[BACK]

1.書名 2.著者名 3.出版社 4.読んだSIMの評価(5段階) 5.内容・感想等を記載

「長野殺人事件」

内田 康夫 ・ 光文社 ・ 評価★★★★

品川区役所の税務課に勤める宇都宮直子が預かった謎の書類。預けた男は、しかし、長野県遠山川で死体となって発見されます。その頃、長野県では知事選を控え、奇妙な緊張感に包まれていました。不安を感じた直子は、夫の友人・浅見光彦に書類を託します。その後も、問題の書類をめぐり次々と殺人事件が起こります。名探偵・浅見光彦と信濃のコロンボ・竹村岩男警部、二人が信濃にうごめく巨大な「疑惑」に挑みます。(初出:「小説宝石」2006年1月号から2007年4月号まで掲載。「長野殺人事件」はそれに加筆修正したものです。)

今回の作品の舞台は長野県。作者、内田さんのお膝元です。事件の発端は東京品川から始まりますが、読み進めるうちに長野県の知事選や長野オリンピックに関わる使途不明金など、実際本当に起こっていたのでは・・・と思わせるような内田さんの描き方です。殺人事件の動機となるような社会問題を取り上げ、独特の切り口で事件の中に織り込む手法は流石!という以外にありません。フィクションと断り書きを入れていますが、なじみの深い社会問題などに触れると、もしかして内田さんが書いたことが真実では・・・と錯覚しそうです。そういう意味では、探偵として活躍する浅見光彦の存在も、今では小説から抜け出て、ファン倶楽部や「浅見光彦の家」なるものもあるようで、キャラクター的存在を通り越している感じがします。読み手に親近感を持たせる書き方は、内田さんならでは・・・でないでしょうか。

今回の作品では、浅見光彦と信濃のコロンボと言われる竹村岩男警部が事件解決に翻弄します。この二人、軽井沢で起きた殺人事件の操作のときに知り合い(「軽井沢殺人事件」参照)、その後、コメの自由化を巡って起きた連続殺人事件の捜査の過程でも一緒に行動しています(「沃野の伝説」参照)。ライバル意識は持っているものの、お互いに相手の才能を評価しあっています。作中に「・・・警察の人間としては、民間人に犯罪捜査を勧めることはできません。相手はかりにも殺人犯ですぞ。絶対に危険を冒すような真似はしないでください。でないと、それこそお兄上に密告しますからね」「だめですよ、兄を持ち出すのは卑怯です。そんなことより、警察が一刻も早く真っ当な捜査を進めるべきじゃないですか。民間人ごときに先をこされることのないよう、大いに頑張ってください」「当たり前です」というようなやり取りがあります。お互いを認め合っているからこそ、喧嘩腰のように本音で言い合っている様子が頼もしく感じられました。

また、この作品では長野県知事選の様子も描かれています。元長野県知事・田中康夫さんが3度目の知事選を戦って敗れた時期と同じくして、この作品は登場しています。内容もノンフィクションに近い感じで、県政のあり方や手腕を描いています。殺人事件として読むほかに、そのときに起こった社会的な出来事を知らず知らずのうちに興味を持つようになるのも、内田さんの作品の特徴だと思います。殺人犯は意外なところから明らかになりますが、浅見光彦と信濃のコロンボの活躍は読んでのお楽しみです。なお、この作品は「内田康夫著作1億冊突破記念作品」として出版されました。(08.7.26)

戻る


「幻香」

内田 康夫 ・ 角川書店 ・ 評価★★★★

浅見光彦のもとに届いた1通の手紙から、芳香が立ち上がりました。差出人は、心当たりが無い女性の名前・・・。「4月10日午前9時、栃木市の幸来橋へきてください。でないと、私は死ぬことになります」 しかし、浅見を待ち受けていたのは2人の刑事でした。新進気鋭の調香師・戸村浩二殺人事件に巻き込まれた浅見は、被害者と手紙の差出人の接点を追って、10年前に殺害された天才調香師・国井和男の事件へと辿り着きます。華やかな香水の世界に潜む暗い闇、手探りで進む浅見の前に現れた3人の女性は、絢爛たる香りとともに真実へと導いてくれるのか・・・・着想から11年を経て完成した著作1億冊突破記念特別作品です。(初出:「例弊使街道殺人事件」=「浅見ジャーナル」1996年4月号〜2007年1月号、「フローラの函」=「野生時代」2006年1月号〜2007年5月号を大幅に改稿したものです)

11年前、浅見光彦倶楽部の会員用機関紙「浅見ジャーナル」で、「例弊使街道殺人事件」というタイトルのリレーミステリーが始まりました。今回の作品の基になった作品ですが、内田さんと会員の方々が交互に執筆していくというユニークなもので、その後、雑誌「野生時代」に大幅な軌道修正をして転載されました。さらに、これらをまとめて今回の単行本にする際、整合性に欠ける部分を数十箇所手を加え、「幻香」となりました。「浅見ジャーナル」と「野生時代」に掲載された原文と今回の「幻香」を対比して読み比べるのも面白いかも知れません。内田さんは、最初こそ内容は似ているが、物語が進むにつれて大筋も微細もどんどん変化していくのがわかると言っています。

今回のモチーフは香水です。「究極の香水」をめぐる殺人事件かと思いきや、大麻なども登場し複雑に事件の糸が絡まり、浅見の嗅覚を狂わせます。「究極の香水」は「三位一体」となっており、殺害された調香師・国井和男に縁のある3人の女性たちに一瓶づつ託されます。今回の作品の表紙にもなっているボッティチェリの「春」に描かれた「三美神」のような、沼田皇奈子(花の盛り)、国井由香(喜び)、西原マヤ(輝き)が、事件のキーワードとなって登場しています。作品の中で浅見光彦をイメージした香水・・・ということで、西原マヤが「薫る五月の風」というオー・ド・トワレを調合しました。そのオー・ド・トワレ「MITSUHIKO」が製品化されたそうです。http://amc.shop-pro.jp/?pid=7246907 初夏の軽井沢にふく風のように爽やかな香りで、お休み前にリラックスしたいとき、ミステリアスな小説の世界にひたりたいとき、また、お部屋のほのかな香り付けとしても使えるそうです。興味のある方はいかがですか?(08.6.28)

戻る


「棄霊島」 上・下

内田 康夫 ・ 文藝春秋 ・ 評価★★★★

浅見光彦が長崎の五島列島で知り合った親切な初老の元刑事・後口。娘夫婦との同居を目前に、後口は静岡の海岸で死体となって発見されました。清貧の元刑事のささやかな人生を、突然断ち切ったのは誰なのか。惨劇の舞台は長崎の海に浮かぶ廃墟の島・軍艦島 (端島)。殺された後口元刑事の無念を胸に、浅見は百番目の事件に挑みます。(上巻)

複雑に絡まる謎、重なる事件。近代社会の負の記憶を探り、尋ね歩き、心を沿わせる浅見光彦の目に映った、哀しい真相とは・・・。弔いの島に甦る過去、暗い波濤の先に見えてきたものは何か。犯罪の陰にある人間ドラマは、罪をあばきだす浅見の心にも苦しさを残します。(下巻)(初出:「週刊文春」平成16年12月30日・平成17年1月6日合併号〜平成18年4月13日号)

取材のために長崎の五島列島に向かうフェリーのなかで知り合った後口。何かしら陰の部分を感じさせる後口でしたが、浅見とは気が合いました。そんな彼が静岡の海岸で殺害されます。他人事とは思えない浅見は、事件解明のために長崎から長野、静岡と真相を追い求めていきます。そのなかで、30年前の事件が鍵を握ることがわかり、そして、調査を進めるうちに教育関係の大御所の存在が関係していることが浮かび上がってきました。裏には北朝鮮の拉致問題、戦争当時の強制就労など、日本の過去の負の部分も関わっていることも浮かび上がってきました。浅見光彦の推理は確信をついてきますが、そのなかで結末は悲劇な結果を迎えます。

浅見光彦百番目の事件は、事件そのものは今までの話の展開なのですが、浅見自身に多少の変化が見られました。それは、いつもなら自分に好意を寄せる女性に対しても自分の気持ちを明確にしたことがない浅見が、珍しく(恋をしたのかな・・・)と自ら自分の気持ちを表現したり、また女性に誘いをかけること自体まったくと言っていいほど縁がない浅見が、遠まわしながら誘いをかける場面が登場します。今回の作品では、浅見の成長が見られるような思いでしたが、成果はいつもと同じで居候を理由に積極的な行動には出られない浅見がいました。謎解きはいつもながら素晴らしいものがありますが、話の展開で静岡で起きた殺人事件に関わった人たちとのやりとりなどが、もう少しあってもよかったのでは・・・と思いました。浅見の中でしか事件が解決していないのが消化不良となりました。(07.11.3)

戻る


「悪魔の種」

内田 康夫 ・ 幻冬舎 ・ 評価★★★★

「温泉ぐらいはあるかもしれない」曖昧な言葉を残して行方不明になった茨城県農業研究所の職員が、秋田・西馬音内盆踊りの最中に死にました。間をおかずに、長岡農業研究所の職員の水死体が、茨城・霞ヶ浦で上がりました。浅見家のお手伝いの須美子は、故郷に帰った際、友人から殺人の疑いがかけられた同僚のために、浅見光彦に捜査の依頼を頼まれるのでした。霞ヶ浦の事件を調べ始めた浅見は、「花粉症緩和米」が、一見無関係な二つの事件を繋ぐ鍵だと直感しました。何百億もの利益を生む「花粉症緩和米」が招いた連続殺人事件の真相を求め、浅見光彦jは陸奥を奔ります。(初出:「家の光」2004年1月号〜2005年12月号の連載に加筆訂正したものです)

内田さんの作品の内容は、とてもタイムリーで、冷害問題をはじめ台風被害、コイヘルペス、BSE、鳥インフルエンザ、そしてテーマの一つになった「花粉症緩和米」、最後は新潟県長岡市付近を震源とする地震まで登場します。読んでいて気味が悪いくらいで、偶然に起きた自然現象も内田さんの作品に味方しているようです。この作品を読んで「花粉症緩和米」の存在を知りましたが、その後研究はどうなっているのかと感じました。今、花粉症に悩まされている人が多い世の中、そんな米ができたらすごいことですね。「悪魔の種」とは、そんな米を産む種のことを言っていますが、神の領域を侵す禁忌が、そしてそれに絡む利権問題が殺人事件を引き起こしたとされています。

事件の始まりは、「日本三大盆踊り」の一つとされている西馬音内盆踊りで起こります。センセーショナルな出だしでしたが、殺人事件の設定として何がなんでも西馬音内でなければならないと言うわけではないと思いました。また、最近の傾向として事件のあらすじよりもほかの部分の説明が多すぎて・・・と思っているのは私一人でしょうか。内田さんの言わんとする「悪魔の種」を知るには、必要不可欠な説明かも知れませんが、あまりにも専門的すぎてそこまで描かなくてもと思ってしまいました。単に謎解きを楽しみたい、浅見光彦と旅情を味わいたいと手にとっても、小姑に意地悪されているような気分になりました。

今回の作品の中に(P117)、土浦市立図書館の場面が出てきます。司書はこうあるべきと言われているようでした。(07.3.10)

戻る


「還らざる道」

内田 康夫 ・ 祥伝社 ・ 評価★★★★

桜の季節、愛知・岐阜県境の奥矢作湖に他殺体が浮かびました。被害者は業界大手、白陽インテリア会長の瀬戸一弘と判明しました。瀬戸は、二度と還らないと決めていた過去へ旅立つという手紙を、孫娘に残していました。それは、ずっと隠してきた故郷への旅だったのか。なぜ、いま旅立たなければならなかったのか。行く先も告げず、目的も告げずに旅立った瀬戸の“もう、帰らないと決めていたが・・・”という謎のメッセージを手がかりに、事件の真相を追って、三州、吉備、木曾へ、浅見光彦も推理の旅に出かけました。

浅見光彦シリーズの1冊です。今回の舞台は岐阜県。木曾や吉備、足助などが舞台になっています。今回のヒロインは、殺された瀬戸一弘の孫娘・雨宮正恵。祖父の瀬戸が孫娘に託した手紙から、事件解明に乗り出します。祖父の生まれ故郷や知人を探しているなか浅見光彦と出会います。浅見と二人で事件の真相に迫りますが、やはり浅見にとってそれ以上の仲にはなれませんでした。今回の作品は、浅見の名推理で事件が解決しますが、少々の物足りなさを感じたとすれば、いつものような警察とのいざこざがなかったことでしょうか。淡々と進行していった今回のストーリー、事件の鍵を握るとされる馬越という人物もそうですが、瀬戸の過去の秘密というものが、そして殺されなければならなかったことが少し曖昧な感じがしました。旅情ミステリーとしては面白いのかもしれませんが、謎解きや浅見光彦の活躍を期待して読むぶんには、物足りなさがあるかも知れません(一応するどい推理をし活躍はするのですが・・・)。

それでも、やはり浅見光彦シリーズは読んでいて安心します。慣れ親しんだものへの親近感からでしょう。惰性といってもいいかも知れませんが、良い意味でどっぷりと浸かってしまっているようです。今回の作品は、浅見と「旅と歴史」の編集長のやりとりとか、口うるさいお母さんとのやりとり、警察に捕まって身元を調査されるという決まりきった展開がありませんでした。きっと物足りなさを感じたとすれば、いつものパターンが出てこなかったからかも知れません。「水戸黄門」の印籠効果ではないのですが、浅見光彦が警察で事情調査され、兄の身分が分かって警察の態度が豹変し待遇が良くなることが、面白かったりスカッとするのです。権威に弱い日本人体質を見るようです。今回の浅見は、そういう意味では少し大人になった(?)のでしょうか。でも、楽しく一気に読めた一冊です。(07.2.1)

戻る


「贄門島」 上・下

内田 康夫 ・ 文藝春秋 ・ 評価★★★★

十一年前、房総の海でボートの操舵ミスにより海に投げ出された浅見光彦の父は、美瀬島の漁師に助けられ、生死の境をさまよう床の中で奇妙な声を聞きました。「そんなに続けて送ることはない」「そうだな、来年に回すか」。父はその翌年その言葉通り亡くなりました。「あれは死神の声だったかもしれない」と父が言っていたことを母から聞いた話に興味を持った浅見は島を訪れ ます。そこで、不気味な光景の記憶に脅える島の娘・紗枝子と出会います。紗枝子は留守電に謎のメッセージを残して消えた恩師・石橋洋子を探していました。浅見 が父が会ったという「死神」の正体を探りに訪れた房総の小島・美瀬島には、「生贄送り」という風習がありそこで浅見を待っていたものは・・・。(上巻)

