奏が曲の核心をつかんだ深い叙情性をそなえた味わい深い名演奏です。フィッシャーディスカウの演奏も数種類ありますが、やはり20世紀を代表するであろう名伴奏ピアニストのジェラルド・ムーアと組んだ演奏がことに優れて感動的です。また、美しい声で知られたヘルマン・プライの演奏もお勧めです。また、若くしてあふるる才能を残しながらこの世を去らなければならなかったシューベルトの惜別の念、情感を見事に表現しているのが、ハンス・ホッターとジ