連続殺人、失踪、不審船、里見伝説(里見八犬伝)・・・美しく豊かな自然の裏に潜む、現代社会の底知れぬ闇をその島は持っていました。日本の国でありながら、島は治外法権のように島人以外の人間には心を開くことはありませんでした。不審船や密輸など、朝鮮半島が絡んだ島の秘密に迫る浅見自身にも危険が迫ります。浅見光彦は父の言葉の真相を知ることができるのか・・・そして、無事に島を出ることができるのか。美瀬島は一体悪魔の島なのか、地上の楽園なのか。摩訶不思議な島に纏わるあらゆる真実は、衝撃的なものでした。(下巻)<初出:「週刊文春」平成13年9月13日号〜平成14年11月14日号>

内田さんの小説は、いつもタイムリーな時事問題を小説に中に織り込み、読み手を惹きつけます。もしかしたら、本当にそうだったかもしれないと思わせるような真に迫った物語の展開に、浅見が挑む事件の謎解き同様に、その裏に潜む政治的な駆け引きをも楽しむことが出来ます。今回の贄門島は、朝鮮半島のことがテーマの一部を織り成しています。拉致事件や不審船、密輸など今を騒がしている事柄が作品中に登場しますが、それを嫌みなく浅見の父親の出来事と絡め、また島に伝わる生贄伝説と一緒に物語は展開しています。 ちょっと奇抜ですが、フィクションとして読むぶんには面白いし、底に深いものを感じます。上・下巻と長い話となっていますが、長さを感じさせない物語の展開でした。欲を言えば、浅見の父の聞いた言葉「そんなに続けて送ることはない」は、文中で説明されているのですが、「そうだな、来年に回すか」は納得のいく説明がなされていなく、浅見の父に対する言葉としての意味が知りたかったです。

内田さんの本に登場する浅見光彦は、女性といい線までいくのですが、あと一歩が踏み出せずになかなか居候の身分を脱することが出来ないでいます。今回の作品でもその点に変わりは無いのですが、今回の作品のヒロインは積極的な性格の持ち主で、消極的な浅見さんをリードし、浅見さんには珍しくラブシーンの場面が登場しています。それ以上発展しないのが浅見さんらしいのですが、どうもそこには作家の意図があるのでは・・・と勘繰ってしまいます。ラブシーンの場面はあまりいりませんが、そろそろ身を固めさせてもよいのではと思うのは、いらぬお世話でしょうか。(06.11.22)

戻る


「風の盆幻想」

内田 康夫 ・ 幻冬舎 ・ 評価★★★★

哀切な胡弓の調べと幽玄な踊りで全国的に有名な富山・八尾町の「風の盆」祭り。そのお祭りの直前に、老舗旅館の若旦那・安田晴人が謎の死を遂げました。自殺で片付けようとする警察に疑問を感じた浅見光彦と推理作家・内田康夫氏は、独自の調査に乗り出します。そして、飛騨高山、神岡と越中八尾を結ぶ、秘められた人間関係と愛情に辿り着きます。越中と飛騨を舞台に、名探偵と迷作家が織り成す長編ミステリです。(本書は書き下ろしです。原稿枚数576枚<400字詰め>)

― 夢で逢えれば それでもいいと 伏せた笠の緒 オワラ 濡れている ― 内田康夫・作

この作品の舞台となっている「越中八尾おわら風の盆」は、八尾の民謡行事で観光イベントではないということなのですが、最近マスコミの影響により満足に地域の伝統行事として楽しむことができなくなっていると言うことです。

今回の作品は、そんな「おわらの風の盆」に繰り広げられる幻想的な、また優美な踊りとおわら節など風の盆を中心に描いています。越中おわら伝承の正統論争に始まり、そこから殺人事件にまで発展していくストーリーですが、根底にあるおわらの幽玄的な情緒が上手にマッチしていると思いました。事件の裏に潜む根深い確執が生む不幸な出来事、そのことにより奇妙な生活を送ることになる4人の男女。この人間関係に事件の解決の糸を見出した浅見光彦でしたが、おわらでの体験が不思議の国で起きた不思議な出来事として記憶の壁に刻み込まれるほど、八尾の「おわら風の盆」への想いは想像以上のものと物語の中で語っています。このことは小説からだけではなく、インターネットの記事などからも見受けられ、私たちが日常的に考えるお祭りとは一線を画していると感じました。

それにしても、内田さんが自ら登場する作品はやはり好きにはなれません。じっlくり謎解きを楽しみたいと願う者にとっては、光彦と内田先生の掛合いは不必要なものでしかなく、特にイメージダウンにもなりかねない内田先生の横着ぶりなどは、どんな意図からそのように描いているのかと思ってしまいます。ところどころに事件の謎をとくキーポイントのような発言はしますが、それだけのためならあえてフル登場する必要はないのでは・・・と思ってしまいました。純粋に浅見光彦の謎解きを楽しみたいと感じた作品でした。情緒溢れる風の盆の作品だったので、なお更感じてしまいました。内田さんにしてみれば、自分が登場する意味があったと思うのですが、作品を通じてその意味は分からずに終わってしまいました。(06.5.24)

戻る


「十三の冥府」

内田 康夫 ・ 実業之日本社 ・ 評価★★★★

「なにわより じゅうさんまいり じゅうさんり もらいにのぼる ちえもさまざま」

ウミネコで有名な八戸の蕪島お遍路の女性とすれ違った時、女子大生・神尾容子は、記憶の底に刻み込まれた奇妙な唄を耳にしました。ところが、数日後、唄を口ずさんでいたお遍路と思しき女性の絞殺死体が、新郷村の<ピラミッド>へつづく山道で発見されました。同じころ、古文書『都賀留三郡史』の真贋論争を取材するため青森を訪れた浅見光彦は、「ピラミッド殺人事件」を皮切りに、行く先々で不可解な死に遭遇します。そして、その死の原因を“アラハバキ神の祟り”だと噂し、恐れおののく人たちがいました。ピラミッド、キリストの墓、アラハバキ・・・本州最果ての地に息づく、謎めいた伝説と信仰。その背後に潜む憎悪と殺意に敢然と立ち向かう名探偵・浅見光彦の活躍を描いた旅情ミステリーです。(初出誌:「月刊ジェイ・ノベル」2002年4月号〜2003年12月号/本書は単行本化にあたって、大幅に加筆修正されました。)

今回の作品は、女子大生・神尾容子の出生に関わる物語の展開と、古文書『都賀留三郡史』の真贋論争等が複雑に絡み合い、そこに殺人事件が起こるという内容で、物語を整理するだけでも読み応えはたっぷりあると思いました。442Pにものぼる内容は、古文書『都賀留三郡史』についてやアラハバキ神について、そして記紀などが詳しく書かれていますが、正直なかなか理解するまでにはいたりませんでした。単に殺人事件の謎解きだけではないという点では、内田さんの作品は奥の深いものとなっています。「なにわより・・・」のフレーズをキーワードにして謎解きの手がかりにしたり、殺人事件の解明にあたり意外な人物が鍵を握っていたり、浅見光彦の活躍はいつ読んでも期待を裏切りません。

今回の小説は、青森のこと、信仰のことなどが中心に描かれていて、その地域性や神話についてある程度知らないとキツイかな・・・と思いました。自分自身あまり接したことのないテーマだったこともあるのですが、浅見光彦に導かれて青森から愛知まで事件を追って小説の中を旅してきました。ちょっと暗い印象があった今回の作品ですが、また浅見光彦と絡む神尾容子の存在が薄い感じがしましたが、それなりに堪能することができました。最後に、犯人と思しき人物のその後と神尾容子の出生の秘密がはっきりと描かれていないため、読者の想像でたぶんこうだろうという結論に達せざるを得ないところがありますが、それはそれでよいのかなと思います。今回のキーワード「なにわより・・」が何を伝えたかったのか、興味のある方は一読ください。(05.8.31)

戻る


「上海迷宮」

内田 康夫 ・ 徳間書店 ・ 評価★★★★

上海と新宿、二つの殺人事件を結ぶものは何か?時を同じくして起こった二つの殺人事件は、一見別々の様子をみせていますが、殺されたのは中国人。新宿で殺された被害者とは友人で第一発見者、上海で起こった殺人事件の容疑者として逮捕された父と、二つの殺人事件に巻き込まれた法廷通訳・曾亦依(ソウ・イイ)とともに、浅見光彦が海を渡ります。歴史の歪みから這い出した“赤いトカゲ”の幻影が、事件の鍵を握りますが、“赤いトカゲ”とは・・・。外交問題、汚職、黒社会・・・急激に発展を遂げた国際都市・上海に繰り広げられる浅見光彦の推理。言葉の壁、異国の地という悪条件にも関わらず、ますます冴える浅見光彦の推理です。(2004年5月31日第1刷)

内田さんの作品に、<主要登場人物>が紹介されていることは珍しいと思いました。外国人の名前(特にカタカナ表記)は覚えにくいものですが、中国は漢字の国なので、登場人物の名前を覚えるのはそんなに苦にはなりませんでした。しかし、読み方はヨミが付記されていなければ、自信がありませんが・・・。事件の始まりは、ありふれた殺人事件でした。ただし、新宿と上海と相前後して起こります。その事件の渦中に法廷通訳・曾亦依(ソウ・イイ)がいました。そして、浅見光彦のもとに事件解決の依頼が舞い込みます。飛行機嫌いの光彦は、一旦上海行きを断ります。しかし、船で行けるとわかると気持ちは揺れ、いつもの好奇心も手伝って上海行きを承諾してしまいます。依頼されたことは、上海で起こった殺人事件の容疑者として逮捕された曾亦依の父、曾維健(ソウ・イケン)の容疑を晴らすこと。しかし、事件は意外な方向に展開し、そして驚くべき真実にたどり着くのでした。キーワードは“赤いトカゲ”・・・・みなさんも謎解きに挑戦してみてください。

今回の作品の特徴に、いままでない展開があります。それは、浅見光彦が事件に関わる過程が用意周到に仕組まれていたことです。T女子大心理学教授で、維健の友人でもある林教授。上海日本総領事で兄陽一郎の友人でもある伏見総領事。維健が逮捕される要因を作った上海日本総領事館一等書記官・井上。そして、警察庁刑事局長でもある兄・陽一郎も事情を知りながら、浅見を芝居の中に引きずり込んだという図式になっていたのでした。さすがの浅見も、そこまで巧妙に仕組まれていたとは想像もつかず、最後の最後で気持ちに引っかかっていたことに辿りついたのでした。

久々に浅見光彦の推理を堪能しましたが、話の展開や謎解き、物語の奥深さは、いつ読んでも飽きのこないものです。しかし、内田さんの妙に軽い言い回しが少々気になりました。嫌味までは感じませんが、あまり軽いとイメージダウンになりかねないと少々心配しています。「パソコン探偵」や内田さん本人が登場して言うぶんには、そういうキャラクターと割り切って読めばいいのですが、浅見光彦の謎解きには必要性はないのでは・・・と感じました。内田さんご本人の意図がわかりかねるので、なんとも言えないですが・・・(05.5.3)

戻る


「イタリア幻想曲」 貴賓室の怪人U

内田 康夫 ・ 角川書店 ・ 評価★★★★

学生時代に欧州を旅した浅見光彦の兄・陽一郎は、大理石の街カッラーラ近郊で一人の日本人青年と出会いました。しかし、その数日後、この青年は事故で死亡してしまいます。それから30年、同じ街で光彦が出会った初老の日本人画家も、やはり数日後に死体となって発見されました。異郷の地でともに過激派組織に関わっていた二人の接点には、ヴァチカンの聖なる秘密が見え隠れします。二人の死は禁忌を犯したゆえの「神罰」なのか、それとも・・・・。二千年前にゴルダコの丘で行われたキリストの磔刑と、三十年前に日本の若者たちを熱狂させた「革命」の凄惨な末路に、浅見兄弟は、思想と信仰という人間が生み出した崇高にたいして酷薄な怪物に敢然と立ち向かいますが・・・。キリストの神秘をめぐりルネッサンスの天才が残した謎に、浅見光彦がトスカーナの地で挑みます。

2000年9月に刊行された『貴賓室の怪人「飛鳥」編』(角川書店刊行)の続編とも言える本書です。『貴賓室の怪人』は、豪華客船「飛鳥」の船内で起きた密室殺人事件を、浅見光彦と岡部和雄警視が協力して解決する物語でした。しかし、本題として掲げられた「貴賓室の怪人」の謎の解明がされないまま終わっています。浅見光彦が、「飛鳥」の世界一周の船旅に出たきっかけは、「貴賓室の怪人に気をつけろ」というメッセージの謎を解明するためでした。その謎が解明されないまま船旅を続ける光彦のもとに、イタリア・トスカーナ地方のヴィラ・オルシーニに嫁いだ日本人女性若狭優子から緊急の連絡が入ります。今回の物語はここから始まりました。豪華客船「飛鳥」を離れ、「貴賓室の怪人」の謎を解明するため、また浅見光彦に謎解きを依頼した人物を探し出すために、イタリアの地で浅見光彦の推理が冴えわたります。

それにしても、キリスト信者でないものにとっては、キリスト教徒にとってもっとも神聖とされる「聖骸布(せいがいふ)」を背景に起きる事件は、想像を絶するものです。そして、もっと度肝を抜かれたのは、1960年代から70年代にかけて世界を震撼「日本赤軍」が登場したのには、この物語の展開は一体どこにいこうとしているのか・・・・と思ってしまいました。壮大といえば壮大ですが、キリスト教も日本赤軍も馴染みがないだけに、少々戸惑いを覚えながら読み進めていきました。事件の解明を進めていくうちに、意外な人間関係や驚くべき事実が次々と明かされていきますが、それは「聖骸布」が生まれた1世紀や、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロのルネッサンス時代との繋がりさえあるというのです。・・・・・ついていけない世界に迷い込んでしまったって感じでした。そういう大きな「謎」を追うなかで、「貴賓室の怪人」や「依頼人」の秘密が解き明かされるのですが、その意外な結果はどうか皆様の目で確かめてください。

しかし、この物語を読んで、キリスト教をほんの少し・・・・本当にほんの少しだけ垣間見た感じがしました。また外国での浅見光彦を始めて見ましたが、物語の展開についていくのには苦労しました。好みの問題とは思うのですが、浅見光彦の小説に作者自身が登場するのはあまり好きではなりません。それが一番気になったかな・・・と感じました。(04.8.24)

戻る


「他殺の効用」

内田 康夫 ・ 実業之日本社 ・ 評価★★★

珍しいことに、浅見光彦の母の雪江未亡人が、光彦に力になって欲しいと言う男を紹介します。雪江の友人で、ある会社の専務という男性でした。その会社で、2代目の社長が、仕事場にしているマンションで死体となって発見されたのです。警察では自殺として処理しようとしていましたが、殺されたかも知れない・・・・と言うことで、光彦に真相を解明して欲しいと言うのです。兄の刑事局長ではなく、光彦に相談に来たということで、光彦は大張り切り。早速そのマンションに行って見ると・・・・自殺か?他殺か?浅見光彦の推理が冴える短編集です。

内田康夫ミステリーワールドという副題のもとに、「他殺の効用」(初出:「野生時代」1993年7月号/収録書籍「名探偵の挑戦状」角川文庫)・「載せなかった乗客」(初出:「別冊婦人公論」1986年夏号/収録書籍「軽井沢の霧の中で」中公文庫・角川文庫)・「透明な鏡」(初出:「週刊小説」1986年11月14日号/収録書籍「鏡の女」角川文庫・祥伝社文庫)・「ナイスショットは永遠に」(初出:「小説現代」1983年6月号/収録書籍「パソコン探偵の名推理」集英社・講談社文庫)・「愛するあまり」(初出:「オール読物」1984年12月号/収録書籍「盲目のピアニスト」中公文庫・角川文庫)、以上5編が収録されています。

以前に読んだ「龍神の女」同様の構成で、浅見光彦が登場する2作(「他殺の効用」と「透明な鏡」)とパソコン探偵シリーズが1作(「ナイスショットは永遠に」)、他の2作はいわゆる探偵は登場しない作品です。それぞれ密室トリックやアリバイ崩しがあり、計算された展開の短編集になっていると思います。

浅見光彦シリーズは好んで読む本ですが、自ら兄の名前を口にしたことは無いのでは・・・と微かな記憶を辿ってしまいました。それだけに、「鏡の女」の中で身元照会をされそうになったとき、自分の方から兄の素性を述べている光彦に遭遇したとき、驚きを隠せませんでした。前後の話の展開からしても、そんなに危機を感じる場面でもなく、いままでのように身元を照会されて困るような行動を取っていたわけでもなく・・・腑に落ちない思いでした。長編と違い短編の場合は、限られた紙面の中で物語を完結させないといけないので、無駄な時間を省略させるための趣向かと勝手に解釈してしまいましたが・・・。珍しい内田さんの短編をお読みになりたい方、内田さん流の美学の結末が用意されていますよ。(04.5.24)

戻る


「化生の海」

内田 康夫 ・ 新潮社 ・ 評価★★★★

加賀の海から、水死体で発見された北海道余市の男性。たった一つの遺品だった古ぼけた土人形から、妻や娘も知らずにいた孤独な男の素顔が浮かび上がります。その秘められたルーツを辿ると、北海道、北陸、北九州を繋ぐ細い糸が姿を見せました。北前舟航路に散らばる謎に浅見光彦が挑戦する長編推理小説です。(初出:東京新聞、中日新聞、西日本新聞、北海道新聞2003年1月1日〜10月31日付(朝刊)。本書は単行本化にあたり加筆修正してあります。)

今回のテーマは、"ルーツ"です。サケの習性(回帰本能)から話が始まり、北前舟のルーツや松前藩、余市のルーツなどなど事件の底に潜むものには奥が深いものがありました。ここでの浅見光彦は、友人から5年前に起きた事件の調査を依頼されます。北海道から北陸、九州、山口と結ばれた事件の糸を辿っていくと、意外な真実が次々と明らかにされていきます。北前舟の説明くだりでは、少々堅苦しい文章が続きますが、相変わらず浅見光彦の謎解きは鮮やかで読後感は大変満足のいくものでした。

428ページと長い文章でしたが、その長さを感じさせない話の展開でした。たった一つの遺品らしき土人形がキーワードで、一見難解と思われましたが、浅見光彦の推理が冴える謎解きは読んでいるものを釘付けにしてしまいます。この本の中にも描かれているのですが、浅見光彦が現実に存在する人物なのでは・・・という書き方をしています。内田さん独特のハッタリ(?)なのですが、とても身近に描かれているために錯覚に陥っても不思議ではありません。本の中味については、一読の価値ありというコメントだけに止めておきます。しっかりとした歴史内容や文章の運び方は、決して期待を裏切らないと思います。(04.4.1)

戻る


「龍神の女」 内田康夫と5人の名探偵

内田 康夫 ・ 実業之日本社 ・ 評価★★★★

和歌山県の山深くにある龍神温泉に、熟年夫婦がタクシーで向かっていました。その途中の山道で、若い女性が運転する乗用車が、猛烈な勢いでタクシーを追い抜いていきます。その後宿についた夫婦を刑事が訪ねて来て、山道で車の転落事故があったと言います。てっきり若い女性が運転していた車が転落したものと思っていましたが、事故を起こしたのは夫婦が乗ってきたタクシーでした。それが事件の発端でした・・・。山奥の温泉、龍神温泉で起きた不思議な事件に巻き込まれた大学教授、その熟年夫婦が事件を推理します。

表題作「龍神の女」(初出「別冊婦人公論」1991年春号・書籍初収録)をはじめ、「鏡の女」(初出「週刊小説」1996年8月22日号・書籍収録「鏡の女」角川文庫・祥伝社文庫)、「少女像は泣かなかった」(初出「別冊婦人公論」1988年秋号・収録書籍「少女像は泣かなかった」中公文庫・角川書店)、「優しい殺人者」(初出「小説宝石」1983年9月号・収録書籍「死線上のアリア」徳間書店・角川書店)、「ルノアールの男」(初出「小説現代」1983年4月号・収録書籍「パソコン探偵の名推理」集英社・講談社文庫)など、内田康夫が生み出した5人の名探偵が5つの事件に立ち向かいます。

内田さんにしては珍しい短編の数々を収録した一冊です。5編の短編は、それぞれ活躍する主人公が異なっているのも注目です。上記に記した「龍神の女」は、今回はじめて単行本になったものですが、大学教授とその妻が事件に巻き込まれるという設定です。「鏡の女」は、ご存知浅見光彦が活躍する短編ですが、長編が多い浅見光彦シリーズでは珍しいものです。「少女像は泣かなかった」の千晶は、1984年に発表されている「多摩湖畔殺人事件」(光文社文庫)のヒロインとして登場しています。「優しい殺人者」の主人公・福原警部は、「河豚原」というニックネームがぴったりの体型の持ち主ですが、その外見からは想像も出来ない優秀な刑事ぶりを発揮します。内田さんいわく、福原警部のイメージは音楽家の岩城宏之氏だそうです。福原警部のシリーズは3作ありますが、読むときは岩城さんを想像しながら読むとイメージが湧いてくるかも知れません。「ルノアールの男」は、パソコンの「ゼニガタ」が名推理(?)をするものです。シリアスなものが多い内田さんの作品の中では異質ですが、どうもこの「ゼニガタ」が内田さんの内なるものでは・・・と思っています。

最近の作品では浅見光彦が主流となっていますが、他にも警視庁捜査一課の岡部和雄警部(「多摩湖畔殺人事件」に少し登場します)や、長野県警の竹村岩男警部など主人公を務めている方々がいます。それぞれに魅力のある人物たちです。内田さんの今後の作品に登場し、再会できることを心待ちにしたいと思います。(04.2.2)

戻る


「エスケープ」 消えた美食家

内田 康夫 ・ 徳間書店 ・ 評価★★★

『Escape』 単純に「逃げる」とか「脱出する」に訳していいのだろうか・・・。この作品は、徳間書店の月刊誌「マイルズ」(現在休刊中)2001年11月号〜2002年9月号、「グッズプレス」2002年10月号〜12月号に連載され、単行本刊行により加筆、さらに内容を改められたものです。作品の内容はというと、小説とエッセイと食べ歩きを一緒にしたような感じで、読み手がどこに視点を置くかによって楽しみ方も変わってくると思われます。

ここでは、作家・内田康夫と探偵の浅見光彦、そして謎の女性・井上薫が、14の話の中で有名な(?)お店を食べ歩きしています。食べ歩きとして読むなら、中には料理の写真も掲載され、シェフや料理の内容などが紹介されていて、“食”の面から読むのなら“美食家”にはたまらないだろうと思います。ちなみに、ここで取り上げられているお店は、赤坂・洋食「旬香亭グリル」、新橋・鳥割烹「末げん」、神戸・ステーキハウス「KOKUBU」、代官山・イタリアン「カノビアーノ」、青山・フレンチ「カム・シャン・グリッペ」、代々木上原・中華家庭料理「ジーテン」、三田・日本料理「菱沼」、目黒・フレンチ「コム・ダビチュード」、牛込神楽坂・フレンチ「ブッフ・ア・ラ・モード」、赤坂・公東名菜「赤坂離宮」、四谷「寿司纏」、京都・おばんざい「ひめごぜん」、表参道・フレンチ「ル・ゴロワ」、軽井沢・手打ち蕎麦「東間」です。

“美食家”を唸らせる料理もさることながら、その場所や時代背景等など歴史的出来事や社会現象などを中心に読むのなら、エッセイ感覚で読むことができます。また、浅見光彦や井上薫という人物を通して読むのなら、ミステリー(私は全然ミステリとも小説とも感じられませんでしたが・・)仕立てになっているので、3つの楽しみ方ができるように工夫がされているようです。『Escape』には、食+謎 こんなミステリーもあった!と紹介されて、−黒衣の女に誘われて、浅見光彦が陥った美食の罠!−と紹介されていましたが、浅見ファンにとってはこれは詐欺だと思いました。食に関心のないものが、推理という部分を期待して読む本では決してないということだけは言えます。読んでいるうちに、自分が“エスケープ”したくなってきますから・・・。(03.11.30)

戻る


「しまなみ幻想」

内田 康夫 ・ 光文社 ・ 評価★★★★

しまなみ海道は、本州と四国を結ぶルートとして1999年に開通しました。その一つ来島海峡大橋で、飛び降り自殺を図った女性がいました。その死に疑問を持った少女。ある偶然の出会いから、少女と知り合った浅見光彦は、その死の真相を調べるためしまなみ海道に出向きます。美しい海と島々がおりなす“海道”で、次々と起こる事件を通して浅見光彦が見たものは・・・・。そして、少女のために真相を追究することができるのか?!旅情ミステリーの幕開けです。

プロローグは、テレビ番組から始まっています。「開運!なんでも鑑定団」という番組が、この作品では「全国お宝捜査隊」として、瀬戸内しまなみ海道開通記念という設定で、大三島町において公開されたことが布石となっています。今回のヒロイン的存在は村上咲枝。母親を自殺で亡くした15歳の少女です。彼女の先祖は、今治の北の大島とその向こうの伯方島の間に浮かぶ「能島」を本拠地とする海賊です。「伊予水軍」とも言われる「村上水軍」の流れを汲む名家で、浅見と一緒に難題に取り組みます。最後は、犯人の手に落ちどうなるかと思われましたが、浅見の機転によって無事犯人の手から救われます。

書名の「しまなみ幻想」から、推理小説らしからぬやさしいイメージを受けました。「しまなみ」は、歩いて渡れる「海の道」という観点から、海道の名前を付けたということです。また、島々を車で移動できるということで因島、大三島、伯方と行動範囲は大変広くなっています。旅情ミステリーというのにぴったりの設定です。

しかし、謎解きの方はいまいちでした。最後の詰めのところでは、動機や犯行などもう少し詳しく描いてもよかったのではと思いました。旅情に重きをおいて、犯人の描き方が弱くなってしまったと感じた作品でした。浅見光彦の活躍は、それなりに描かれていましたが、犯人については最後に少しだけしか描かれていなく、全体的に内容が謎解きではなく「しまなみ」に終始していた感があったと思いました。最近、内田さんの本は、時勢を反映しての内容が多かっただけに、あまり堅いイメージを受けなかったせいもあるのかも知れません。軽く読むのは大変面白い一冊でした。(03.3.29)

戻る


「中央構造帯」

内田 康夫 ・ 講談社 ・ 評価★★★★

エリート銀行マンを次々と襲う不審死。「平将門の呪い」に隠された、犯人の本当の狙いは何なのか・・・謎を追って、浅見光彦は日本を貫く構造線を駆け抜けます。真相追求の過程で、根は終戦の時までさかのぼります。意外な結末、そして浅見光彦の言葉が犯人の心を開きます。「日本は生まれ変わりますよ。多くの銀行、多くの企業が破綻するでしょうけど、敗戦と比べればはるかに被害は小さい。今のどん底のような状態の中で、既成の悪徳政治家や官僚や経済人が力を失い、あるいは失脚して、そこから若い力が台頭してくるはずです。僕たちはそれを期待し、新生日本の誕生を信じています」(本文より)

内田さんの作品は、この作品に限らず歴史的背景や今の世の中の状況などを的確に捉え、幅広く読ませてくれます。今回の作品は、終戦直下の日本の状況から始まります。敗戦とわかってからの日本の、と言うより軍人のとった行動が発端となり物語が展開していきます。それから数十年、不良債権を抱えた大手銀行が、その不正をいかに誤魔化すかに翻弄し、本来の意味での業務遂行を疎かにするのを見かねた者が、「平将門の祟り」を語り脅迫してきます。まさに現代の風潮そのままです。

不良債権問題と平将門。一体どこでどのように繋がるのか、そして終戦直後の事件との関連は・・・。平将門の歴史と、現代の銀行が抱える不良債権問題と、二つの異なる話題が巧みに絡み合って描かれているのですが、そこに浅見光彦の推理が加わり、十分の読みごたえのある作品に仕上がっています。いつもながら、精密に計算つくされた謎解き、歴史的内容、鋭く切り裂く現代の風潮に対しての内田さんの心の叫びは、読み手に確実に伝わってきます。辛口の内田さんの表現を、浅見光彦のやさしい思いが見事にカバーしています。

今の元凶を作ったのは誰か・・・・銀行もまた被害者かも知れない。しかし、やり方を間違えるとこういうことになる・・・と、小説ならではの話ですが、もしかしたら、私たちの身近で起こっている出来事ではないかと思えました。そう考えても不自然ではない・・・と、この小説を読んで改めて考えさせられました。(03.3.18)

戻る


「遠野殺人事件」

内田康夫 ・ 光文社文庫 ・ 評価★★★

岩手県北上山地の遠野・五百羅漢で、旅行中の東京のOLが絞殺されました。遺品のフィルムから、同僚のOLが容疑者として浮かび、彼女が絡んだ経理上の不正も発覚しました。一ヵ月後、彼女の自殺死体が発見され、事件は落着したかのように見えました。しかし、先輩二人の死に疑いを抱いた宮城留理子は、執念でフィルムのトリックを暴きます。そして、第三の死が・・・・。旅情あふれる一作です。(カッバ・ノベルスから1983年6月刊行)

この本を手に取った理由は、今年北上の地で約二ヶ月の長期講習に参加したのがきっかけでした。講習で、本を装丁するのに選びました。岩手に縁のある本があれば・・・と思って、内田さんの「遠野殺人事件」を選び装丁しましたが、浅見光彦シリーズ以外の本を久しぶりに読みました。ある意味新鮮でしたが、やっぱり推理を楽しみのには物足りない感じがありました。

この本の主人公は一介のOLですが、会社の同僚の殺人事件を見事解決します。その犯人は、主人公宮城留理子の婚約者なのですが、女性らしい嗅覚で相手に不信感を抱きつつ、それでも信じたい女性心をよく描いていると思います。遠野と東京、そして尾張一宮・・・旅情あふれる話の展開は、アリバイ崩しも絡んで楽しめましたが、いまいち謎解きに明快さがなく、やはり探偵役の必要性を感じてしまいました。というより、浅見さんのシリーズに慣れてしまったのかも知れません。(02.12.24)

戻る


「横浜殺人事件」

内田康夫 ・ 角川文庫 ・ 評価★★★★

「赤い靴はいてた女の子はどこへ行ったか知りませんか?」 横浜テレビの看板レポーター山名めぐみが殺されました。最後に取材したVTRを見た浅見光彦は、彼女のインタビューが事件の鍵を握ると睨みます。「赤い靴」と「青い眼の人形」、二つの童謡に隠された謎とは・・・?また、金沢八景で死んでいた会社員浜路恵一と事件の関連とは?異国情緒漂う横浜の街を舞台に、テレビスタッフの藤本紅子、浜路の娘智子、浅見の3人が事件の真相を追います。(1992年6月に光文社文庫として刊行された作品を角川文庫に収録したものです)

「赤い靴はいてた女の子はどこへ行ったか知りませんか?」 有名な童謡「赤い靴」の連想から生まれた、横浜の街に住む市民やそこに息づいている、新らしい横浜の生活や文化みたいなものを訪ね歩く企画が、事件の発端となりました。それ以前金沢八景で死んだ浜路恵一の事件が、この殺人事件に絡んできます。横浜を舞台に、浅見光彦の推理が冴える一編ですが、結末は屈辱的な出来事で幕を閉じることになります。

今回の作品は、「赤い靴」と「青い眼の人形」という同じ横浜を舞台にした童謡が事件に関係しています。別の歌にもかかわらず、同じ歌では・・・と錯覚しそうなほど、この二つの童謡は関連があるように思えます。この二曲は、大正10年12月ほぼ同時に野口雨情作詞、本居長世作曲で、「対」の関係で生まれた可能性があると内田さんは記述しています。言われてみれば、「赤い靴はいてた女の子」「青い眼をしたお人形」、「横浜の埠頭から」「日本の港へ」、「異人さんにつれられて」「アメリカ生まれの」、「青い目になっちゃって」「迷子になったら」といくつにも重なる対比を見ると、面白いと感じてしまいました。

日常の何気ないことに、普段は気づかないことに着眼する内田さんに敬意を表したいと思います。そして、ああ・・・そうだったのかと納得し、そしてそんな中での推理の展開は、面白さが倍増したのも確かです。(02.8.8)

戻る


「箸墓幻想」

内田 康夫 ・ 毎日新聞社 ・ 評価★★★★

卑弥呼の墓とも言われながら、実像はベールに隠された奈良・箸墓古墳。その謎を追求していた、畝傍考古学研究所の元所長・小池拓郎が殺されます。真相を追う浅見光彦を待ち受けていたのは、歴史を超えた女たちの冥い情念でした。闇は御霊たちの呪いのように、冷たく、深い・・・。やがて起きた第二の殺人に、浅見は・・・。戦慄の展開、驚天動地の結末、限りなく深い余韻。毎日新聞日曜版に連載され、反響を呼んだ作品です。(初出・毎日新聞日曜版2000年4月2日〜2001年6月24日)

この作品は、前記したように毎日新聞に63回にわたって連載されたものです。長井明美が、アルバイト先の畝傍考古学研究所を訪れる場面から始まります。平沢の案内で、初めて箸墓を知りますが、読者も一緒に案内されているような気分になりました。考古学という分野は、馴染みも薄く取り付きにくいかと思われました。発掘現場の「ホケノ山」で、事件の発端を予感させる出来事が起こりますが、最後までホケノ山が関連し、考古学を好き嫌いを言っていられる状態ではなくなりました。

ちょうど内田さんが連載中の平成12年3月28日、奈良県桜井市の「ホケノ山古墳」で、「画文帯神獣鏡」が発見されたそうです。タイムリーな出来事で、きっと連載中大きな反響を呼んだであろうと想像されます。また、関東から北海道にかけて、石器時代の遺物を発掘するグループの間で、「神の手」と称された藤村新一というアマチュアの考古学研究者のことが描かれています。まだその当時は、「石器捏造」が取り上げられていませんでしたが、あとがきの段階でそのことが発覚。きちんと説明しているあたりは、さすが内田さん抜かりが無いと思いました。

文中には、卑弥呼の「畿内説」「北部九州説」が取り上げられていて、興味深く読みました。内田さんの作品は、推理小説だけにとどまらず、なにかしら時事問題や歴史的背景が織り込まれているため、一度で二度楽しめる本だと思います。しかし、あくまでも学説や論文ではないため、真相やいかに・・・という点はありますが・・・。(02.7.7)

戻る


「北国街道殺人事件」

内田 康夫 ・ 講談社文庫 ・ 評価★★★★

長野県野尻湖の発掘現場から人骨が発見された同じ日に、良寛ゆかりの五合庵で良寛研究家の大学教授が殺されます。一茶と良寛を卒業論文にしようと、一茶の生地、長野県柏原と良寛の生地、新潟県出雲崎を訪れる田尻風見子と野村良樹。カメラの紛失事件をきっかけに、思わぬ事件に巻き込まれます。そこで出会ったのが「信濃のコロンボ」の異名を取る、長野県警捜査一課きっての名探偵・竹村岩男警部。二つの事件の奇妙なつながりに気づいた竹村警部は、核心に迫っていきますが・・・。(1987年10月徳間書店より単行本として、1991年2月徳間文庫として刊行)

竹村岩男警部は、かつて「松川ダムバラバラ事件」や「戸隠伝説殺人事件」、それに「信濃の国殺人事件」といった難事件を解決して一躍名を上げ、「信濃のコロンボ」と異名を取るその人です。難事件を解決し、異例の出世をした竹村ですが、元来、部下を掌握し活用する役割のディスクワークより、現場に出て難事件を自分の足で動き回り、自分の鼻でかぎまわり方が生にあっているタイプの刑事です。「北国街道殺人事件」は、竹村岩男が登場する作品としては、第四作目です。

この作品は、長野県野尻湖の学術調査発掘現場で、ナウマン象の化石の代わりに人骨が出てきたことから、殺人事件が発覚し竹村警部の捜査が始まります。一方、新潟県分水町の国上町にある、良寛ゆかりの「五合庵」を訪れた田尻風見子は、ひょんなことから事件に巻き込まれ、やがて竹村警部との接点が生まれます。話の中で、小林一茶や良寛など謎を解くヒントと共に、歴史的伝記も織り込まれて、幅の広い内容となっています。また、話の展開も、意外な結末となっていきますが、保険金殺人など社会背景も絡み合って面白いストーリーになっていると思いました。人間模様や犯罪動機は暗いものがありますが、謎解きの面白さは、地方色や歴史なども加わり全然陰湿さを感じさせないものに仕上がっていると感じました。(02.6.8)

戻る


「横山大観」殺人事件

内田 康夫 ・ 徳間文庫 ・ 評価★★★★

東京美術大学の助手・茂木貞澄は、銀座の画廊のオープニングパーティで一枚の絵を見て衝撃を受けました。横山大観の本名「秀麿」の落款があるその絵は、正月旅行で偶然出会った男から見せられたものだったからです。しかもその男、五味は軽井沢で転落死していました。五味が十二年前に起きた殺人事件の関係者だったことから、彼の死に不審を抱いた警視庁の岡部警部は、真相究明のために重い腰をあげ軽井沢に向かいます。(1985年「別冊小説現代」新春号掲載。1985年6月講談社より刊行。1988年10月講談社文庫より刊行)

警視庁きっての「名探偵」といわれる岡部和雄警部は、内田康夫のデビュー作「死者の木霊」で、信濃のコロンボこと竹村岩男部長刑事と一緒に活躍した男で、その当時から「警視庁きっての名探偵」と言われてきました。竹村刑事の朴訥さとは対照的に、作者の内田氏に言わせると外交官にしたいような理知的な二枚目で、物静かな外見と鋭い推理力の持ち主だそうです。今回の作品は、この岡部警部が活躍します。主人公の茂木という画家の卵が、「女王」と言われる画商の手で翻弄されながら、やがて才能を開花させる・・・・という推理小説ではないようなストーリーの中で、岡部警部が入ることにより本格的な推理小説となっているものです。

今回は、題名が表すとおり絵に関する事件です。「横山大観」という日本画の巨匠が、どのように関わってくるかは読んでからの楽しみに・・・ということにしておきますが、絵画の世界が少しでもわかるようにと著者の心遣いが伝わる作品となっています。知識がないとせっかく面白い内容でも半分も堪能できませんが、そこを著者は読者と同じ視点に立って、絵画の世界について知識が備わるように描いています。事件を解きながら、絵の世界のことも知らず知らずのうちに身につく配慮がされています。

物語の冒頭に、奥羽本線の横堀と言う駅で、列車が吹雪に閉じ込められる描写があります。場所は、秋田県雄勝郡というところで、内田さんが少年時代に数年過ごした土地だそうです。内田さんの作品で「鬼首殺人事件」というのがありますが、この作品の舞台となったところと同じところで、今回の事件の幕が開きます。しかし、鬼首というと宮城県しか思い浮かばない私にとっては、少々納得のいかない話なのですが・・・。秋田県にいた少年時代に、仲のよかった同級生の名前をそのまま使用したのが「岡部和雄」警部だそうです。内田さんの裏話でした。(02 .2.12)

戻る


「鯨の哭く海」

内田 康夫 ・ 祥伝社 ・ 評価★★★★

わが国の捕鯨発祥地・和歌山県太地を訪れたルポライター・浅見光彦は、「くじらの博物館」で奇妙な女性を目撃します。その女性は、背中に銛が打ち込まれた漁師の人形を凝視していたのです。直後、忽然と浅見の前から消えた女性は、反捕鯨派の新聞記者と心中した地元旧家の娘と似ているということがわかりました。その女性は、いまだ遺体が発見されていない旧家の娘の霊だったのでしょうか。これは、心中を装った殺人ではないか?と浅見は、死んだ新聞記者の出身地・秩父を訪ね、夜祭りの晩に起こった殺人事件の存在を知ります。秩父の事件は、調べが進んでいくうちに和歌山県太地の事件と結びついて行きました。心中現場に遺された「黒枠の招待状」、銛を突き刺された人形、そして浅見が遭遇した岬の町の女の幽霊・・・。南紀で“怪事件”に遭遇した浅見光彦は、南紀と秩父を結ぶ時を越えた「悲劇」の事件に取り組みます。

今回の事件は、鯨の捕鯨に関して「捕鯨推進派」と「反捕鯨派」の裏に潜む、政治的な陰謀をめぐる殺人事件が発端でした。殺された新聞記者は、皮肉にも浅見光彦と同じ苗字の浅見和生、読み方が「あざみ」と違いこそすれ人事とは思えない事件が、和歌山県太地で浅見を待っていました。死んだ浅見和生は、埼玉県秩父市の出身でしたが、ここでは太地出身の男性の殺人事件が、秩父夜祭りの宵に起こっていました。遠く離れた地での鯨に関係した殺人事件は、関係ないのか?犯人は、6年前の殺人事件の犯人と同一人物なのか?調べていくうちに、一人の不審な人物が浮き彫りになってきます。しかし、その人物には確固たるアリバイがありました。浅見光彦の執念の捜査が始まりました。

浅見和生の父親・俊昭は、光彦の兄陽一郎の恩師だったということが、この話にでてきます。そこで、浅見は兄の先生だった人から、何の目的で調べているかと詰問されます。浅見にしてみれば、真実を知りたいという一心から損得抜きに奔走するのですが、他人から見たらメリットもないことで調べまわる浅見が、奇異に写るのは当然でしょう。組織力も捜査権も持たない浅見に何ができるのか、と詰られたとき、浅見は「考えることができる。怒ることも悲しむことも」できると断言します。この言葉こそが、浅見を事件に駆り立てる真髄だと思いました。純粋に事件解決だけを考慮するよりも、浅見の場合好奇心が先にたって行動するタイプですが、人一倍正義感・罪悪感は強い人だと思います。真っ正直といえばいいのかもしれませんが、少年の心を無くさない純粋な人柄として描かれている浅見が、人々に抵抗なく受け入れられる由縁はこのへんにあると思いました。

久しぶりに浅見光彦に会いましたが、相変わらず居候のお坊ちゃまでいて安心したと同時に、読み手のほうは確実に年を重ねて読んできている違和感を感じました。なんとなく年を取らない浅見光彦が羨ましくもあり、しかし世相は否が応でも現在の出来事を扱っている・・・違和感はここからくるものでした。固いことを言っても仕方ないのですが、きっといつまでもかわらない浅見に対する羨望なのでしょう。(01.10.23)

戻る


はちまん 上・下

内田 康夫 ・ 角川書店 ・ 評価★★★★

「旅と歴史」編集部の依頼で、フリーカメラマン・小内美由紀は、長野県中野市を訪れます。彼女は、取材旅行途中、各地の八幡神社を巡礼する老人と出会います。美由紀は老人の話に興味を惹かれますが、その後、彼の死体が秋田県の竹嶋潟で発見されました。姪が被害者の息子の教え子であったことから、浅見光彦はこの老人(元文部省官僚)の足跡を辿ることになりますが・・・。八幡神社巡りの謎を追って、浅見光彦は、秋田・広島・兵庫、そして熊本へと向かいます。そのなかで浮かび上がる戦争の傷痕と老人の閉ざされた半世紀。現在の政治に絡むものが見え隠れするなか、高知県庁生涯学習課に赴任した美由紀の婚約者・松浦勇樹の周囲にも不可解な事件が連続して発生します。真相はますます混乱をきわめ、浅見光彦は事件解明しながらも悲劇の渦の中へと向かいます。

本作品は学芸通信社の配信により、「高知新聞」(平成9年9月23日〜平成10年1月26日)「秋田魁新報」「信濃毎日新聞」「中国新聞」「熊本日日新聞」「北國新聞」「神戸新聞」に連載されました。この「はちまん」は、登場した県に関係した各新聞社に連載されたことになりますが、当時「サッカーくじ法案」とか時勢に関係した内容がこの作品の主流になっているため、さぞ波紋を呼んだことでしょう。内田さんの作品は、世の動きを巧みに取り入れるところから、いかにも浅見光彦がほんとにいて、起きている事件を解決しているのではと錯覚してしまいます。それだけ登場人物にリアリティがあるのです。

今回は、上・下巻という長編作品で、最初いつもの作品に見られるような「エピローグ」や最後の「プロローグ」はありません。フリーカメラマン・小内美由紀が各地の八幡神社を巡礼する老人と出会う場面から始まっていますが、振り返るとこの出会いがすべてに関わってくるのです。緻密な線が最後には1本に繋がっていく過程は、読んでいるものに余計な出来事は何も無いと思わせるほど完成度は高いと思いました。「はちまん」は、ひらがなで書くと何かなと思いますが、「八幡」と書くと誰でもが神社と想像できるでしょう。「はちまん」にまつわるエピソードを絡めた話の筋書きは、戦争を知らない世代には何を古臭いと思われがちですが、サッカーくじ法案とか今話題の話をも巧みに取り入れ、話の流れに信憑性を持たせるあたり内田さんらしい作品です。

今は、サッカーくじ法案もとおり「toto」としてテレビでも流れていますが、この作品が登場したあたりはまだ法案も通って間もない頃だったはずです。良いか悪いかは別として、馴染みのあることが作品にでてくるのは見逃せません。しかし、この作品でそれを評価するのはいかがなものかと思います。活字の怖さを改めて感じました。普段あまり政治的なことに関心の無いものにも、考えさせる作品を提供していただくことにはうれしいのですが、謎解きのほうがおろそかにならないようにしてほしいのも正直な気持ちです。内田さんの作品で犯人が逮捕されるケースはあまりないのですが、この作品も例外ではなく最後は天罰とも思われるような幕切れでした。浅見光彦のやさしさゆえの展開なので、不満はないのですが・・・。(01.5.26)

戻る


貴賓室の怪人 「飛鳥」編

内田 康夫 ・ 角川書店 ・ 評価★★★★

浅見光彦に、豪華客船「飛鳥」の世界一周旅行を取材してほしいという依頼がきます。しかも、旅費はすべて負担してくれるという破格の条件で・・・。しかし、浅見光彦に期待をしているのは、取材ではなく探偵としての能力らしい。出航直前、浅見は「貴賓室の怪人に気をつけろ」という謎の手紙を受け取り、さらにはその貴賓室の乗船客には作家の内田康夫がいることを知ります。ただならぬ予感をはらみながら、「飛鳥」は日本を離れ世界一周クルーズへと出航します。その後、船内では数々の怪事件が発生していきます。浅見光彦シリーズ、海外進出第1弾と名うって出版された本書は、「KADOKAWAミステリ」(プレ創刊2号、1999年11月創刊号〜2000年9月号)に連載したものに、加筆・訂正を加えたものです。

いつもの小説と違うところが、何箇所かありました。まず、本文に入る前に豪華客船「飛鳥」の見取り図というか船内施設の概要が紹介されています。次に「飛鳥」世界一周航路が掲載されていますが、今回の事件に関係ある日本からムンバイまでの航路がクローズアップされていました。また登場人物の紹介も異例です。否が応でも、気分はこの豪華客船に一緒に乗って世界一周・・・・。でも本文にも書いてありましたが、金額が庶民には手の出ないほど高額なのには驚きです。優雅に数ヶ月をかけてのクルーズ、こんなところで殺人事件をおこす内田さんの神経は・・・と疑問に思いました。いつもの小説と違うところの極めつけは、最後まで謎の手紙の解答が出てこないということと、浅見を指名して乗船させた目的が不明という点も上げられるかと思います。

「飛鳥」編(日本〜ムンバイ)ということは、これからも世界一周が終わるまで作品は続き、そして浅見光彦がいるということは事件もおきるという設定なのでしょうか。中途半端に物語が終わってしまっているので、消化不良という感じです。作品自体は、それなりに面白みがあり登場人物も一癖も二癖もありそうで、これから何がおきのかと興味が湧きますが、内田さん本人が出てきて自分自身のことを書くということが、あまり好ましいとは思っていないので先行き不満が残ります。自分を卑下した書き方(自分では絶対そうは思っていない証拠です)、浅見光彦クラブを登場させたりするやり方、それなりに計算した技法だとは思うのですが、好き嫌いがありますのでなんとも言えませんが、できるなら大人しくしていてほしいと思うのは私だけでしょうか。

いずれにしても、まだ世界一周旅行ははじまったばかり・・・。次の寄港先は?次の事件は?と期待して次作を待っていましょう。(01.5.1)

戻る


「不知火海」

内田 康夫 ・ 講談社 ・ 評価★★★★

「不知火」(しらぬい)とは・・・・

夜間の海上に多くの光が点在し、ゆらめいて見える現象。九州の八代(やつしろ)海・有明海で見られるものが有名。干潟の冷えた水面と大気との間にできる温度差によって、遠くの少数の漁火(いさりび)が無数の影像を作る、異常屈折現象とする説が有力。しらぬひ。[季]秋。〔景行天皇が肥の国を討伐した際、暗夜の海上に正体不明の火が無数に現れたという故事がある〕−大辞林より−

「不知火を見た・・・・」 その言葉を残して、男と女が失踪しました。男が隣人に託した桐の箱には、なんとも不気味な髑髏が入っていました。その髑髏の歯が噛みしめる黒い鉱石。「生きるための保証」となる唯一のメッセージと共に・・・・。隣人が困り果て、助けを求められた浅見光彦は、失踪した人たちを探す傍ら髑髏の語る真実に迫るべき、九州・八代まで「蒼き炎に誘われ」廃坑の町を彷徨うのでした。かつて炭坑で栄えた町の哀しい歴史をたどるうちに、25年前「悪魔の砂」をめぐって起きた事件の恐るべき真相が明らかにされていきます。

事件は、「不知火」そのものとは直接繋がりはないのですが、過去に起こった事件の背景が現在で思わぬ形で浮き彫りにされ、その比喩として表現されています。1963年に起こった事件、ケネディ大統領暗殺、横浜市で東海道線貨物列車の脱線事故、三井三池鉱業所でガス爆発事故が今回の事件ととこでどういう風に結びついてくるのか。また「悪魔の砂」とは一体何で、それが男女の失踪とどう関わってくるのか。謎の多い事件に、浅見光彦は大嫌いな飛行機に何度も乗る羽目になります。

今回の作品は、珍しく浅見さんのキスシーンが描かれています。とてもロマンチックとは言い難い雰囲気ですが、それに彼の意思でもないのですが、朴念仁の浅見さんにしては進歩ですよね。淡い結婚願望も抱く今回の作品は、ある意味では浅見さんもとうとう年貢を納める気になったのでしょうか。相手があれば・・・。

舞台は九州、八代を中心に話は展開していきますが、その付近にある八代海を別名不知火海というそうです。またその地方では不知火は、八朔の時に見られるということですが、富山の蜃気楼同様不思議な自然現象の不知火を見てみたい気がしました。神秘的で人生観がかわると記述されている本文を見て、旅情をかきたてられてしまいました。できたら浅見さんのソアラに乗って・・・・。(01.3.18)

戻る


「秋田殺人事件」

内田 康夫 ・ 光文社 ・ 評価★★★★

《警告・秋田には魔物が棲んでいる》−秋田県の副知事として着任予定の女性官僚のもとに、二通の不吉な警告文が届きます。おりしも、秋田では二件の事故とも他殺とも思えるような不審な事件が起き、警察では自殺としてはやばや処理してしまっていました。副知事の秘書として兄・陽一郎の密命を受けた光彦は、事件の陰に秋田杉を巡る謀略事件があることを知ります。複雑に絡まった糸を解きほぐしていくうち、秋田杉に絡む第三セクターの闇が浮き彫りにされ、問題は政局をも揺るがします。

一見結びつきがないように見える二つの事件が、実は一本の糸で結ばれていたことが浅見光彦の活躍で、真相が明らかにされます。今回は、秋田県の副知事秘書という肩書きが入った名刺をフルに活用し、事件の全貌に迫ります。どちらかというと、浅見光彦らしくない行動です。現に「副知事の存在がなければ、このレポート(事件の真相をまとめたもの・・・・)は完成できませんでした。随所で副知事秘書の名刺がものをいいましたからね。それは裏を返せば、為政者がその気になれば、どんな事件でも真相に迫ることができるという事実を立証するものでもありました。(省略)」と、浅見光彦に言わせています。

事件最初から、兄・陽一郎が登場するというのも異例かもしれません。女性官僚が陽一郎の後輩で、相談を持ち込んだいきさつから光彦を推薦したというストーリーになっているためですが、やはり兄は弟の才能には一目置いているのがわかります。

結局今回も、女子大生と親しくなる光彦ですが、苦い思いと誤解(後で誤解は解けるのですが・・・・)を胸に秋田を去る結果となるのですが、このシリーズでは浅見光彦のロマンスは生まれてこないようです。期待半分、でもいつまでも独身で・・・と思う気持ちが半分、ファンとは勝手なものですね。

物語の展開は、内田さんらしくテンポよく話の筋道がきちんとわかりやすく、読んでいて安心できますが最近の話題は世相を色濃く反映しているせいで、伝説ものとか歴史に絡んだものとかが少ないように思います。政治の話が中心になってくると、今の世の中が暗いせいで最後も明るく終結しないのが残念です。それなりに、情報が得られるので読んでいては面白いのですが・・・。(01.3.7)

戻る


「氷雪の殺人」

内田 康夫 ・ 文藝春秋 ・ 評価★★★★

最北の国境をのぞむ利尻島で起きた殺人事件。兄・陽一郎が、極秘裏に秋元北海道沖縄開発長官からの依頼を受けました。「あなたの弟さんにお会いしたい」と・・・できれば利尻島という場所でと指定してきました。最果ての地で、何があったのか。浅見光彦は、自分に託された死者の謎のメッセージと一枚のCDから、事件解決に挑みます。しかし、真相に近づくにつれ謀略の背後には、巨大なものが立ちはだかり、浅見光彦と兄・陽一郎はある「覚悟」を迫られます。真犯人は意外な人物でした・・・・。

この作品の紹介で内田氏は、「この作品を書いているうちに思い入れがどんどん強くなっていった。浅見光彦と陽一郎、警察と自衛隊−という「兄弟」の物語として昇華したのは、僕の予想を越えている。戦後、日本人が喪った最大のものは「覚悟」ではなかっただろうか。この作品ではそのテーマを、大上段からではなく、あくまでもエンターテイメントとして書いた。『氷雪の殺人』はタブーに対する僕流の“挑戦”といっていいかもしれない」と、言っています。

舞台は北海道最北端の地・利尻島。昔のロシアとの戦争の傷跡も生々しい「サハリン」、対照的に殺人の現場となるのは秀麗な「利尻富士」として知られる利尻山。この時代を超えた時空にどんな接点があるのか、浅見光彦は死者が残した奇妙なメッセージ「プロメテウスの火矢は氷雪を溶かさない」と、一枚のCDから事件の核心に迫っていきます。そこには企業と官僚の癒着、防衛庁の汚職・・・・と、思いがけない方向に真相は進んでいきました。時を同じくして、国家に大きな危機が訪れ・・・・とスケールの大きな作品となって、物語は展開していきます。

人一人の死から、浅見兄弟が苦悩する事態に追い込まれた今回の事件は、兄弟愛が事のほか色濃く表現されていると思いました。規模も大きく、最後まで犯人が特定できない展開は、読んでいて犯人の素性が知らされても、「本当にこの人?」という感じで、前に戻って読み返したりと内容の深い作品に仕上がっています。久しぶりに大作を読んだという感じでしたが、現実に起こっている話題を巧みに取り入れての筋書きは、いかにもそうなのか・・・と納得させられ、架空の物語とは思えない一面がありました。それゆえ、浅見光彦は実在する人物なのでは・・・と言われる由縁だと妙に納得してしまいました。(00.12.13)

戻る


「讃岐路殺人事件」

内田 康夫 ・ 角川書店 ・ 評価★★★★

浅見光彦の母・雪江が四国霊場めぐりの途中で、交通事故に遭い、記憶喪失に陥ります。幸運にも、雪江は東京で記憶を取り戻しますが、一週間後に事故の加害者・久保彩奈が瀬戸大橋で自殺を遂げました。事故が原因なのでは・・・・と心配する雪江の命を受け、浅見は香川県高松へと向かいます。ところが、彩奈は自殺をする半月前から失踪していたことが判明し、家族も職場も彩奈について多くを語ろうとはしません。不可解な死に疑問を抱いた浅見は、わずかな手がかりだけを頼りに独自の調査を開始します。そして、事件の背景がおぼろげに見えてきたとき、彩奈の兄が「ウラシマ・タロウノ・ホコ・・・・」という謎のダイイング・メッセージを遺して殺されました。錯綜する事件の真相を追って、浅見光彦が讃岐路を往きます・・・・。

四国香川県を古くは「讃岐」と呼んでいました。「サヌキ」と読みます。そこで事件は発生します。今回は母親である雪江が、交通事故にあい記憶喪失になるという場面から物語が始まります。事件に巻き込まれる浅見も、母の命を受けての真相追求のため、今回は肩身の狭い思いをしないで済みそうです。四国霊場巡り、石の町、そして浦島太郎伝説・・・・と風土と悲劇の歴史を持つ讃岐の土地に、リゾート開発という利権が絡み、殺人事件が浅見光彦を待っています。

内田さんの作品、特に浅見光彦シリーズの面白さは、彼のファミリーの存在にあると思います。浅見光彦が事件に関わりを持つことを、兄の迷惑になるからと自粛を言い渡している母・雪江にしても、少なからず彼の能力を認めているところがあります。今回の作品もそうですが、「頼りない」と彼を評しながらも一方では、存在意識の根底に光彦に対する愛情が感じられる場面が登場します。兄・陽一郎の存在は、さながら「水戸黄門の印籠」的なユーモアを持って、陽一郎の預かり知れないところで威力を発し、光彦の危機を幾度となく救っています。光彦にしてみてば、兄を表面に立ててその威光を借りて・・・・などとは思ってもいないのでしょうが、結果的には兄なしでは今の彼の存在は無いと言っても過言ではなくなっていると思います。

しかし、なんと言っても浅見光彦のミャラクターが、このシリーズの一番の魅力だし、その土地ならではの背景が生かされていることが読み手の旅情をかきたて、物語の展開に引き込まれる大きな要因となっていると思います。(00.12.10)

戻る


「風葬の城」

内田 康夫 ・ 講談社文庫 ・ 評価★★★★

白虎隊のふるさと、会津を訪れた浅見光彦の目の前で、塗師平野が謎の死を遂げます。折りしも東京で歯科技工士として働く平野の息子も、帰郷途中で失踪してしまいます。殺人事件となった平野の死の第一発見者となってしまった浅見は、理知的で美しさをたたえた会津女子高校の新人教師、安達理紗の助けを得て、見えない犯人を追い詰めていきます・・・。

今回の作品の舞台となるのは、会津若松です。盆地で、白虎隊(飯盛山)が有名で、鶴ヶ城があって、五色沼や猪苗代湖があり、そして会津塗りという漆器が有名・・・このくらいしか知識がないのですが、読んでいくうちに会津気質というか、会津に生まれ育った人にしかわからない感情を、文面の底に感じとることができました。どうして白虎隊(飯盛山)が有名だったのか・・・(今にして思えば、勉強不足の一言に尽きるのですが)というと、明治維新の際の戊辰戦争で、最後まで西軍(薩摩・長州)と戦った会津藩の中の若い戦士が、落城を目の前にして(正しくは城下町が燃えていたのでしたが・・)降伏などせず、城が見える飯盛山で自刃したという悲劇が語り継がれているからなのです。会津の戦いは、日本武士道最後の戦いとされています。

表題とされている城は「鶴ヶ城」のことですが、風葬とは・・・となるとますます知識のない私には何の意味かわからなかったのですが、文中から察するに、埋葬を許されずに死んだままの状態で放置された遺体ということになるのでしょうか。その昔の話が、いまでも生活している人たちの心の中にある・・・ということを、内田さんの小説は言っていますが、なんとなくその感情はわかるような気がします。戦争の傷跡というものは、時間が解決してくれるわけではないのですね。

もう一つの大きな背景として、医学界(ここでは歯科医師会を取り上げていますが・・・)の国家試験制度を題材に織り込んでいます。ここでも、浅見さんの観察力と推理力が如何なく発揮されていますが、最後はやっぱり心やさしい(?)浅見さんの配慮もあります。一つ言わせてもらえるなら、余韻を残して最後は読者の想像に任せるというやりかたもいいとは思いますが、もう少しすっきり終わる書き方もいいのでは・・・と思います。あまり犯人にそして犯罪に対して、寛大すぎるような気がしてなりません。それが内田さんの作品の持ち味かもしれませんが・・・。(00.7.10)

戻る


「死線上のアリア」

内田 康夫 ・ 角川文庫 ・ 評価★★★

私立探偵・鴨田栄作のもとに、名器ストラディバリを護衛して欲しいという依頼が来ます。所有者は、世界的に有名なヴァイオリニスト・辻真理でした。ところが、彼女の凱旋祝賀パーティ当日に事件が発生します。辻真理が演奏を開始した途端に“ダーン”という大音響が響き、最上席の中央の紳士が夥しい血を流して倒れたのです。凶器は被害者の胸ポケットにあった小型ピストルでした。果たして自殺か、それとも事件か・・・・。鴨田栄作と犯罪捜査用スーパーパソコン『ゼニガタ』が活躍する表題作ほか、警視庁のキレ物・フグハラ(?)警部の名推理を描いた作品を収録した短編集です。

内田さんの作品は、浅見光彦シリーズを中心に読んできましたが、浅見シリーズとはまた一味違った魅力を感じた作品集でした。この本に収録された中で一番目に引くのは、福原警部のシリーズです。「優しい殺人者」「死あわせなカップル」「碓氷峠殺人事件」と三編収録されていますが、キャラクターもかなりユニークな人物設定となっています。通称「フグハラ」警部というくらい全体の印象が河豚にそっくりで、食欲旺盛で居眠りばかりしているけれど、外見とは裏腹に見事な推理を披露してくれます。容貌や言動は、浅見さんとはかなり違っていますが、「キレ者警部」として活躍します。

また、ユーモアならパソコン探偵シリーズも負けてはいません。名前は有名な捕物帳の親分と同じ『ゼニガタ』と言うパソコンは、一流進学校のOBの英知が詰まったもので、探偵事務所を開設しようとした鴨田のために製作されたものです。ボイスセンサーを備え、鴨田から事件のデータをインプットしてもらい、ディスプレイ上に推理を述べていく・・。ハイテク社会らしい鋭い分析力を備えた名探偵ですが、さまざまなデータをもとに鮮やかに現場にいかないで推理するやり方は、安楽椅子探偵とも言われています。ここでは、「死線上のアリア」だけが収録されています。

タイトルが事件の根幹を語っている「交歓殺人」(問題小説・昭和60/2)と「飼う女」(問題小説・昭和61/11)は、内田さんには珍しい官能シーンを織り込んだ短編になっています。しかし、推理小説としての本分を忘れてはいません。切れのいいラストシーンが、待っています。ラストのキレは、「願望の連環」(別冊小説宝石・平成1/5)でも発揮されています。

しかし、内田さんのダジャレや笑えないギャグや官能シーンは、受け入れるのに一苦労しました。どこかで浅見さんのイメージがついて回って、もっと真面目にスマートに・・・と心の中で言っている自分をそこに見てしまいました。福原警部ものにしても、パソコン『ゼニガタ』の活躍にしてもそれなりに面白いし魅力も感じるのですが、いかんせん笑えないギャグと官能ものだけはなんとかならないか・・・と思いました。名探偵のイメージは勝手に一人歩きしてしまい、作者の手を離れ、実在する人物のような錯覚のもとに受け入れられている現実は、内田さんの創作評価も二分することになると思います。(00.6.25)

戻る


「『首の女』殺人事件」

内田 康夫 ・ 徳間文庫 ・ 評価★★★★

真杉伸子は小学校の同窓会で、かつて彼女を思慕していた宮田治夫と再会します。伸子は、いまだ独身の宮田と妹・光子のデートをお膳立てしました。二人は、高村光太郎・智恵子展で逢って見ている時に、光太郎の木彫りの「蝉」を食い入るように見つめている男性に出会います。ところが、その男性が福島で殺害され、宮田も島根で水死体となって発見されます。伸子は妹の友人で名探偵の誉れ高い(?)浅見光彦に事件の真相究明を依頼しますが・・・。

この作品は、1986年8月に徳間書店から刊行され、1989年10月に文庫化されました。高村光太郎と智恵子の話が中心に、この物語は展開していきます。光太郎の芸術家としての作品のこととか、智恵子との生活とか、文学的内容を織り込んだ推理小説は、内田さん独特の世界だと思います。主題にある「首の女」も、光太郎の作品の一つなのですが、これが今回の事件の謎を解くキーワードになっています。作品の中にある文学的要素は、しっかりした裏付けがなされていて、読み手に判りやすく伝わってきます。謎解きと一緒に、健康的な健全文学(暴力・残虐・ポルノまがいの描写が一切ないのが、内田さんの作品の特徴です。)を堪能できるということも、読者を選ばず層の厚さで支持される由縁だと思います。

今回この作品に登場するヒロイン的存在に、姪の家庭教師役で浅見光彦の幼なじみの「光子」が登場します。ここでも浅見光彦は、恋(?)を実らせることはできませんが、エピローグで光子に気持ちを告白されます。結局はいつもの友達以上恋人未満で、二人の関係は終結してしまいますが・・・。

−いやなんです あなたのいつてしまふのが・・・花よりさきに実のなるやうな 種よりさきに芽のでるやうな 夏から春のすぐ来るやうな そんな理屈に合わない不自然を どうかしないでゐて下さい− 『人に』より

光太郎の詩は、直接的で感情が激しく表れていますが、こういう言葉を浅見に投げかける光子の気持ちって、なんとなくわかるような気がします。浅見さんも、気がついていると思うのですがね・・・。(00.6.12)

戻る


「隅田川殺人事件」

内田 康夫 ・ 徳間文庫 ・ 評価★★★★★

東京浅草の吾妻橋から日の出桟橋まで、隅田川を往く水上バス。結婚式当日、家族・親戚とともに乗り込んだ花嫁津田隆子は、船内から忽然と姿を消してしまいます。新婦不在のまま、新郎池沢英二は、悄然と披露宴の席に着くのでした。そして、十日後、築地の堀割で身元不明の女性の全裸死体が発見されます。行方不明の花嫁・隆子なのか・・・?!新郎池沢と絵画教室の仲間である光彦の母「雪江」の依頼で、名探偵浅見光彦の調査が始まります。

珍しく東京が舞台の今回の作品、それも東京の下町と称される浅草を中心に物語が展開します。その下町情緒に欠かせないのが、隅田川・・・東京には数多くの橋がありますが、その下を流れる川なのです。「言門橋」「吾妻橋」「駒形橋」「厩橋」「蔵前橋」「両国橋」「新大橋」「青洲橋」「永代橋」「勝鬨橋」などなど、いくつかは耳にしたことがある名称に出会います。この隅田川が流れる浅草・吾妻橋から、浜松町にある日の出桟橋まで運行される水上バスで、事件の幕が開きます。

浅見光彦にとって、東京が舞台の小説は珍しいことです、そして母親がなによりの恐怖(?)の彼にとって、母から事件の調査を依頼されることもまた珍しいことです。またこの作品では、いままでにない感じを受けました。一つは、花婿として登場する池沢の存在のです。役割が、明確に描かれていないのです。それと、終わり方が普通ではないということです。ラストシーンが割り切れない状態で、「浅見光彦はどうなったのか?」「犯人はつかまったのか?」、疑問を残しています。読んだ方の想像で物語を補える、という観点ではこういう小説もまた楽しいかな・・・と思いますが、いかがでしょうか。(00.2.19)

戻る


「内田 康夫集」 (もだんミステリーワールド)

内田 康夫 ・ リブリオ出版 ・ 評価★★★★

もだんミステリーワールド全15巻の第1巻「内田康夫集」です。内田さんの短編は、そして浅見光彦シリーズ以外はあんまり読みませんでしたが、目先が変わった感じがしてたまにはいいかな・・・と思いました。本書に掲載されましたのは、「願望の連環」「陰画の構図」「サラ金地獄に愛を見た」の3編です。

「願望の連環」は、これまで会社の同僚に小金を貸し立てはきびしく取り立てていた女性が、結婚など意に介しないと思われていたのに、同僚の一人に結婚を申し込みました。しかし、その同僚には上司の娘との縁談が持ち上がります。そんな中、その女性が死体となって発見され、同じ日別の場所で男性の自殺死体が発見されます・・・。現代の若い人の打算的な言動を描く、ミステリータッチの作品です。

「陰画の構図」は、人気TV番組を担当しているレポーターが主人公で、彼女の仕事を手伝ってくれるカメラマンが殺害され、それを発見したところから物語がはじまります。さらに番組の準レギュラーの女性と担当ディレクターが、死体となって発見されTV局内の葛藤や策略など陰に隠れた見えない糸を解くように、事件の真実に迫っていきます。彼女の奔走の結果、真相をつかんだつもりでいたのですが、思いも寄らない結論に達します・・・。

「サラ金地獄に愛を見た」は、「パソコン探偵」のシリーズの一編です。小規模なサラリーマン金融の社長のところに脅迫が・・・。女社長の10歳の息子が心配をし、探偵事務所を名乗っている「鴨田」にその事件の依頼にきます。脅迫者が、そのサラ金の事務所に表れ、ボディガードとして派遣していた「鴨田」の事務員を殺そうとしますが、死んだのは脅迫者のほうでした・・・。「パソコン探偵=ゼニガタ」の知恵で謎の解明が始まります。

趣がいつもと違うので、ちょっと違和感がなかった訳ではありませんが、読んでいてすんなり受け入れられました。内田さんの執筆は、浅見光彦のような主人公だけではなく、パソコン探偵のようなメカを相手の一風変わったキャラクターでも、充分読んでいて面白かったばかりではなく、推理のポイントを押さえている点では安心して読めました。今度は、「パソコン探偵」のゼニガタ君に会いに行きたいと思います。(00.1.28)

戻る


「ユタが愛した探偵」

内田 康夫 ・ 徳間書店 ・ 評価★★★★★

耳慣れない言葉の連続でした。作者が沖縄のことを、「日本であって日本じゃない」というような表現をしていましたが、それもなんとなく理解できそうな気がします。方言という簡単な言い表しではできない沖縄独特な言葉は、発音もそうですが、風土が生んだ生活様式が色濃く反映されているような気がします。この作品は、そういう全てを含め沖縄の文化等に触れるのには良い意味で取り掛かりやすい気がします。

1999年10月に、久々に書き下ろし新作として発刊された「ユタが愛した探偵」、沖縄が舞台となって物語は展開していきます。斎場御獄(せーふあうたき)で発見された雑誌記者の死体。死者の叫びを聞いた霊能者と共に、事件を追う浅見がたどり着いた驚くべき真相とは・・・。飛行機嫌いで有名な浅見光彦が、神秘の国、沖縄で体験する非科学的世界は、沖縄人(ウチナーンチュ)と本土の人間・大和人(ヤマトンチュー)、異文化の国ということを強く感じました。

まず「ユタってなに・・?」と疑問が起きました。「ユタ」とは、「沖縄で、口寄せ(巫女などが神がかりになって霊魂を呼び寄せ、その意思を伝え告げること)をする巫(かんなぎ)。男にも女にもいう。」と広辞苑で解説されていますが、青森にある恐山の「いたこ=東北地方で口寄せをする巫女をいう」と考えると何となく理解できそうです。本質的には違うらしいのですが、こういう沖縄独特の言葉が作品の端はしにでてくるため、本を読み進むうち正式な名称では覚えきれないため、字のもつイメージで最後まで読んでしまいました。余談として、沖縄ではアイウエオのエ段をイ段に、オ段をウ段に発音するらしいです。例えば作品の中に出てくる言葉でいえば、「御獄」は「オタケ」ですが「ウタキ」と言いますし、「沖縄」は「ウチナー」です。また「キ」は「チ」と発音する場合が多いようです。完全にルビがないとついていけない世界です・・・。

今回の作品で珍しいできごとがありました。浅見さんには、毎回魅力的な女性が相手役的存在として登場しますが、今回は二人浅見さんに淡い慕情を抱きます。その一人「サーダカウマリ=性高生まれ」(高い霊力に恵まれて生まれた子)、式香桜里とはお互い感じあうものがあったようです。でも、浅見さんの場合は、それ以上に発展しないのがなんとも歯がゆい思いなのですが・・・。

沖縄といえば必ず「戦争」「基地」の問題がつきまといますが、そういう話題を抜きに沖縄を読むというのもまた楽しいものです。(00.1.18)

戻る


「薔薇の殺人」

内田 康夫 ・ 角川文庫 ・ 評価★★★★

浅見光彦の遠縁の大学生・緒方聡が女子高生誘拐の嫌疑をかけられます。話を聞いて見ると一目惚れしてしまい、家まで後をつけて行ってしまったらしいのです。あきれる浅見ではありましたが、聡の濡れ衣を晴らそうと行方不明になった女子高生浜岡文絵の家を訪れます。そこに届けられていた一通の脅迫状、文面には文絵の出生の秘密をばらすという内容が・・・・・。文絵は人気俳優・三神洋と「宝塚」出身の女優・鳥越美春との十七年前の秘めやかな愛の結晶だったのです。数日後、文絵が遺体で発見されました。浅見は悲劇の真相を追って、乙女の都「宝塚」へと向かいます。

どちらかというと比較的内容が軽いほうに属する作品かと思いましたが、花の宝塚歌劇団を舞台にしたということで、際立って鮮明な印象を残す作品になっています。この作品の原型は、雑誌「野生時代」(平成3年5月〜6月号)誌上に2度にわたって掲載された短編「名探偵は居候」という作品に、「宝塚」のエピソードの部分等を追加し肉付けされ長編作品として日の目を見ることになったいわくつきのものなのです。

この作品にでてくる「ベルサイユの薔薇」−オスカルやアンドレと言った誰にでも馴染みのある作品です−今からもう8年も前の舞台が登場するのですが、読んでいて訪れたことがない宝塚市や見たことが無い宝塚歌劇団の舞台などが懐かしく感じるのは、身近な話題を取り上げてくれたことと内田さんの筆運びの絶妙さゆえのことと思いますが、舞台を見たことがある方や宝塚を訪れたことがある方は、もっともっとこの作品に親近感を持つこと請け合いです・・。ここで一つ以外な情報を・・・。あの浅見さんのもっとも苦手とする、そして頭の上がらない雪江未亡人が、若かりし頃「宝塚」に憧れていたということを知っていましたか・・(実は私は知っていました、何かで読んだような記憶が・・・)。

どうぞ、ひとときの幕開けをお楽しみください。(99.11.29)

戻る


「若狭殺人事件」

内田 康夫 ・ 光文社 ・ 評価★★★★

舞台は福井県、若狭の名勝三方五湖のひとつ日向湖に沈む男性の死体。同じ頃東京で絞殺された広告代理店勤務の細野久雄。−細野は死の直前、同人誌に若狭を舞台にした短編小説「死舞」を発表していました。そこに描かれていた黒い服の男の謎の行動と暗い過去・・・。浅見光彦は、この小説をもとに、二つの殺人事件を結ぶ接点を求めて、単身若狭へと向かいます。そこには四十年の時間の壁が立ちはだかるのでした・・・。

この小説は、四十年前の日本と現在日本が描かれています。戦後(昭和20年10月7日が引揚船第一号入港)舞鶴港へソ連等からの引揚船が入港しています。歌でご存知の「岸壁の母」の舞台になった舞鶴港ですが、その引揚者の思い出を同人誌に載せてばかりに思惑ところで悲劇は起きました。複雑な意図が絡み合い、そして縺れた糸を解くように難事件に取り組む浅見光彦。若狭といえば、もう一つ忘れてならないものの中に敦賀、美浜の原発があります。原発の危険性やエネルギー問題等、今現実に起きていることを巧みに取り上げ問題提供をしてくれる・・・内田さんの作品の傾向と言っても過言ではないと思います。

本来のストーリーとは直接関係のないエピソードが、結構盛り込まれているのが内田ミステリーの特徴といえますが、この作品でちょっと気が付いたことを書きますと、日頃寡黙な浅見刑事局長ドノ(浅見光彦の兄)が、「ヤクザの娘の親はヤクザ」と普段は自分の考えかたや意見を言わないのに、光彦を相手に熱弁を揮ったのには驚きました。やっぱり彼も人の子・・・と思いましたが、もう少しこういう場面が登場してくれたらとファンとしては望んでやみません。

ところで、若狭と東京、そして四十年まえの引揚者、美浜の原発、金沢の同人誌、はたまた茨城県の涸沼湖(ここでは汽水湖という点に注意)と遠く離れた場所で起きた殺人事件は、運命的な因縁の糸が絡むように、たがいに引き寄せあい、やがて真相が見えてくるのですが、内田さんが最後に言っています。「なんだか、浅見が僕の知らない世界を、勝手に生きているような気がしてなりません」と・・・。(99.11.13)

戻る


「歌わない笛」

内田 康夫 ・ 徳間文庫 ・ 評価★★★★

倉敷市の山林で夏井康子が死体で発見されました。服毒しフルートを手にしたまま・・・。五日後、婚約者・戸川健介の溺死体が吉井川に浮かびます。警察は揉め事の末の後追い心中事件として結論をだしました。しかし演奏会で津山市を訪れ、偶然事件と関わったヴァイオリニストの本沢千恵子は妙なことに気付いやのです。康子のフルートの持ち方が左右逆なのです。他殺?千恵子は旧知の浅見光彦に相談します。恐ろしく悲しい演奏会の序曲でした。

ここに登場する本沢千恵子は、「高千穂伝説殺人事件」(1986年・角川書店)のヒロインだったことは読んだ方は周知のことと思います。今回は、このヴァイオリニスト本沢千恵子が、ウィーンの音楽祭で受賞し凱旋帰国後、津山の音楽大学でコンサートの依頼を引き受けたところから事件は始まります。いつもながら風土のなかの事件と、人間、推理、そして旅情が一つに融けあった世界を作り出しています。特に浅見光彦が、自殺、後追い心中事件として警察が判断した事件について、捜査本部員を前に事件の謎解きをする場面は、迫力とスリルに満ちて読むがわに伝わってきます。

推理小説を一言でいえば、「謎解きの興味で読ませる小説」ということで言い表すことができると思うが、ただ単に謎解きだけでは読者は承知しないと思うし、そこになにか読んでためになる要素があってこの人の本・・・・という感じで手にとるようになるのではないでしょうか。「紙の上の現実」、つまり虚構がいかにリアリティーに描かれているかも重要な本選びのポイントにもなってきます。

小説に描かれた非現実の人生が、現実の人生にブレンドされる、そんな「もうひとつの人生」を内田さんの小説は読み手の私たちに与えてくれます。浅見光彦の犯人に対する心理描写やあの独特な「優しさ」に惹かれて、このシリーズを読むのは私だけではないと思います。本の中にしか存在しない浅見光彦や虚構の物語なのですが、実生活以上の厚みとリアリティーを具えて、私たちを推理という小説の世界に誘ってくれる内田さんの本からは、しばらく縁が切れそうもありません。皆さんもぜひ一度小説の世界で遊んでみませんか・・・。(99.10.29)

戻る


「黄金の石橋」

内田 康夫 ・ 実業之日本社 ・ 評価★★★★

「軽井沢の先生」こと、著者自身が登場するエピローグから今回の物語は始まります。浅見光彦は、「軽井沢の先生」の陰謀で俳優・榎本孝明氏(テレビの浅見光彦シリーズをご覧になったことのある方はお判りになると思いますが、TVで主人公浅見光彦を演じている俳優のお一人です・・・)の依頼を肩代わりさせられることになり、生まれてはじめての鹿児島の土を踏むはめに・・・・。

榎本氏のご母堂が、何者かに「金の石橋」の在り処を示す古文書について脅迫されているという情報。そしてついに殺人事件が・・・・。鹿児島から熊本へ、石橋という文化遺産を取材しながら、浅見光彦は見えない恐喝者と競い合って「黄金の石橋」を追うことにまります。

内田ファン待望の2年ぶりの書き下ろしになるこの本は、依頼人に俳優の榎本氏を登場させ、その事件を浅見光彦が解決するという思考を凝らした内容になって、「金の石橋」という呪文のようなメッセージと西郷隆盛の亡霊に操られて、南九州を彷徨います。舞台が鹿児島の川内市などが登場するのは、俳優の榎本氏の故郷だからかもしれませんが、数多い内田さんの小説でまだ取り上げられたことのない土地があったことを、読むまで知りませんでした。

どちらかというと、作者自身がでてくる小説は好きではないのですが、いつ読んでも見事な推理と歴史的な背景の中にあるストーリー性は、安心感をもって物語の中に入っていけます。そして読み終えた後、事件を解決した浅見光彦のなんとも複雑な心境を、一緒になって味わうことのできる楽しみみたいなものが内田さんの小説をつい読んでしまう要因かと思います。

一緒に時空の世界を旅している気分にしてくれる、そんな一冊です。(99.10.7)

戻る


「怪談の道」

内田 康夫 ・ 角川書店 ・ 評価★★★

浅見光彦シリーズとしてはめずらしい文体となっている今回の「怪談の道」。プロローグは、いつもなら事件の予告を感じさせる書き出しで始まるのですが、読んでいくうちに「あれ?いつもと違う・・」と思ってしまいました。それもそのはずなんと小泉八雲、そうあのラフカディオ・ハーンの「盆おどり」という本の一節が使われているのです。そして小泉八雲といえば「怪談」ですよね。今回のキーワードは、この小泉八雲と岡山県と鳥取県にまたがる人形峠が舞台となっています。

人形峠といえば、日本初のウラン鉱山が発掘されたところ、そのウランと小泉八雲がどこで結びつくかおもしろい発想ですが、このなんにも共通性がないような二つには「怪談の道」というキーワードがぴったし当てはまることがあったのです。

今回のもうひとつの特徴は、浅見光彦自身で解決まで事件を扱っているところです。いつもなら刑事事件としてなんらかの形で警察に協力する、という立場で事件に介入するのですが、最初から最後まで事件解明を一人の手でやっていくという展開はめずらしいことです。

鳥取県倉岡市から、2歳のとき離別した母の遺産を娘に送るという話が舞い込み、その条件に倉岡に受け取りにくるように言われた娘。そこで待っていたものは・・・・。時を同じくルポライター浅見は、動燃の取材依頼を受け岡山から人形峠に向かっていた。その昔放射能汚染に対して抗議デモがあったという過去、その道を八雲も旅をしていたことがあったということが一見無関係のように見えていて実は他殺を裏付ける重要な意味があったのです。

作者は、この小説を「現代の怪談」と称していますが、ハーンを読んだ事のないものにとっては内田さんの意図してるところが理解できませんが(私のことなのですが・・・)、謎解きの旅はしっかりと満喫させていただきました。

でもハーンって、日本人の美意識や情念について、繊細で優しい観察と描写をしたと紹介されていますが、そんなに読むものの胸にしみいってくるようなロマン的物語を書いた人だったのか・・・と思いましたが、きっと読まないだろうな・・・とも同時に感じました。(99.9.16)

戻る


「喪われた道」

内田 康夫 ・ 祥伝社 ・ 評価★★★★

青梅の山中で虚無僧姿の絞殺死体が発見されました。被害者は、会社役員の男性と判明。調査を開始したルポライター・浅見光彦は、尺八の名人であった殺された男性が、かつて暮らした静岡・修善寺由縁の名曲「滝落」を決して吹こうとしなかったことに疑問を抱きます。伊豆へ愛車「ソアラ」を駆った浅見は、事件当時、修繕寺で虚無僧が目撃されていた事実を掴みます。そして男性が死の直前「鎌倉街道から失われた道の意味がわかった」という謎の言葉を残していたことを知りますが・・・。源頼家忌に虚無僧姿で殺された男の謎に迫る名探偵・浅見光彦の修繕寺殺人事件です。

初版が平成3年10月のこの本は、物語の時代が江戸時代から昭和初期、戦中戦後と幅が広く、また虚無僧、尺八と今の時代の人で知っている人がいるかな?という特殊な設定になっています。また隠し金山という一時話題になったテーマが織り込まれ興味をもって読みました。

内田さんの作品の面白さは、「どうしてこんなふうにいろいろ発想ができるんだろう」という意外性と、ストーリーの緻密さ、テンポよく進行する内容にあると思います。でもいつも思うことの一つに、「どうして浅見さんは、登場するヒロインと結ばれないのかな?」ということです。良家のお坊ちゃんタイプで2枚目で頭の回転が良い・・・と言えば、いくら居候の身でマザコンでも女性が黙っていないと思うのは私だけ?

浅見さんがもし結婚でもしたら、もうこの小説は読まなくなるかも知れないけど(嫉妬かな・・・でもきっと又読むと思うけど・・)、もてるのにいつも中途半端に終わってしまうのには物足りなさを感じてしまいます。なんか矛盾しているようですが、浅見さんのファン心理としてはどっちも本当の気持ちなのです。今度一度、浅見さんの彼女という設定の本も読んでみたい気がするのですが、内田さんがどんな女性を登場させるかその時が楽しみでもあります。(99.9.6)

戻る


「斎王の葬列」

内田 康夫 ・ 角川書店 ・ 評価★★★★★

久しぶりに旅情ミステリーの真髄に迫った作品を手にしました。今回の舞台は、三重県の鈴鹿峠一帯から伊勢神宮にかけて、そこに古くから伝わる言い伝えが事件の始まりを知らせていました。

以外と知らないこと、例えばその土地の伝説とか云われとか歴史的背景とか推理小説とはいえ正確に、そしてその中にストーリーをもたせ読み手を知らず知らずのうちに「そうか・・・この土地にはこんなことがあったんだ!」と納得させてしまうのには、影で取材とかその土地の歴史とかいろいろ文献などを調べたりする苦労はあると思うのですが、楽しみながら歴史のそして地理の勉強をさせてもらっているみたいで一石二鳥の感があります。

昔、伊勢神宮は斎王(または斎宮=いつきのみこ)が、天皇に代わって神に仕えるため宮中から派遣された皇女によって守られてきました。その名残が京都の葵祭にありますが、今回の舞台はその斎王が伊勢へ向かう道中宿とした「頓宮」があったとされる土山町で、そこで映画「斎王の葬祭」のロケーション隊から事件がおこるという設定。もちろん浅見光彦の活躍で事件は意外な事実を明らかにして解決しますが、この推理小説に関しては推理を楽しむというより、どちらかといえば歴史的背景に圧倒され読み終えました。

推理にもこういうものがあったんだ・・・と知らしめさせられた一冊でした。

「世にふればまたも越えけり鈴鹿山 昔の今になるにやあるらん  斎宮女御」

「坂は照る照る 鈴鹿は曇る あいの土山雨が降る  鈴鹿馬子唄」

事件をとくキーワードです。一度浅見さんに挑戦してみませんか?(99.8.24)

戻る


「美濃路殺人事件」

内田 康夫 ・ 徳間書店 ・ 評価★★★★

今回の舞台は、愛知県犬山市・明治村、岐阜県美濃市、宮城県白石市。紙漉の和紙が事件の鍵をにぎります。40年前に漉かれた和紙に凶器が包まれて残されていました。その和紙に唯一手がかりをもとめ浅見は岐阜県美濃市から宮城県白石市まで、その和紙の出所を探して奔放します。

また、宝石商の謎の失踪が絡んで、事件を混乱させ名探偵浅見光彦もあせりを隠し切れません。この「美濃路殺人事件」は、戦争時の学童疎開世代の人々を背景に物語が展開していきます。

作家内田康夫さんは、貴重な学童疎開を経験しているためこの物語の随所に記述されている内容は、当時の様子を知るうえでは大変リアリティーにとんで大変な時代だったんだなあ・・・と思う反面今の平和を大切にしたいと思わずにはいられません。しかし、なにしろ小説が推理なもので感傷にひたっているわけにはいきませんが、日本伝統の和紙の紙漉が殺伐としたこの物語を優しく悲しく彩り、そこはかとなく情緒をかもし出している効果はバツグンです。

いながらにして、時空の旅にでられるのは、読み手にとっては楽しいし、そこに浅見さんという連れがいることがうれしくもあり、一緒に事件を解決するような錯覚を覚えるのも内田さんの小説にはまる要素なのかもしれません。

今度は、浅見さんと一緒にどこに旅しょうかな・・・。(99.8.18)

戻る


「『紫の女』殺人事件」

内田 康夫 ・ 徳間書店 ・ 評価★★★★

「私は目撃したのです。父母と私を殺した犯人を!」・・・奇跡にも助かった娘が浅見光彦に救いの手を求めてきます。殺人事件が起こる前、家族は久しぶりの娘の帰郷をワインで祝います。「紫式部に乾杯!」・・・また謎のメモ「浮舟」・・・謎の遺書とともに浅見光彦が、「幽体離脱」「臨死体験」の謎に挑む作品です。

和菓子の世界が舞台になっているが、「源氏物語」をはじめ京都の宇治のお茶等、今回の舞台は静岡県熱海市を中心に仙台、宇治と幅が広いのです。被害者の娘が仙台の東北大学を卒業後仙台の放送局に勤める設定になっています。そういえば同じ名前のアナウンサーいるのですよ。読んでて思わず「あれ?」って思ってしまいました。

この作品は、1日で読んでしまいましたが、事件の流れや犯人、犯行の動機など読んでいくうちにわかってしまうほど推理ファンとしては、内田さんの作品としてはいまいち物足りなさを感じてしまいました。また作品中にご本人(作家・内田康夫)が登場します。賛否両論があるでしょうが、私個人としてはあまり好ましく思っていません。内田さんの計算が入っているとは思うのですが、また浅見光彦の設定上ご自分のキャラクターをそういうふうに書いているのでしょうが、イメージ的に作品の質を落としているような・・・(生意気いってすみません)。

浅見光彦の性格のよさを浮き彫りにする効果をねらっての登場なら、逆効果かな・・と感じます。ご自分を出来の悪い人物として描いていますが、ユーモアセンスととるか悪ふざけととるかは、読者として紙一重の判断です。私はあくまでも浅見さんの推理を読みたいし、内田康夫は決して文中にあるような人とは思いたくない(活字になると怖いもので、そうでなくてもそんな人なのかな・・と思ってしまいます)ので、できるだけ登場してほしくないような・・・。(99.8.9)

戻る


「姫島殺人事件」

内田 康夫 ・ 光文社 ・ 評価★★★

大分県国東半島の先に浮かぶ伝説の島・姫島−この島の実力者の息子が惨殺された。殺された実力者の息子は、島の権利に絡む企てを画策し黒い交遊も噂されていた。しかも彼は死の直前、仕事で姫島を訪れていた浅見光彦を脅迫していた。

さらに米軍基地移転問題を取材中のカメラマンが、水死体で発見される。浅見は、自らの疑惑と二つの死の解明のためふたたび姫島を訪れる。

内田さんの作品は、「プロローグ」と「エピローグ」を使った「方式」が最大の特徴であり、またこれが存外な効果をもたらしています。(「鳥取雛送り殺人事件」「はちまん」を除く)

「プロローグ」は、「謎」の提示をいかに効果的に行うかまた「エピローグ」は読後感の良否を左右するもので、作者がこの作品でなにが言いたかったか、そして登場人物の一人一人の思いを味わう意味でも大きな役割を果たしていると思います。

2〜3ページ読んで、「あれ?この本読んだことある?」と思い本棚にとんでいったのですが、本は無し。もしかして職場で借りて読んだハードカバー本だったのかな・・・?と記憶もあいまい・・・。おかげで「プロローグ」のみで読み終えてしまったという今回の書評でした。

途中で止めたといえば、この本を読み始める前、久しぶりに藤田宜永氏の「転々」を読んでいたのですが、20Pくらい読んで「ジ・エンド」。久々に最後まで読み終えない本に出会ってしまいました。めずらしく本の内容に集中できず、その中に入っていけないのです。仕事が忙しいせいがあるのかもしれませんが、藤田さんの作品は、やっぱり探偵ものがいいな・・・と思わずグチってしまいました。

今度読む本は、最後まで読むようにしないと・・・。活字中毒の人間が活字離れをおこすとストレスになるのでは・・・??と深刻に考えさせられ、読む本は慎重に選択しないといけないと反省させられました。(99.7.27)

戻る


「白鳥殺人事件」

内田 康夫 ・ 光文社 ・ 評価★★★★

「白鳥の・・」―ホテルの床に血文字を書き遺し、ルポ・ライターとして同行した浅見光彦の前で、菓業タイムスの業界紙社長が殺されました。「白鳥」から連想されるのはなになのか・・・。犯人の名前か?死んだ新潟県新津市近くの瓢湖の白鳥か?特急列車「白鳥」か?聞き込みから重大な情報をキャッチした浅見は、大阪から岐阜へと向かう。そこで被害者の不審な足跡を発見しますが・・・。旅と推理が融合する一冊です。

よく―この作品はフィクションで、現実の団体、企業、人物、および現実の事件とは一切関係ありません―という言葉を見ますが、この作品は日本で実際にあった、ある未解決事件を扱っています。読んだ方は、「ああ・・あの事件か」と思いあたる事件ですが、もちろんこの作品はフィクションであり、実際に起こったこととは関係ないと思うのですが、そこに描かれている内容はリアリティーと迫力があり、もし浅見光彦が実在してその推理ぶりを発揮したら、もしかして事件は解決したのではないだろうか・・と思わせるほどです。

この作品の他にも、「藍色回廊殺人事件」は、四国吉野川の第十河口堰の問題を取り上げていますし、内田さんの作品はその折々の事件を何気なく作品に反映させ、そのこと事態に興味のないことでも知らず知らずのうちに問題意識をもってしまうのです。

「推理小説は花も実もある嘘八百だ」といったのは、推理作家三好徹氏ですが、この場合「花」は物語としての面白さを、「実」は展開の理論性やリアリティーを、「嘘八百」は現実を超越したフィクションということだ・・と解説で郷原宏氏(詩人)は言っています。推理小説を読むということは、現実離れした内容ゆえに、読み手を納得させる話の展開や人間模様など、現実にはない「夢」を求めそして現実を実感するために読んでいるようなところがありますが、そんな中で内田さんの作品は「花」も「実」もある本物の推理小説ということが出来ます。(99.7.13)

戻る


「耳なし芳一からの手紙」

内田 康夫 ・ 角川文庫 ・ 評価★★★★ 

今回の事件は長州下関、その下関から新幹線に乗り込んだ男性が突然の死を遂げます。

あとに残されたのは、差出人が“耳なし芳一”からの謎の手紙。偶然車中に居合わせたルポライター浅見光彦は、嫌疑をかけられた漫画家志望の娘池宮果奈と自称ヤクザの高山に救いの手を差し伸べたばかりに事件にかかわるようになります。

死んだ男性が最後に叫んだ言葉の謎と、“耳なし芳一”が企む過去からのメッセージとは・・・。内田さんにはめずらしく、殺人事件という言葉無しの題名です。

平家の怨霊にとりつかれた芳一の物語、戦争という歴史的背景や秘話、登場人物のエピソード等々を織り込んだ今回の小説は、なんといっても「栄枯盛哀」の虚しさを語りかける下関をおいては主役はないようです。

いまに伝える遠い昔の歴史の語りを中心に、漫画家志望の池宮果奈とヤクザの高山が今回は大活躍。浅見光彦の影が薄く感じる二人のキャラクターですが、この一作で姿を消す運命にあるのは惜しい気がします。

このシリーズにはめずらしい設定の流れで進んでいく事件は、意外な結末と謎解きの面白さを残してくれます。(99.6.10)

戻る


「津軽殺人事件」

内田 康夫 ・ 光文社 ・ 評価★★★★★

この小説のキーワードは「太宰治」。

都内のホテルで弘前の古書店主が殺された。殺人現場に残されたメモ“コスモス、無残・・・”の意味するところは?またまた事件にかかわりをもった浅見光彦は津軽へと向かいます。被害者が主宰した「『津軽』を旅する会」に事件の鍵があるとにらみ、そのコースを辿ります。蟹田、金木、五所川原・・・津軽半島を旅情豊かに描く推理小説。

太宰治というと暗いイメージがありますが、この小説もしかり。東北のそれも津軽半島が舞台のこの推理小説は、随所にキーワードである太宰の小説が登場します。

「桜桃忌」くらいしか知らなかったので、改めて太宰は暗いと認識させられた作品でした。そういえば殺人事件に明るさは似合わないか・・・。

この小説のあとがきで、内田康夫さんが、作品についてのコメントをのせていますが、自ら太宰治の暗いイメージが色濃く投影されていると語っています。また作品の題名についての解説も興味をひくところです。「殺人事件」という題にこだわる理由が記されていますが、なるほどと思わせる言い分におもわず納得してしまいました。

皆様もどうか自分で読んでみて欲しいと思います。いままでも内田さんの作品は、裏切られたことがありませんが、今回の「津軽殺人事件」も浅見光彦の魅力、またその土地の特性がふんだんに盛り込まれ、いつしか浅見さんと一緒に太宰の故郷を旅しながら、殺人事件の謎を解いているような錯覚に陥るのは私だけでしょうか・・・。(99.6.3)

戻る


「小樽殺人事件」

内田 康夫 ・ 光文社 ・ 評価★★★★★

旅情ミステリーシリーズ、キーワードは「黒揚羽蝶」。

北海道小樽の取材旅行の途中、偶然に死体の第一発見者となった浅見光彦は、次々に起きる不審な事件に巻き込まれる。死体のそばには死霊の化身と云われる「黒揚羽蝶」が添えられていた。蝶の謎を追い信州・安曇野を訪れるが・・・。

旅と謎へ誘う本格派推理小説です。内田さんの小説は、謎解きのおもしろさは言うまでもありませんが、歴史や風習や伝説、心理トリックを中心にしたスケールの大きな論理と証明のドラマにあります。そして主人公の浅見光彦の性格設定の魅力なんですよね。

どんな作品を読んでも裏切らない内田さんの作品には、そのたびに新しい発見がありいつも物語に引き込まれる不思議なものがあります。自信をもってお薦めします。(99.4.28)

戻る


「藍色回廊殺人事件」

内田 康夫 ・ 講談社 ・ 評価★★★★

「四国のシンボル・吉野川」を舞台に繰り広げられる浅見光彦シリーズの推理小説。

徳島県といえば、なんといっても「阿波踊り」が有名ですが、吉野川の風光明媚な景色も忘れてはならないものです。今回の「藍色回廊」とは、藍染めの町藍住町、吉野川河口の松茂町、そしてうだつで有名な脇町に至る辺りを「藍の道」と銘打ち吉野川中流以降を包括して命名された「阿波歴史文化回廊構想」を題材に物語が展開していきます。

12年前「殺される」というメッセージを残し徳島・祖谷渓で起きた殺人事件が、いま徳島県の吉野川河口堰建設計画に絡む住民論争の渦に巻き込まれた浅見が計画の経緯を遡るうちに殺人事件の接点に気づいて・・・。

いつもながら浅見光彦の推理が冴える長編ものですが、その長さを感じさせない出来映えの一冊です。(99.4.23)

戻る


「幸福の手紙」

内田 康夫 ・ 新潮社 ・ 評価★★★★

「不幸の手紙」が事件の始まりだった。手紙を受けとった雑誌編集者の周辺で続々事件が起こり「不幸の手紙」を送りつけたとおぼしき人物までも殺された・・・・。浅見光彦は「半分の馬」という言葉に事件の核心を嗅ぎつけ、北海道へと急いだ。ご存知「浅見光彦」が活躍する旅情ミステリー。

ただの謎解きではなく作品全体を覆いあるいは貫いているロマンがなければならないーという作者のスタンスが生かされている一冊です。

本格的推理小説とは、謎解きや騙しの仕掛けのあくなき提示でなければならないというなら、この小説はある意味では本格的とは言わないかもしれませんが、読み手をとりこにしてやまない「浅見光彦」のキャラクターを含め、まさに王道をいく推理物です。(99.4.7)

戻る